第40話

 九州大会が終わってからの練習は、いつもより気合の入ったものになっていた。三年生の佳祐と龍生は特にだ。実はレスリングで三年生の出られる大会はほかの部活より多く、二学期まである。それでも今年までということに変わりはない。


「良いところまでは行った。だがそれだけだ」


 佳祐は去年は全国で個人戦はベスト8まで行った。かなりいい成績を残すことは出来た。だが一位になることは出来なかった。


 今年も良いところ止まりで終わるつもりか?と自分に問いかける。


 九州大会三位。周りからは良くやったと言われる成績だ。だが満足できない。どうせやるなら、頂点を目指すべきだと佳祐は考えている。


 試合が終わった後は明るく振舞った。後輩にもいつも通り接したし、マネージャーをいつも通り茶化したりもした。


 だが一たび試合のことを思い出すと悔しさが込み上げてきた。団体戦も個人戦も準決勝止まり。


 団体戦は勝つことが出来たがチームのメンバーの勝ち数が足りなかった。個人戦はあともう少しのところでポイント負けだった。一セットは取ることが出来ていたのにだ。


「絶対に一位を取る。高校生活が終わるまでにだ」


 佳祐は目に闘志を宿らせる。


 ____________________________


 九州大会、龍生は個人戦はベスト8だった。負けた相手は全国で二位になったことがある相手だった。


 負けた後、悔しさはあったが意外と冷静でいられた。主将という立場のおかげか、周りをまとめないといけないという意識があったせいもある。


 周りからはあまり悔しくなさそうに見えただろう。実際悔しさよりも別の考えが頭をよぎったからだ。相手が強かったというせいもあるが、全国二位の相手が戦ってみてそう遠くない相手に思えたのだ。


 悔しかったが、全国で上にいけるビジョンが見えた気がした。そのために、何を磨けば良いかが少しだけ見えた気がする。


 今はそれを実行に移して練習している。レスリングはこうじゃないといけないという考えを捨てろ。それが動きの硬さにつながる。その考えを捨てきれれば、おのずと道は見えてくる。


 そして幸い練習に磨きをかけることが出来るイベントが、この先待っていた。

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