「06話 『取り調べから解放されて』」

 取調室で何度も何度も同じ質問を繰り返された。

 数時間で解放されたが、そのせいでかなり辟易した。

 証言に矛盾がでてこいないかを調べるためだったのだろうか。

 質問する人間。

 調書をとる人間。

 扉の外で待機する人間。

 三人の憲兵にずっと見張られ、神経が磨り減った。

 ドッと疲れを感じて、憲兵所を出ると、

「あっ、グレイスさん! 大丈夫でしたか!?」

 壁にもたれかかっていたミライが、寄ってくる。

 元気になったようには見えるが、まだ目元が腫れている。

 眼球には亀裂のような赤い線が入っているし、ただの空元気にしか見えない。

「大丈夫です。それより……そっちこそ大丈夫でしたか?」

「だい……じょうぶじゃないですよ。正直言うと大丈夫じゃないですけど、葬式とか、親戚への連絡とか、それにこれからの生活とか、やることが多すぎて……」

「それだけじゃなくて、ミライのこととかですよ……。大丈夫ですか!? 精神的にまいっていないですか?」

 強引に肩をゆする。

 無理をし過ぎると、本当に心が壊れてしまう。

「わ、私……もう、どうしていいのか……。お父さんもお母さんも殺されて……」

 ポタッ、とミライの瞳から涙がこぼれる。

「殺されて?」

「同じなんです……」

「……同じって?」

 ミライは濡れた瞳で、


「お父さんもお母さんも、斬られた後に、全身を焼かれて殺されたんです」


 震える声を絞り出した。

「そん、な……」

 母親まで、同じ殺された方を……?

「あ、ありえないんですっ! だけど、五年前の事件と同じ手口だったんです……。ありえない……ありえないはずなのに、怖いんです。――もしかしたら、あの時の犯人が本当は生きているんじゃないかってっ……! 事故で死んだはずなのに……実は生き返ったんじゃないかってっ!!」

「そ、そんなことあるわけないですよ! 死んだ人間が生き返るなんて、そんなこと……」

 バタンッ! と壁の影となっているところから物音がする。

 書類を落とした音だ。

「あっ!」

 影に寄り掛かって見つからないようにしていたのは、サクリ。

 どうやら、盗み聞きをしていたようだ。

「……憲兵団の人……!? どうしたんですか?」

「す、すいません。立ち聞きするつもりはなくてですね……」

 いくらなんでも、プライバシーぐらい守って欲しい。

「僕にはもうお話することはありませんけど?」

「そ、そうじゃないんです! 今回の事件のことじゃなくて……」

 サクリがあたふたとしながらも、何か大事なものを伝えようとしている。

「わ、私。なんだか嫌な予感がするんです……。尊敬できるプリズン大佐がいつもと違うんですよ……。なんだか……先輩がどこかに行ってしまいそうで……」

 プリズンのことが本当に心配なのだろう。

 被害者家族と必要以上に接触するのは、憲兵団としては厳禁。

 新人で、落ちこぼれに見える彼女も、それは百も承知のはず。

 それでも尊敬する先輩のことが気になってしょうがないのだろう。

 そんな彼女に心動かされたのか、ミライが、

「…………どこかでお話ししませんか? どこか、ゆっくりできる場所で……」

「えっ!? で、でも……」

「分かる気がするんです。プリズンさんが躍起になって今度の事件の真犯人を突き止めようとしてくれるのが……」

 ミライがそういうのならば、こちらも協力しよう。

「だったら、僕の家に来ませんか?」

「え?」

「何にもないところですけどね。それに、ミライの泊まる場所のあてがなければ、うちに来てもいいですよ」

「そ、そんな、い、いきなりっ!」

 遠慮するのも無理はないが、せめてこのぐらいはさせて欲しい。

「いきなりじゃないですよ。五年前からの仲です。遠慮せず、住む場所が見つかるまで、家にいてください。もちろん、僕に手伝えることがあれば手伝ますよ。それに、すぐ手伝えるように、僕の近くにいてもらった方が何かと都合がいいですし……」

 ミライのことを守りたい。

 そのためにも、ミライには目の届くところにいて欲しいのだ。

「ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします」

「……うん、よろしく」

 微妙に変な言い回しをしながら、深々と腰を曲げるミライ。

 それを見やったサクリが、

「わ、私本当に行っていいんですよね?」

「い、いいんですっ! 全然いいんですっ!」

 それに、と前置きすると、

「グレイスさんには、お話したいこともありますから……」

「お話したいこと?」

 ミライは重々しい口調で打ち明ける。

「プリズンさんが、私のお父さんと組んで、五年前の事件の担当をしていた時のことを」

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