第27話 勇者を救おう(できれば)

 オレはじぶんの部屋に戻っていた。

 グリーンに粉砕されてしまったスマホを新調すべく、PCの電源をいれて『Numazonヌマゾン』で吟味していた。いい機会だから、このさい格安SIMにしようとおもう。もう少しで2年縛りが解けるところだったからちょうどいい。無駄な出費だけど、目の前で起きたが壊されたことに比べれば、スマホぐらい些細なことだと思えた。

 ……グリーン・バーミンガム……。おそろしい子。


WEIWEIウィンウィンにするか、FREEREIフリーレイにするか……」


 新しいスマホ機種をWEIWEIにするかFREEREIにするかで迷っている。コストを考えると断然後者だが……。

 しかしグリブルを快適にプレイすることを考えると、性能もあるていどは欲しい。そうすれば前者か……。

 でもオレ的にはFREEREIの水墨画タッチの竹があしらわれた、みやびな壁紙イメージの機種が心に引っかかっている。この機種。さらにオプションで、バックカバーを職人手作りの銀箔塗りバージョンから選択できるという。こうなると、もはや性能とか吹っ飛んでしまって、デザインだけで選んでしまってもいいのかもしれない。おそるべしデザイン性。かっこいいは正義だ。持っていてテンションがちがってくるし。そうなると強化ガラスのフィルムも必須だな……。でも、グリーンの握力の前だと無意味そうだけど……。って、グリーンか……。そういえば、いまどうしてるかな……あいつ。

 ふと、あたまの片隅でグリーンの顔が頭をちらついた。別れるとき不安そうだったな……。母上お酒はいってたし。いつものように添い寝だけで終わるとおもうけど……。たぶん、だいじょうぶだとおもうけど……。

 でも、グリーンのことだいぶ気に入ってたからな……。そろそろ様子をみにいこうかな……。でも何かあったら超気まずいし……。


 ――コンコン。


 ひかえめに叩かれたドアの音。

 オレはグリーンが帰ってきたのかと注視する。


「あの……お兄さま。私です。いいですか?」


 叩かれたドアの音にあわせて、その声量もちいさいものだった。声の主は妹の小姫だ。


「どうぞ。空いているよ」


「あの……すいません。こちらに来てくださいませんか?」遠慮がちにどうしたのだろう? そんなことをいう小姫。しかたないのでオレはPCから離れて小姫のもとへと向かう。ドアをひらいてやると、首だけをオレの部屋に入れ、キョロキョロと様子を確認している。何してるのだろう? 誰もいないことを確認すると――


「……よかった」


 そんなつぶやきを漏らし、安心したといった表情をみせる小姫。


「どうかした?」


「グリーンさんとは……その、まだはやいと思うんです! たしかに綺麗な方ですが、それだけでは白神の家には相応しくはないとおもいます! そもそも白神家は神である『白起』を管理するという、崇高な使命を帯びた選ばれし者なのですよ! お兄さま聞いてください! 私は思うんです。これからは積極的に力を行使していくべきだって。いまこそ、有史以来の人類の悲願を果たすのです! 世界に溢れる不平等・貧困・紛争それらを根絶するのですよ! それこそが力をもった者の義務なのだと――」


 パジャマ姿で拳をグーにして熱く語る小姫。うん……いろいろと、なにをいっているんだろう? 夜だからか変なテンションになっているのかな。


「それよりも小姫! ちょうどいいところにきた。お願いがあるんだ!」

 

「そうして、神である『白起』の力を以て、私達兄妹がいずれ世界を統べるのです――って、お願い!? あの……お兄さま。おカオがちかい……です」


「……あのさ、母上の部屋に行って様子をみてきてほしいんだ」


「私がフェニ子の部屋に? 言葉の意味を計りかねますが……」


「……いや、小姫が部屋に戻っちゃった後、母上がお酒飲んじゃってさ。グリーンを強引に連れていっちゃったんだよ。……いや、オレは止めたんだけど」


 ごめん。止めてない。なんか勢いで行かせちゃった……。


「え? グリーンさんをフェニ子の元に遣ったんですか?」


「だからさ……その、間違いがおきないように。……両者の合意があるなら構わないのかもしれないけど……。でも気になってさ……こういうときは、女の子同士の方が、なにかといいんじゃないかと思って」


「……って、グリーンさんはお兄さまの……。お相手じゃないのですか……」


「違うから! 母上のせいで変な誤解をしているみたいだけど、グリーンとは何でもないから! ほんと、ただの知り合いだから!」


「そうなのですか? ほんとうに?」


「本当だ。マジで他人。むしろリアルでは今日はじめて会った」うそはいっていない。ゲームのなか、グリブルのなかでは毎日会っていたけど……。


「よかった……あの方は異様にお綺麗なかたですけど、ちょっと頭がおか……いえ、変わった方のようなので……」


「ちょっと……な」


「そうですね……ちょっと……」すこし恐怖の影がうかんだ。グリーンは小姫の心に鮮烈デビューを果たしたようだ。さすがに『勇者砲』は、やり過ぎたか……。


「そういうわけで、母上の部屋にいってほしい」


「い、嫌ですよ! そんな役目!!」


「だって、何かあったらとおもうとさ、気になるじゃん。様子だけでいいからさ……」


「それだったら、お兄さまもきてください!」


「いや、オレ。忙しいから……。『Numazon』でスマホを注文しないといけないからさ……クリックするのが、いそがしくて」


「『Numazon』て! そんなのいつでもできるじゃないですか! はやくいきますよ! いまこの時にも、クリックされている子がいるかもしれないんですよ!」 


「嫌だよ! シーツにくるまった涙目のグリーンとかみたくないよ! それならまだいいけど。泣きはらした目だったらどうするよ! そんな目なのに『だいじょうぶだよ……ハクト』なんて、笑顔を浮かべられたらオレいたたまれないよ!」


「めっちゃ想像できているじゃないですか! そんな状況だったら、なおさら私だけじゃ無理ですから! はやくいかないと!」 


「そ、そうだな。とりあえず聞き耳をたてよう。衣擦れの音とかへんな声とかしたら、……手遅れだから、黙って去ろう」


「(コクコク)ですわね……」

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