第22話

 綺麗なフローリングに血の混じった唾が吐き出された。少し黒ずんだ赤はゆっくりと広がっていく。


「で? そんなもんですか?」

「.....は? まだまだこっからだから」


 厚すぎず薄すぎるわけでもない、整った形をしている唇がぱっくりと割れている。楚歌は口に鉄の味を感じていた。


 楚歌と干支では明らかに喰らっているダメージが違う。


 右がノースリーブのカンフー服を着ている楚歌だが、そこから見える二の腕が赤く腫れ上がり、若干血がにじんでいる。髪の毛も少し乱れてボサボサだ。


 対する干支はほとんど傷がない。ただ、強いて言うなら左手がピンク色に腫れているくらいだ。


 ほとんど無傷である。


 楚歌と干支が戦い始めて二十分。ひたすらに二人は殴り合い続けた。摩耗会の門下生は固唾を飲んでそれを見守ることしかできなかった。


「アンタの『特性』、外的がいてき特性なのか」楚歌は言う。


「さぁ? そんな事を言うアナタは内的ないてき特性のようですね」


「そんなの言うわけないでしょ? 馬鹿じゃないの」

「その言葉、そのまま送り返しますよ」


 表情全てで人を侮蔑する様な笑み。気味が悪く腹ただしい笑顔が楚歌に寒気を与えた。


「道場破りさん、アナタは動きが雑なんですよ。ロクに防御もせずに全ての集中力を攻撃に注いでいるという印象です」



「まるで、攻撃が当たっても大丈夫、みたいに言っているように聞こえてならないんです」


「何の根拠もない、それよりも私の方がアンタの力が分かった」

「へぇ、教えてくださいよ」


 楚歌と干支の会話は門下生からしたら意味の分からないものだった。功夫クンフーを使えない人間からしたら専門用語の論になっているはずだ。


 ただ、単純明快なのは二人とも強い。しかし、干支の方がおしている。


「アンタの『特性』は功夫クンフーの消去、でしょ?」

「...なるほど。流石にタダ者じゃないようですね。普通はパニックになって倒れていくのですが.....」

「アンタが言ってた事の意味が分かっただけ。功夫クンフーを使える事は長所じゃなくて短所、そうでしょ?」


 干支は急に笑い出した。


「ハハハハ!!!!!! で!? 分かったことろでという事ですよ。見た所、アナタは特性に頼った戦闘スタイル。私とは相性が悪過ぎる」


「関係ないわよ.....」


 楚歌は話しながらも頭をフル回転させる。何とか干支と距離を取り、作戦を練らなくては、と考える。


「考えさせませんよ?」


 干支は功夫クンフーで強化した脚力で五メートルはあった距離を一歩で詰める。ウサギが跳ねるように軽々と跳躍した。





「ちょっと待ちやがれぇぇぇ!!!!!!」






 楚歌と干支は戦闘態勢を解いた。


 道場の入口にいたのは、黒いカンフー服の青年と顔に絆創膏が貼ってある少年。


 太陽に背を向けて二人が黒いシルエットのようになっている。


「アンタ.....何しに来たの?」


「わりぃ、事情が変わった。『道場破り』に来た」

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