第24話 できれば隠しておきたくて。After

 今日はとてもいい一日でした。


 鷹箸さんの眼差しから感じた「前向きな決意のようなもの」に、わたしは、鷹箸さんにとっての幸せが芽生えるきっかけを垣間見た気がするのです。だから、今日はとっても良い日なのです。


 わたしに出来ることなど、所詮は力添え。物事を解決するだけの才はない、と心得てもいますし、わたしはわたしを、思うほど過信していないのです。


 最寄りのバス停からバスに乗り、乗り継いで、現在の居宅であるアパートの一室に帰っていきます。すっかり夕暮れ。時計を見ると、時刻はまだ十七時。心地よく冷たい十二月のこの空気は好きなのですが、太陽が早く沈んでしまう点に関してだけは、物悲しさを禁じ得ません。


 美しい景色であることは間違いなく、沁み入る橙色が温かみで溢れたものであることに、些かの疑問もありません。ですがやはり、寂しさは否定出来ないのです。一日が終わってしまう、と視覚で捉える瞬間が、この夕暮れ時だからなのでしょうか。


 バスから車窓を眺めていると、夕映えの町が時間の経過と共に薄暗くなってきました。幸せな一日が、跫音一つさせずにやって来る夜に押し出されて消えてしまいそうな気がして、心が締め付けられる思いです。


 今日が終われば、明日がやってきます。人は、現在と未来に思いを馳せて日々を生きるべき生き物でもありますから、わたしも明日に並々ならぬ期待と希望を抱いていることは確かなのですが、その為に今日を終えなければいけない現実に、いつもわたしは肩を落としてしまいます。


 抗えないことは当然分かっていますから、感傷に浸ってせいぜい。この胸のざわつきも、日々を生きるのには必要なピースなのだと諦めました。


 日常を過ごす町に帰って来ると、すっかり周囲は真っ暗で、家家から零れる僅かな灯りと、真下を白くするのがやっとの街灯があるのみ。心許なさは否めません。


 玄関の鍵を開け、自宅に入り、郵便受けを確認すると、そこには封筒がありました。


 切手が貼られていません。どなたかが直接入れたということなのでしょうか。鷹箸さんから頂いた封筒はお仏壇にお供えておきましたから、当然、こんな所にある筈はありません。ガスの定期点検は先日行ったばかりですし、そもそも管理会社からの連絡はいつもコピー紙に印刷されたものが一枚入れられているという簡素なものですから、わざわざ封筒に入れていることはありません。


 となると、わたしには心当たりがないのですが。


 首を傾げつつ、暗い室内で中の紙を取り出してみると……そこには――。

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