第8話髪型2

 世の中にはショートヘアが似合わない人、という方がいますが。

 反対に、ショートヘアしか似合わない、という人もいるのですよ。

 それがこの私です。


 ロングヘアが似合わない。

 ロングでも髪をまとめるとまだ大丈夫なのですが。ショートヘアみたいになりますから。常にまとめていたら似合うとはいえますが。

(それだとロングの意味がねーじゃねーか!)


「ねえ、似合わないよ」「幸、薄そうに見える」「ショートに戻しなって」


 髪を伸ばしてみようかな、とちょっとでも伸ばすと周囲からこの言葉の嵐。

 自分でもそう思いますので、もう十年くらいショートヘアのままですわ。(そして黒髪)




 ショートが似合うし、手入れもラクだし、と思っていた私がですね。

 ヨコハマに居た時、あるお店を見つけたのです。


「ショートヘア専門店 70、80代女性にご贔屓にしてもらってます。若い女性もどうぞ!」


 記憶ではこんな看板。


 ショートヘア専門? こいつは上手そうだ!

 そう思ってすぐにお店に飛び込みました。


 店内はザ・六十年代のようなサイケな内装。時計仕掛けのオレンジ、を思い出しました。

 マスターはオネエさん系のドン〇西さん、というような感じです。


 さぞやオサレなショートにしてくれるかしら、とドキドキ期待した私ですが。

 椅子に座った私がマスターからもらった言葉は意外や意外。


「あなた、ロングにしなさい」


 なんですと?


「あなた、襟足の生え癖、逆毛だから。ショートヘアは襟足の髪が首に沿うのがかっこいいのにそれができないから。逆毛の人はロングにして髪をアップにするときれいなのよ。それに背が高いのに、もったいない。ロングが似合うのは背が高い人の特権なのに。そして、男はね、髪が長い女が好きだから。絶対に髪が長い女が好きなんだから」


 怒涛のようにこう言われました。


 ロングヘアは男性ウケ良し、というのはよく聞きますし、いろんな記事に出ていますね。

(女性が長い髪をばっさばっさ振り乱してるのを見上げるのが男性の醍醐味、とかね。男性になったつもりで私も想像してみましたが確かにショートヘアだと迫力が大幅減)


 マスターは、更に私に説き伏せます。


「あなた、絶対、ロングヘアが似合うから。僕を信じて、騙されたと思って三ヶ月伸ばしてみて」


 ここまで言われたら、マスターも本気だな、と思うじゃないですか。伸ばしてみようか、とその気になるじゃないですか。


 その場は、髪を伸ばすのに収まりが良いようにカットしてもらって終わりました。


 それから三ヶ月間。

 私は耐えました。


 髪をショートヘアから伸ばす時、というのは一番うっとおしい時であります。

 髪がまとめられないので、長髪より暑苦しく、邪魔。

 折しも時期は夏場。

 何度もカットしたくなる誘惑を乗り越え、私は耐え続けましたよ。


 それから念願の三ヶ月後。

 私はワクワクとして、再び店に赴きました。

 さあ、どんな素敵な髪型にしてくれるのだと思ってね。


 椅子に座り、私の髪をチョキチョキし始めたマスター。

 期待に満ちた目で彼を見つめていると、マスターはふいに手を止め、なんと私にこう言ったのです。


「ごめんなさい。僕が悪かったわ。……あなた、やっぱり、ショートが似合う」



 ん・もうーー!!

 やっぱり、そうでしょう!!!


(暑さに耐えた私の夏、なんだったの)



 *****




 それ以来、ショートヘア道を貫くと決めた私なのでした。







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