第28話 勇者がやられた!

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



「小姫。勇者グリーンがやられた」

「(ゴクリ)そ、そのよう……ですわね」


 母上の部屋は和室だ。障子のむこう側に二人がいる。

 オレと小姫は隣りあって、伏せ状態で部屋の中の様子をうかがっていた。


 うすい障子ごしに衣擦れの、なまなましい音がする。



「やっ やらぁ あっ ああっ」



 あえぎ声……。

 おっ、おわぁ……。間違いない。グリーンの声だ……。


 クッ。間に合わなかったか。


「わたくしだけで来なくて、ほんとうによかった……」驚愕しながらも、どこか安堵の表情をうかべている小姫。


 すでに開戦プレイしていた。クリック……いや『震撃のグリーンブルーファンタジア』は、きほんスマホでプレイするソシャゲー。このばあいは、グリーンがタップされていた。と表すのが適切だろう。タップもフリックもスワイプもされ放題だ。きっとダブルタップもスクラブもされている。ピンチインもピンチアウトまで……されられれれ――


「おにいさま。おにいさま」オレの肩を揺らす小姫。心配そうにオレの顔をのぞきこんでいる。


「……あっ、ああ。ごめん小姫。すこし意識がとんでいた」


 予想できたこととはいえ、じっさいにやってしまっているとは。


 母上ェ……。


 そこはうまく回避してほしかった。回避すべきでしょ! うまく寸止めでお茶を濁しとくのが大人ってもんでしょうが! ……や、やっちゃったら、ぜんぶ、そこでお終いでしょうがっ! マジで、どうすんですかこれから! ノンストレスですか? 初日でエンディングですかっ! この先、白神家はどうなっていくんですか!



「あっ ああっ そこはダメです そんなだめ そんなところ きたないです うあ ご主人様ぁああ!!」



「「!? ご、ご、ご主人様!?」」


 オレと顔を見合わせる小姫。やはりそこは……すでに主従関係が生まれていたか。母上はどうみてもS。グリーンはリアクション全般からMだろう。ミドリムシのMと覚えれば、かんたんだね。妙になっとくしてしまった。


「そ、って……、どんなところなのでしょうか?」

「それは、たぶん……って、とてもじゃないけどオレの口からは、いえない! オレにきかないで!」


 グリーンのに関して、モヤモヤとしたものが頭にうかぶ。ブンブンと振り払う。



「んあっ くる ま またきます

 ふぁああっ! イクっ! またイクっ!!!!」



「「!? ま、まま、また!?」」


 だったか……。しかもイッちゃったか……。母上は、朝までグリブるっていってたから、まだまだ続くのだろう。これって何度目なのだろう。そしてこれから朝までに、何度くり返されるのだろう……って、そんなことはいまはどうでもいい!


「あ、あの。おにいさま……」オレのシャツをつまむ小姫。

「!? なっ、なにかな小姫!」声が上ずった。


「どうします? これから。わたしたちは……どうしますか? お兄さまはどうしたいですか?」耳のさきまで赤くした小姫がそんなことをいう。ちょ、瞳を潤ませないで! あとモジモジしないで小姫! ヘンだぞ小姫! そんな様子されたら、オレまでへんな気分になるから!


「た、たすけるべきかな? ……こういうときって」

 オレの問いに、首を横にフルフルさせる小姫。しなやかな黒髪がゆれる。カオの距離が近いだけに、脳の奥にちょくせつとどくような髪の香りにクラッとくる。やっぱ綺麗だよな小姫。妹じゃなかっ……い、いかん。動揺している。じつの妹に……どうかしてるぞオレ。


「いろいろと、もう手遅れなようです。残念ですが……」

「う、うん……」

「とりあえず、わたくしたちはお兄さまの部屋にもどりましょう」

「そう、だね」

「愛の形にはいろいろあるんですね。そう……いろいろあっていい。フェニ子に教わった気がします……見習わないと」なにやら決意を秘めた表情で小姫。気になることをつぶやいているけど……。


 そんなやりとりがあって、しずかに去ろうとしたとき――



「ふぁああああああああああああっ!! おにいちゃん!!」



「「!? !? !? お、おおお、おにいちゃん!?」」


 ひときわ高くひびいたグリーンの嬌声。オレの方に驚愕の視線をおくってくる小姫。い、いや! オレは小姫のお兄ちゃんだけど……って、意味がわからない! なんだ? おにいちゃんて! ご主人様っておにいちゃん? 母上の他に誰かいるのか? えっ? え? どういうこと?



「しゅごい しゅごいいい うあ゛ッ あたしのイキお〇んこに

 総統閣下のお〇んぽミルクを そそいでっ たくさんの熱い白濁液を そそいでえええ!!!!」



「うぉい! そそげないでしょ! ないでしょ母上ェ!! なにそそいでるの! グリーンになにそそいじゃってんのォ!!!!!!」


 思わずオレは、障子をスパーンと開けて、絶叫してしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る