第26話 残った物が真実
運動部のかけ声が聞こえる。綾瀬真麻が出ていったあと、どのくらいこうしていただろうか。
相談部のソファーに腰掛けて、奥苗春希は考えるのをやめて焦点も定めずにただ呼吸を繰り返した。考えないという選択は、問題を先送りにしているだけで、結局は逃げているだけだとわかってはいたが、奥苗の脳みそは結論を自らの手で証明することに尻込みしていた。
「でも、もう下着が全部盗まれちゃってるし、あとの祭りだよね」
不意に比空がそうぽつりと漏らした。
比空の顔は嬉しそうでも悲しそうでも悔しそうでもなく、ただ何かを諦めているような面持ちだった。
「比空はどうしたいんだ?」奥苗は訊ねる。
「わたしはそもそも被害者を増やさないことが目的だったよ。これ以上悲しい思いや、怖い思いをする人がでてこないように犯人を見つけたかった。けど、全部の犯行が終わって、これ以上犯人が何もしないっていうんだったら、犯人をつかまえるというか、断定するというか、そういうことをする必要があるのか正直わかんない」
それは比空望実の正直な気持ちなのだろう。
奥苗は自分の感情を探ってみた。自分はどうしたいのだろう。そもそもなぜ犯人を捜そうと思ったんだ。綾瀬に相談されたからか。それともこれ以上被害者を増やしたくないという気持ちからか。
細く長い息を吐き出す。
違う。比空が傷つけられたから、そいつを許すことができなくて、それで犯人を見つけてやろうと思ったんだ。犯人は、比空の下着だけじゃなく、制服も切り裂いた。それまでの下着を切り裂いていた事件の犯行動機はわからないが、比空の制服を切った理由は比空を恐れさせるためだ。その動機を許すことはできない。
それに、まだ終わっていない。
「まだ全部の下着が切られたわけじゃないぞ」
「えっ? どうして? もう七つ全部被害にあってるよ?」
「いや、もう一つ残ってる」
そう。残っているのだ。それがわかっているのだから、やはりとめなければならないだろう。
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