第6話

功夫クンフーも知らずに喧嘩売るとか頭おかしいんじゃない?」

「クンフーはカンフーのことじゃねーのか」

「アンタの言ってるクンフーと、私の言ってる功夫(クンフー)は全く違う」

「じゃあなんなんだよ! そのクンフーってのは!」


 女はため息をつく。


「教える義理がない。ま、雑魚から看板とろうとかダサい事は考えてないから、本当の師範代が帰ってきたらまた来るよ」


「ふざけんじゃねぇ。俺は雑魚じゃねぇし、まだやれる」


 理は力の入らない足に無理やり力を入れて立ち上がる。膝に手をついたまま大きく息を吸って吐く。


 ――多分、あの女は普通の人間じゃねぇ。だから親父も闘うなって言ったんだ。


「これ以上やったらマジに死ぬけどいいの?」

「死なねぇよ」


 口の中が切れて話す度に痛みが走る。頬は流れた血が固まったのか動かしづらい。


功夫クンフーが使えないんなら.....」

「関係ねぇんだよ! テメェが強かろうが俺が弱かろうが関係がねぇ! お前が俺の前に立ちはだかっている時点で、お前に俺は勝たなくちゃならねぇ!」



「俺は強くなって師範代になるんだ!」



「やっぱアンタ、師範代じゃないんじゃん。ま、それもそうか、功夫(クンフー)知らない時点で師範代のわけがない.....からね!」


 女は走り出す。止めを刺そうと決めたのだろう。


 理は集中した。全身の力を抜いて女を見据える。ありえないスピードだ。功夫クンフーという未知の力を使っているのだろう。


 でも、それがどうした。


 理は拳を握り締め、最も力を伝えられる構えをとる。


 女と拳が交わるまでは刹那であった。体術では自分の方が上。理は分かっていた。


 理は女の鉄拳を華麗に避け、自分の一撃を女の顔面に入れた。


 振り抜かれた拳に女は明らかによろめき、膝をついた。


 理には状況が理解出来なかった。先まで全く効かなかった自分の攻撃が今になって効いた。特段、変わったことをしたわけでもない。


 女は切れた唇を指で触りながら呟く。



「コイツ今、功夫クンフーを?」

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