第2話 仏

マイフェイバリット仏像は何ですか、と突然訊かれて、貴方は何と答えるだろうか。

たぶん、ほとんどの人が「はぁ?」と思うだろう。

もしも東大寺の何とか、三十三間堂の、建長寺の、建仁寺の、広隆寺の、と、有名な寺院でも構わない、何かパッと出てきたら、貴方は仏像好きに間違いない、というのは言うまでもない。

もしかしたら地元の大寺院や、菩提寺の仏像の名前が出てくる人もいるかもしれない。

いやいや私は神像の方が好きとか、自分はクリスチャンだから、という人もいるだろう。

だが、まぁ、ここではマイフェイバリット仏像の話である。


私のマイフェイバリット仏像は、鎌倉の極楽寺の釈迦如来像だ。

江ノ電極楽寺駅を降りると極楽寺はすぐ目の前に見えるが、実際に門をくぐるには少し遠回りする必要がある。

門をくぐれば本堂までは一直線だが、マイフェイバリット仏像の釈迦如来像は本堂には安置されていない。

ではどこにあるか。

釈迦如来像は宝物館に安置されており、ポスターなどならともかく、直に見られる期間は限られている。

私の場合は、恩師のコネと、もちろん拝観可能な期間に突撃した。

ちなみに拝観可能な期間であっても雨が降ったら閉館しているので、かなり運任せな拝観である。


さて、極楽寺の釈迦如来像は、鎌倉時代の清凉寺式釈迦如来像である。

などと言っても、何のことか分かりにくいだろう。

つまり、写実的な仏像が多く作られた時期の釈迦如来像と言える。

清凉寺式、と言うだけあり、京都の清凉寺の釈迦如来像の作り方を手本としている。

そして、同じような仏像は全国各地にある。

それならなぜ、清凉寺のものではなく極楽寺の釈迦如来を私がマイフェイバリット仏像に選んだのか。

極楽寺の釈迦如来は、どこか凛とした雰囲気があるのだ。

釈迦如来像は柔らかい雰囲気のものが多いと私は感じていたし、清凉寺式の仏像はいつも異国情緒を感じるのだが、極楽寺の釈迦如来像はあまり異国情緒的なものを感じない。

かなり、日本的だと思う。

そして、優しげという感じではなく、力強いと言うのとも何か違う、凛としてすっとした印象がある。

一言で言えば、「一生ついていきます!」と思った。

他にも美しい仏像や圧倒的な技術を感じる仏像はたくさん見てきたが、何故か一生ついていきたいと思った仏像は極楽寺の釈迦如来像が初めてだった。

見ているだけで心が凪ぐ。

しかも、見る角度によって感じるものが違う。

これは、ぜひ実物を見て感じてほしいものだと思う。


貴方のマイフェイバリット仏像は何ですか。

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