第8話

「じゃ、里霧りむから行くね! ピュウウーーー!!!!」


 理の周りを囲んでいる四人の女のうち、ピンク色のカンフー服を着たツインテールの少女が足を前に出した。彼女の特攻を見て理は不思議に思った。


 ――遅い。


 先ほどまで戦闘をしていた茶髪の女と比べてスピードがかなり遅い。先陣を切ってくるほどの実力ではないように見える。ただ、平均的な女子よりも速いのは確かであるが、謎の力である功夫クンフーを使っているにしては動きが鈍い。


 もしかすると茶髪は強かったのかもしれない。故に、ツインテールの少女が見劣りしているのだ。


 理は自分よりも明らかに年下の少女と交戦するのを躊躇った。強敵ならば全身全霊をかけてぶつかることができるのだが、この場合は違う。自分よりも弱いと確信した。


「これでも喰らえ!」


 どのように対応するべきか考えている間にツインテールの少女は理の眼前にまで迫っていた。しかし、理は焦らない。十分に見切れる攻撃であると判断したからである。


 少女のか細い腕が理の頬めがけて飛んでくる。それを理は完璧に目で捉え、左手で拳の軌道を変えて自分に当たらない角度に受け流した。理は功夫クンフーは使えずとも、体術はかなりの実力を有している。彼に一発を入れるというのは至難の業であるのだ。


 パンチを受け流されたことによって隙だらけの少女。理は最小限の力でダメージで鎮圧できるように手を広げて、手のひらで攻撃せんとした。



 掌底。



 確実に彼女の脇腹を目がけて繰り出した掌底。アバラにめり込んだ。しかし、



「どーんまい。『もう効かないよ』」


 理の攻撃を意にも介さずに少女は自分の腕に触れている理の手を離さない。


「なん……だ? 力が」


 全身を襲う脱力感。少女の攻撃を受け流そうとした時、彼女に触れた。その瞬間から疲労感がこみ上げてきた。


「はーい、あとは誰かやっちゃってー!!!!」


 少女はその小さな体では到底不可能な怪力を見せる。腕一本でぐったりとしている理を持ち上げて、軽々と投げたのだ。まるで野球のボールを投げるかのように飛ばされた理を待ち受けていたのはカンフー服を羽織ったミイラだった。


「次は俺だ」


 ミイラは背負っているいくつもある武器のうちから棍棒を握りしめ首の骨を鳴らした。


 空中にいる理はどうすることもできない。どんどんと近づいてくるミイラとの距離。


 この刹那の間に自分ができることを必死に考えた。

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