運命師

古和泉 夜雲

第1話 運命師

彼は気づいた。

ただひたすらに歩いてきた道の背後には何もなかったことを。

己が無力だったことを。

守りたいものができたことを。

彼は強くならなければならない。

未来を変える

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 彼、東雲 しののめ とおるは現在高校2生である。見た目は普通だし、運動がずば抜けてるわけでもなければ、頭がよくキレるというわけでもない。そんな彼は学校に登校している最中だ。

 春はやっぱりちょうどよくていい…なんて思っていたら

 「おっす、徹!お前はいつもぼんやりしてんな!」

 彼の友人こと中嶋 浩介なかじま こうすけは1年の頃から何となくつるんでいる。腐れ縁と言うやつだろうか…

 「別にぼんやりはしてないさ。」

 嘘ではない。考え事をしていたのだ断じてぼーっとしていたわけではない。

 中嶋と他愛ない話をしているうちに学校に着いた。

 「はーっ、今日も長い一日が始まるな。まっ、がんばろうぜ!」

 (…中嶋は相変わらず元気だな)。

 教室に入ると相変わらず騒がしい。

 学校のチャイムが鳴った。 

 少し遅れて教師が入ってくる。

 後ろには見知らぬ女の子がいた。

 「それでは、転校生を紹介します。」 

 「有明 鈴音ありあけ すずねです。これからよろしくお願いします。」 

 彼女は緊張した様子であった。

 「じゃあ、席はあそこにしてもらおうかな。」

 教師が指定した場所は徹の隣であった。

 彼女の回りにはたくさんの人が集まっていた。転校生特有のものだった。

 徹はそれを尻目に屋上に行く。

 嗚呼、今日は本当によい天気だ。

 しばらくしてから徹が教室に戻ると、どうやら彼女はたくさんの人だかりから解放されたようでぐったりとしていた。

 「大丈夫ですか?有明さん?」

 徹は声をかける。

 「全然」

 鈴音の声からは疲労が伝わってくる。少しの沈黙のあと

 「ところで君は?」

 沈黙が苦しくなったのか名前を聞いてきた。

 「東雲 徹です。」 

 「ふーん、そっか。」

 どうでも良さそうな反応であった。

 「君は私のことについて聞かないんだね。他の人はたくさん聞いてきたのに。」

 鈴音は気になったのかそんなことを言ってきた。

 「これから知っていけばいいかなと思ったので。」

 徹はあまり過去には興味がなかった。

 チャイムが鳴りみんなが席につく。

 今日の授業を消化していく。

 最後の授業が終わり、徹は帰り支度を始めていた。

 中嶋が徹のもとに来る。

 「今日、どっかよってくか?」

 「いや、今日は用事があるからすぐ帰るよ。」

 「そっか、じゃあまた明日な!」 

 「おう、また明日」

 そうして、校舎を出たところで話しかけられる。

 「じゃあね、徹くん」

 鈴音だった。

 「あと、敬語じゃなくていいからね!」

 なぜか、笑ってしまった。

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 家に帰ると着替えて外に出る。

 少し歩いていると目当ての物が見つかったらしい。

 気付かれないよう後ろをつける。

 だんだんと街灯が少なくなっていく。

 人気のないところでそれは本性を表した。

 ベリベリと音をたてて表面の皮が剥がれていく不気味な人形である。

 この人形の動力は魔力だ。所有者が動かしているのだろう。理由はわからないが。

 徹も魔法使いである。しかし、それは隠さなければならないことであった。

 「魔法を一般人の前で放置しておくわけにはいかない。」

 徹はタロットカードを使う魔法使いであった。

 彼は魔術師のカードを使う。

 魔術師はあらゆる才能を意味する。

 徹の限界を引き出していく。

 「ウルズ!」

 続いて身体能力を向上させるルーンをかける。

 瞬間、徹はものすごい早さで人形との距離を詰め顔を殴り付ける。

 人形はメキメキと音をたてて破壊されていく。

 反撃と言わんばかりに、人形は呪詛を使ってくる。

 「アルジズ!」

 徹は呪詛を跳ね返し、蹴りを入れて胴体を粉砕する。

 「終わったか。」

 人形が動かなくなったことを確かめると、

 「カノ!」

 人形は炎に包まれて跡形もなくなる。

 「今日もこれで終わりだな。」

 そう呟くと、徹は自宅に戻っていった。


 徹の家系は昔から魔法使いだった。

 と言っても何百年か前に西洋からきた魔法使いの血が混じったからであって、魔法使いの家系になったのは(他の家系に比べれば)つい最近のことだった。だから徹はタロットとルーンを使う。

 そもそも日本が発祥の魔法使いがいるのかすら不明であった。陰陽師とかその辺なのだろうか…

 徹は家に帰るとすぐ寝てしまう。

 普通に学校に行き、たまに一般人の前で魔法を使う者を消し、帰って寝る。徹の生活サイクルはこんなものであった。

 「なんか眠そうだな。昨日は夜更かしでもしたのか~?」

 呑気に話しかけてくる中嶋

 「まー、そんなとこ。」

 適当に誤魔化す。

 「まったく、若いもんがだるそうにしてんなよ!」

 「わかったわかった。」

 やはり、適当に流す。

 このようなやりとりは毎日のようにしていたが、うんざりすることはなくどこか小気味良いものだった。

 そのやり取りをじっと見つめる瞳が二つ、鈴音だった。

 「徹と中嶋くんはなかがいいよね~」

 「そんなことないよ」

 「ひでぇ」

 「ひどいね」

 「いってろ」

 「あはは、怒んないでよ~」

 



 

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