第24話

今福誠治の鞄の中身を確認したのは奥苗春希、比空望実、作延好道の三人。作延はすぐに先生に言いに行くと言ったが、その行為を奥苗は留めた。もう少しだけ時間をくれと言うと、作延は納得してその場を立ち去った。

 今福の鞄の中にあったTバックの残骸はすべて回収して相談部に持ってきた。

 同じ日の放課後。相談部の部室で奥苗春希と比空望実は向かい合っていた。

「わたしは今福くんが犯人だと思う」比空はそう宣言する。「だって、これだけの証拠が揃ってたらそうとしか考えられないよ」

 奥苗は比空が回収した作延美世の下着を見る。

「これ、念のため被ってみてくれるか」

「いいけど、意味ないと思うよ」

 比空はテーブルに置いてあった犬の絵がプリントされた下着を頭に被せた。比空の能力が発動される。奥苗はその光景を黙って見ていた。

「どうだ?」

 十分な時間をおいて奥苗は訊ねる。

「うん……やっぱり残ってる記憶は今福くんのものだけだね」

「そうか」

 今福誠治が犯人なんだろうか。そうだとするなら、今福誠治が言った、下着を本人のロッカーに届けたという発言は嘘でもなんでもなく、自分がした犯行を素直に教えてくれていたのだろうか。犯人ならそんなことをする必要があるのか。

「納得できないって様子だね」

「だいたい作延の妹の説明がそもそも納得できてねーんだよ。盗まれた状況もわかんなかったくせに、なんで今福が盗んだことはわかってんだよ。おかしいだろ。それに今福が盗んだとするなら、どうやって盗んだんだよ? 作延の妹はプールの時間中じゃねーって言うし、ほんとに歩いてたら突然剥ぎ取られたっていうのか?」

「それはないと思うけど、でも美世ちゃんの下着に残ってた記憶は今福くんだけのものだよ? どうやって盗んだのかわからないけど、それは本人に訊けばわかるんじゃないかな?」

 奥苗はソファーの背もたれに寄りかかって天井を仰ぐ。

「そうだよな。やっぱ、直接聞くしかねーよな」

 扉をノックする音。

「あの。入っていいっすか?」

 その声に驚いたように比空は奥苗を見る。

「呼んだんだよ。本人に訊かねーとすっきりしねーからな」

 中に入ってきたのは五階の隅のトイレに住んでいるかのごとくいつも常駐している今福誠治だった。奥苗は比空の隣に移動する。奥苗たちと向かいあうように今福は腰を下ろした。

 今福は入ってくるなり視線をきょろきょろと彷徨わせている。落ち着きがない様子だ。

 今福本人にも鞄の中からTバックが出てきたことを教えていない。もし仮に今福が犯人だとしたら、盗んだはずの下着がなくなっていて内心穏やかではないはずだ。

「おい。大丈夫か?」

 あまりに今福がそわそわしているので奥苗は訊ねた。

「あっ、はい。大丈夫っす。なんか入ったことなかったんで、ちょっと驚いてて」

「訊きたいことがあんだけどいいか?」

「はい。俺がわかることならいいっすよ」

「いつもって何時くらいに学校来てんだ?」

「えっと、だいたい門が開いてすぐです」

「はえーな。用事でもあんのか?」

「いや、ただ単にその時間なら人も少ないんで」

 どうやらクラスメイトとあまり顔を合わせたくないようだ。

「そんで、教室に鞄置いてトイレに籠もってんだろ?」

「まあ、はい。そうっすね」

「なんであんな五階の隅のトイレ掃除してんだ?」

「あそこのトイレあんまり人が来ないですし、それに、そんぐらいしか俺にできることってないっすから」

 今福は寂しそうな笑顔をみせた。

「綾瀬真麻のブルマと、作延美世の動物柄の下着だけど、トイレに落ちてたから本人のロッカーに戻したってことだよな?」

「はあ、そうっすけど」今福は下を向いた。「まずかったっすかね?」

「嘘じゃないよな?」

「ほんとっす」

 今福は怯えたように視線を落としている。

「鍵とかはどうしたんだ?」

「ロッカーのっすか? それなら、順番に一から調べてったっすけど」

 嘘を言っているようには見えない。確かに授業に出ていない今福誠治なら鍵の番号を調べるぐらいの時間は有り余っているだろう。

「お前、二人の下着盗んだわけじゃねーよな?」

「ええ、俺がっすか?」今福は冗談っぽく笑ったが、奥苗と比空が真剣なのを見てすぐに表情を変えた。「俺、そんなことしたと思われてるんっすか?」

 奥苗は黙っている。それを肯定と受け取ったのか、今福の顔が青ざめた。

「俺、そんなことしてないっす」

 今福は絞り出すようにそう答えた。

「……そっか。わかった」

「もう、帰っていいっすか?」

「おう」

 今福は頭を下げて相談部から出ていった。

 奥苗と比空は二人っきりになる。

「わたし、今福くんがやったって思えなくなってきた」

「そうだよなー」

 あんなに弱々しい態度を見せられたら、なかなか疑うことが難しい。

 しばらく黙っていたら、再びドアが叩かれた。

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