はやぶささんとうすださん――JAXA臼田宇宙空間観測所

「では問題です。日本国内にあるパラボラアンテナで一番大きいのは、国立天文台野辺山の直径四十五メートル望遠鏡である。マルかバツか」

 いきなり十和ちゃんがクイズを出してきた。

「え? えーっと、マル」

「残念! 答えはバツです」

 そう言うと十和ちゃんはインターネットで何かを検索して、どこかのサイトを表示した。

「じゃじゃーん。同じく長野県の、臼田うすだ宇宙空間観測所。このアンテナの直径は、何と六十四メートル!」

「ろくじゅうよん?」

 四十五メートルでも大きさがピンと来ないのに、もっと大きいと言われても、ますますピンと来ないなぁ。それにしても。

「国立天文台って、いっぱいアンテナ持ってるんだね」

「んにゃ、これは宇宙研。ていうか、JAXAジャクサ

「じゃくさ? 国立天文台と違うの?」

「別物だよ。JAXAってのは二十一世紀になってから、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団の三つがくっついてできたんだよね」

「……いろいろ、くっつくんだね。天文台も、くっついてたし」

 ○○銀行と××銀行が合併して□□銀行、みたいな図が脳裏に浮かぶ。

「航空ナントカはまぁ、飛行機だよね。で、宇宙開発事業団ってのはH-IIAロケットで、気象衛星とか放送衛星とか、割と実用的な人工衛星を打ち上げる。一方、宇宙科学研究所はM-Vロケットで、惑星探査機とか、研究目的な衛星を打ち上げてたんだけど」

 画面上のアンテナを指さす。

「臼田は、宇宙研が、宇宙探査機との通信をする目的で造ったアンテナなんだよ。遠くまで飛んでいく探査機と電波の送受信をするから、大口径が必要なのかな? 電波望遠鏡としても使えるけどね。望遠鏡専用アンテナとしては、やっぱ野辺山が国内最大」

 アンテナの使用目的も、いろいろあるらしい。

「タンサキって、どういうの?」

「最近だったら、『はやぶさ』(注2)が有名だね。小惑星イトカワまで飛んでって、一度通信が止まって消息不明になっちゃったんだけど、そのあと『はやぶさ』からの弱い信号を発見したのもこのアンテナ」

「へぇー」

 やっぱり、大きいのはすごいんだなぁ。

「十和ちゃんは、ここは行ったことあるの?」

「あるけど、野辺山から車で連れてってもらったから、行き方わかんないな。最寄駅はJR小海線の臼田なんだけど、車がないと、駅からタクシー三十分とかになるらしい。帰りも」

「あー、タクシーにずっと待っててもらうか、帰る時間にまた呼ぶしかないってこと?」

「そういうこと。野辺山・臼田間はJRで一時間くらいなんだけどね。野辺山で救急車呼んだ人が臼田の総合病院に搬送されたときは、乗ってから四十五分で着いたらしいよ」

「救急車で四十五分……」

 それ、いろいろ大丈夫なんだろうか。


「では、また問題です。世界で一番大きい電波望遠鏡は、直径何メートルでしょう?」

「え?」

 十和ちゃんが、またクイズを出してきた。国内最大のアンテナで六十四メートルなんだから、えーっと、えーっと。

「……百メートルくらい?」

「可動式アンテナなら、正解。固定式アンテナなら、答えは約、三百メートル」

「さんびゃく!?」

 何かもう、数字がスケール大き過ぎてワケわからない。

「プエルトリコのアレシボ天文台の望遠鏡が世界最大。天然の地形を利用して作った望遠鏡だから、向きは変えられなくて、アンテナの上を通る天体を狙って観測するんだ。SF小説の『2010年宇宙の旅』にも出てくるよ」

 十和ちゃんがまたインターネットで検索して、クレーターみたいなアンテナの写真を見せてくれたので、〝向きは変えられない〟というのは何となく納得した。

「可動式、動かせるアンテナなら、アメリカのグリーンバンクとドイツのエフェルスベルクが直径百メートル級だね。見たことないけど。外国のアンテナで見たことあるの、モプラとパークスだけだわ」

「モプラは、十和ちゃんが去年行ったオーストラリアでしょ? パークスってのは?」

「それもオーストラリア。去年、シドニー空港から国内便でパークスに飛んで、パークスの町の中でレンタカー借りて、モプラまで行ったんだよ。帰りはその逆コースなんだけど、教授が車返す前に寄り道して、パークスのアンテナが見えるところまで連れてってくれた」

 十和ちゃんのパソコンの中に入っている、オーストラリア観測旅行の写真を見せてもらう。モプラのアンテナが直径二十二メートル。パークスのアンテナが六十四メートルなのだそうだけど。

「これ……六十四メートル?」

 写真の画像の短い辺の十分の一くらいしかない、豆粒みたいな白い丸。一緒に写っている人の頭よりも小さい。

「これは、あたしの腕のせいじゃない。レンタカー返す時間が迫ってて、ここまでしか近づく暇がなかったのが悪いんだ!」

と、十和ちゃんは憤慨した。



(注2)小惑星探査機「はやぶさ」は、2010年に地球に帰還しました。作中の2007年春時点では、「はやぶさ」はまだイトカワ付近にいます。オレンジゼリーさんによる『探査機はやぶささん』という漫画に、うすださんが登場します。

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