Develop 6

 Re-17は強制シャットダウンがようやく解除され、目を覚ました。目に飛び込んできたのは、いつもとやや違う天井。そして、五感機能が感じ取る違和感。いつもとやや違う部屋の香りと自身の包み込む柔らかなもの。微かに感じられるいつもとやや違う物音。

 ───ここは何処だ?

 今日の朝、入鹿と学習訓練をした後、榎宮麗紅を探し、やっと見つけた時に、予備バッテリーも切れ、強制シャットダウンになって榎宮麗紅を目の前にして、倒れた。全て記憶能力機能内に蓄積されている。

 ゆっくりと上体を起こすと、Re-17は誰かのベットの中にいた。

「目が覚めましたか」

 横から麗紅が声を掛ける。

 ここは、麗紅の部屋で倒れた自分をベットに寝かせてくれたのだとRe-17は直ぐに推測出来た。

「あ、あの、僕・・・・・・」

「博美さんから貴方のことは聞きました」

 麗紅は作り笑いを向ける。

「先生が?」

「はい、開発チームの方でここずっと徹夜続きだったと聞いています」

「・・・・・・は?」

 情報処理が上手く出来ず、感情と連動して間抜けな声が出る。

「どうぞ、お水を」

 麗紅が持ってきた水をRe-17に差し出す。しかし、Re-17がそれを飲めるわけもなく、ただ飲むこともなくその水を受け取る。

「やっぱり、大変ですか、開発チームって」

「ま、まあ、大変だと思います」

「若いのに凄いですね。何歳なんですか」

「と、とりあえず、17歳で設定されています」

「えっ、本当に若いんですね。私と同じ年齢なのに、この歳で開発チームの研究員をされてるって凄いですね」

 彼女は凄く大きな勘違いをしている、とRe-17は確信した。

「あの、勘違いをされているようなので、言いますが、僕、研究員じゃないんです」

「・・・・・・え?」

 Re-17に代わって、今度は麗紅が間抜けな声を出す。博美の言っていた話と違うのだから仕方がない。

「僕、ロボットなんです」

「・・・・・・は?」

 麗紅は更に間抜けな声を出すことしか出来なかった。

 Re-17は自分が博美に作られた人工知能ロボットだということや、開発チームの協力者である麗紅のことを知ったこと、そして、麗紅を探していた時にバッテリーが切れてしまったことを話した。麗紅は数分の間、唸り、やっと理解することが出来た。有り得ないと思うことも起こり得る可能性がある。それがこの研究所なのだ。

「・・・・・・道理で、貴方を運ぶ時見た目以上に重いと思ったんです」

「迷惑かけてすみません」

 麗紅は「冗談」と言って笑った。でも、本当は凄く重かっただろう。Re-17自体、鉄の塊のようなものだ。Re-17は麗紅の優しさを感じた。

 Re-17はベットから出ると、椅子のない部屋で二人してベットの上に座った。

「左の手脚・・・義肢ぎしですか」

 Re-17が麗紅の左手脚に目をやる。麗紅は困り笑いをして頷いた。

「数年前、事故で」

「あ、そうなんですか・・・」

 いけないことを聞いてしまったとロボットながらに人工知能が信号を出した。

「両親もこの手脚と一緒に失いました。ここに来たのは叔父の紹介でした。叔父が研究員で。またこの手脚が自由に動かせると思って」

「それで、開発チームに」

 麗紅が頷く。

「丁度、新しいプロジェクトを考えているようで、それで」

「プロジェクト?」

「【完全サイボーク化計画】。知りませんか?」

 Re-17は聞いたことがなかった。麗紅が突然口を塞ぐ。

「すみません、これ、言ったら駄目なやつでした。このこと、誰にも言わないでください」

 麗紅が額に手を当て溜息を吐く。

「どうしてだろう。私、こんないつもは話す方じゃないんですよ? 何ででしょうかね。同い年だからでしょうか。親が亡くなってから、人のこんなに話すなんて初めてです」

 麗紅が照れ笑いを向ける。Re-17はそう言ってくれることが嬉しかった。

「僕で良ければいつでも話し相手になりますよ」

 Re-17は自分の言葉に麗紅と共に驚いた。無意識に出た言葉だった。

「いいんですか?」

「僕、ロボットだし。研究員に話せないこともいっぱいあるだろうし。話しやすいなら尚更なおさら

 麗紅は少しだけ俯いて、「じゃあ、お願いします」と言って顔を上げた。少し顔が紅潮していた。

「顔、赤いですけど大丈夫ですか?」

 麗紅が直ぐに頬を手で覆う。

「あ、いや、ここに来て、初めてのその・・・友達だから」

「友達───」

 以前、入鹿が友達について教えてくれたことがある。入鹿は「一緒にいて楽しい奴とか、親しい奴のことだ」と言っていた。

 ───一緒にいて、楽しいのか。

 次第に顔が熱く感じられた。麗紅がRe-17の顔を見て笑う。

「ロボットでも、あるんですね。顔、真っ赤ですよ」

 Re-17にとって初めての指摘だった。今まで、顔が紅潮したことなんてなかったのに。

「僕も作られてから、その、友達って言ってもらうの初めて、というか、友達が出来ること自体初めてなので・・・だからでしょうか。とても嬉しくて顔が熱いです」

 二人して更に顔を赤らめて、お互いに「これからよろしくお願いします」と丁寧に会釈をした。

「あ、名前聞いてませんでした。あの、名前はありますか」

「Re-17って呼ばれてます」

「Re-17。呼びにくいですね」

「まあ、製造番号ですから仕方ないです」

 麗紅が唇に指を当てて少し考え込む。

「・・・・・・じゃあ、レイセってどうですか」

「レイセ?」

「Re-17の語呂合わせで。セは7のセブンからとって。それで、レイセ」

「レイセ・・・・・・」

 初めて感覚だった。製造番号じゃなく、名前を付けられたら、こんなに嬉しいのか。

「凄く、嬉しいです」

「良かった。あ、私のことは麗紅って呼んでもらって結構です」

 麗紅がRe-17に微笑む。素敵な笑顔だ。

「あ、じゃあ、僕はこれで。早く帰らないと先生に怒られる」

 体内に内蔵された時計を確認し、ベットから立ち上がる。

「あっ、あの。博美さんは、レイセが私に用があるようだって言っていたんですけど」

 博美の話を思い出し、麗紅がドアノブに手を掛けるRe-17を止める。「ああ」とRe-17は声を漏らし、振り返って麗紅を見る。

「麗紅に会いたかったから」

 Re-17は麗紅に微笑み、「また来ます」と手を振り、ドアを閉めた。


 To be continued……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る