30 うさぎとかめ・あじさい①・あじさい②

【うさぎとかめ】


「ふたりで[うさぎとかめ]を演じるとしたら、どっちがどっちでしょう?」

 唐突な独り言です。

 メイドさんは昔話がお好きです。


「五月様はよくおさサボりになるので、うさぎですかねぇ……」

 メイドさん、五月先生に聞かれたらまた叱られますよ。


「いえ、見た目からしたら、わたくしが可愛いうさぎさんです」

 あー、さいですか。

「でも、負けるのはイヤですし……」


 五月先生、隠れて聞いてました。

 メイドさんに聞こえないようにささやきます。

「お前はサボるかめだろ」

 ですね。




【あじさい①】


 五月先生、あじさいの鉢植えをいただいてきました。

 きれいな赤紫の花が咲いています。


 その数日後のこと。

「鉢植えしおれちゃったです……」

 縁側の前に置いていたら、暑さでぐったりしてしまいました。


「わたくしの世話が足りなかったのでございますね……」

 そんなことないですよ、メイドさん。

「早くお庭に植え替えて差し上げれいれば、こんなことには……」

 メイドさん、めちゃくちゃ落ち込んでいます。


「ごめんなさい、あじさいさん……」

 とうとう泣き出してしまいました。




【あじさい②】


 縁側で半べそのメイドさんです。

 心配して、五月先生が声をかけます。

「メイド、どうしたんだ?」


「五月様ぁ、あじさいが……」

 メイドさん、しおれたあじさいを指差します。

「そんなにしょげることはない」

「へ?」

「たっぷり水をあげれば……」

「ほぇ?」


 しばらくすると……。

「ほれ、この通り!」

 首をあげて、また生き生きと咲きました。


「は〜、あじさいさんよかったですぅ〜」

「お庭デビューさせてあげような」

「あい」

 よかったですね、メイドさん。

 あじさいさんも。

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