第18話

「ったく、一発食らっただけでこんなになるんだったら決闘なんて言うなっての」


 理は壮をおんぶして燃龍館の道場まで運んだ。壮はぐったりと道場の床に座り込んでいる。幸い理は体を鍛えているので大した疲れはない。


 壮は未だに理の一撃が効いている様子で体をさすっている。


「か、勝てるなんて思ってなかったよ.....。でも、それでもオイラは」

「ほれ、取りあえず茶でも飲め」

「あ、ありがとう」


 壮はキツツキのように口を尖らせて出されたお茶を飲む。理も立ちながら自分の分を飲む。


「で? なんでお前は喧嘩売ってきたんだ?」

「金が必要だったんだ」

「お前ん家そこまで貧乏なのか?」

 

 壮は少し口ごもる。


「確かにオイラの家は貧乏だけど、今日は道場の『月例大会』があるんだ」

「『月例大会』?」


 理が聞き返したのには理由がある。


 理が『月例大会』というものを知らなかったという訳では無い。『月例大会』とは基本的にどこの道場でも開かれている道場内の小さな大会のことである。紅白戦みたいなものだ。


 かく言う燃龍館も『月例大会』をしている。この大会を一つの目標として門下生は精進している。


 理が分からなかったのは『月例大会』と金の関係である。


 普通、『月例大会』に出るのに金は必要ない。そこの道場の門下生であれば無条件で参加可能な筈だ。


 それを踏まえて理は壮に聞き返したのである。


「オイラの道場は『月例大会』に参加費が必要なんだ」

「変わった道場だな。普通、道場に月謝は払うけど、『月例大会』でってのはよくわかんねぇな」

「オイラの道場は普通じゃないんだ」荘は俯く。光の角度で顔に付いた擦り傷や、打撲が目立つ。とても痛々しい。


「その参加費ってのはいくらくらいなんだよ?」

「五万円」

「五万円か.....ハァ!?!?!?」


 理は後ろに大きく飛び退く。


「うちの道場でも月謝2000円くらいだぞ!? どうなってんだそりゃ!」

「でも、もう逃げ出せないんだ」

「つ、つーかそんな金のかかる大会なら出なきゃいいだろ? 休めばいいじゃねーか。参加しなきゃ参加費は要らない、そうだろ?」

「違う。出ないと『退会するチャンス』が掴めないし、棄権費を一万円払わなきゃならない」


 退会するチャンスという言葉にとてつもない違和感を感じる。


「どこだよ。そんな意味の分からん道場は.....」


 壮はお茶を飲みきり、道場の床にそれをそっと置く。


「『摩耗会』って道場だよ」

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