第21話

「師範代は絶対にオイラ達の決闘を断らない。例え借金全てをチャラにする金を賭けたとしても受けて立つ」

「負けるとどうかなるのか?」

「何もないよ。今まで通りが続くだけ」

「そんならずっと決闘し続ければいつか勝てるだろ? つーか門下生全員でかかれば倒せるはず」

「勝てない。あの人は強過ぎる」


 壮が遮るように言う。


「それに実力のある門下生は幹部になって借金がなくなって金を稼ぐ必要がなくなる」

「『月例大会』で勝った奴が幹部になんのか?」

「場合にもよるけど、それが多いよ」


 理は頭を掻き毟る。なんと声をかければいいのか分からない。思いついた解決策はことごとく通じない。やるせない感情を抱くことしか。


「これ以上母ちゃんに迷惑かけられない。だからオイラには金が要るんだ.....」


 その時、理の頭にある言葉がよぎる。


「『道場破り』.....」周りに聞こえるか聞こえないか微妙な大きさで呟く。

「『道場破り』?」

「決めた。今回は特別だ」


 理は壮の目を見る。彼は嘘をついていない。彼が語ってきたのは紛れもない真実だ。


 苦しんで、もがいて、彼はこうして生きている。


 理は許せなかった。自分にとって道場は家のようなもの。そんな居場所が壮にとっては地獄になっている。


 彼はただカンフーをしたかっただけなのだ。


「おい、壮。俺を摩耗会まで案内しろ。『道場破り』してやる」

「な、何であんちゃんがそんな事するんだよ!」

「道場ってのはもっとあったかい場所なんだ。ガキに涙を流させる場所じゃねぇ」



「そんな所、俺がぶっ潰してやる」


 楚歌の話によると師範代は皆、人間の限界を引き出す力である功夫クンフーを使うことが出来る。


 功夫クンフーを使えない理が勝てる相手ではない。


 しかし、理は黙って見過ごせなかった。それだけは出来なかったのだ。

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