先輩、異世界では性別変わるんすか?



 チリンチリン。


後輩「お疲れース」


田中「あ。お疲れさまです」


後輩「あれ。どうしたの? なんか顔色悪いじゃん」


田中「いえ、ちょっと……」


後輩「あ。もしかして先輩からなにかされた?」


田中「い、いえ。そういうことじゃないんですけど……」


後輩「じゃあ、またゲーム手伝ってって頼まれたとか?」


田中「ええっと、なにかされたとかじゃないんです……」


後輩「どういうこと?」


田中「いま休憩で裏のほうにいらっしゃるんで、見てもらったほうが早いと思うんですけど」


後輩「?」


 ガチャッ。


後輩「お疲れース」


先輩「うふ。お疲れさまですわ」


 きゃるんっ。


後輩「…………」


先輩「どうしたのですわ」


後輩「ハッ。あ、いえ。あまりのことに気を失ってました」


先輩「それは失礼な殿方ですこと。わたくしぷんぷんですわよ」


後輩「なんすか、その人気投票下位のお嬢様キャラみたいなしゃべりかた」


先輩「おま、違えし! どっからどう見ても淑女だろ」


後輩「あ。やっぱ先輩でしたか。変なもん食って人格変わったのかと思っちゃいました」


先輩「当たり前えだろ」


後輩「じゃあ、どうしたんすかそれ。ばっちりメイクまで決めちゃって、マジでモンスターかなんかだと思っちゃいましたよ」


先輩「おまえ、マジ失礼なやつだよな」


後輩「いえ、誰でもそうだと思うんですけど」


先輩「いやさ、おれ思ったわけ。やっぱ異世界転生するなら、立派な淑女目指さなきゃいけねえよなって」


後輩「すんません。ちょっとなに言ってるかわかんねえっす」


先輩「ほらさ、異世界に転生して性別変わるってあるらしいじゃん?」


後輩「あー。そういえばそんなのありましたね」


先輩「ま、おれも転生したらそうなっちゃうかもしれねえからさ。いまから練習しといて損はねえよなって」


後輩「まあ、可能性はあるっすよね」


先輩「それに女になったらさ、自然と女が寄ってくるだろ? もう毎日がハーレムじゃね? わざわざ男で苦労してハーレムつくるより楽じゃね?」


後輩「まあ、先輩がそれでいいならいいんすけど……」


先輩「あー。でも女になったらどうしようかなあ。あいつら、楽そうでいいよな」


後輩「どういう意味っすか?」


先輩「いやさ、ほら。男と違って戦わなくていいしさ。貴族の娘になっちゃえば、好き勝手に遊んでいられるんだろ?」


後輩「そんな簡単なもんじゃねえと思いますけど」


先輩「おいおい、そりゃ女だって苦労してるとは思うよ? でもさ、男に比べりゃ大したもんじゃないっしょ」


後輩「そっすか? すげえ大変だと思うんすけど」


先輩「なにが?」


後輩「まず先輩、生理の処理とかやり方知ってるんすか?」


先輩「え……。だってそれ、ドラッグストアで……」


後輩「そもそも異世界って生理用品あるんすかね?」


先輩「はい嘘ー。いつものあれだろ? おれ脅かそうとしてんだろ? おまえほんと性格悪ぃよなあ」


後輩「なんでっすか?」


先輩「だっておまえ、異世界で女になって戻ってきたやつのインタビューとか、そういうこと言ってねえじゃん?」


後輩「それ、当たり前すぎて言ってないだけじゃないっすか?」


先輩「そ、そんなきつくねえだろ?」


後輩「先輩。この前、口内炎できて死ぬほど痛えって騒いでましたよね」


先輩「言ってたけど」


後輩「あれの千倍辛えっすよ」


先輩「……マジで?」


後輩「前の彼女がそう言ってました」


先輩「…………」


後輩「先輩。それにさっき、戦わなくていいから楽って言ってましたよね?」


先輩「お、おう」


後輩「女性の異世界転生って、男とちょっとシステム違うみたいなんすよ」


先輩「え。どゆこと?」


後輩「いや、転生自体はいっしょなんすけど、送られる候補先が違うっていうか。簡単に言うと、男が送られる世界と女性が送られる世界って違うらしいっすね」


先輩「みんないっしょじゃねえの?」


後輩「例外もあるらしいっすけど、ほとんど違うらみたいっすね。なんか需要と供給の問題らしいっすけど」


先輩「そうなの?」


後輩「勇者を求めてる世界に女の子放り込んでも失敗する確率高くなるだけですもん。それと同じで、悪役令嬢を求めてる世界に男が行っても辛いだけっすよね」


先輩「なにそれ、聞きたくなかったわー。もっと夢を見してほしかったわー」


後輩「先輩。さんざん異世界転生は辛いことばっかりだって話してきたじゃないっすか。まだ甘いこと考えてるんすか?」


先輩「いやさあ、やっぱこんな現実よりも楽しいことがあってほしいじゃん? 映画化されたやつみたいにさ、貧乏だけど楽しい仲間たちのおかげで充実してるわーとかさ」


後輩「それ、こっちでも大して変わらなくないですか?」


先輩「違えし。あ、わかった。おまえってば、女神さまに誘われたことねえからってひがんでんだろ? そうだったかー。いやあ、わかっちゃったわー。これからはちゃんと優しくしてやるからさ、ほらねんなよ」


後輩「先輩。マジうぜえっす」


先輩「ひどくない? ねえ、ひどくない?」


後輩「ひどくねえっすよ。それより先輩、貴族のお嬢さんに転生するんだったら、ひとつ大事なこと忘れてねえっすか?」


先輩「え。まだなんかあんの?」


後輩「女性になるってことは、男と結婚させられるってことっすよ?」


先輩「え……」


後輩「あ。やっぱ忘れてましたね」


先輩「い、いやいや。だって女になってるんだから、どうにかなるんじゃないの?」


後輩「男の記憶持ったままなんすよ? おれだったら絶対いやですもん」


先輩「あ。おれ思いついちゃった。だったら結婚しなくてよくね? 貴族って金持ちなんだから、親のすねかじってても問題ないっしょ」


後輩「金持ちだからこそ、世間体の問題でニートの娘をいつまでも家には置いとけないんじゃないっすかね」


先輩「…………」


後輩「先輩。それでも女性が楽だって言うなら止めないっすけど」


先輩「……やっぱさ、ありのままの自分がいちばんだよな」


後輩「そっすね」


 シュボッ。


後輩「ところで、先輩。どうしてまた女性になりたいとか思っちゃったんすか?」


先輩「いや、べつに?」


後輩「……あぁ、先週、レディースウィークでしたもんね。女性はお買い物ポイント十倍でしたっけ?」


先輩「ち、違えし。そんなんで羨ましいとか思ってねえし」


後輩「先輩。十倍っつっても、二百円買ってもせいぜい十ポイントっすよ?」


先輩「…………」


後輩「ま、そのうちメンズウィークも来ますよ」


先輩「そうなあ」



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