第7話 夢みたいな時間。


ついにこの日がやってきた。


慣れないヒール靴、丈の短い花柄のワンピース、髪型はハーフアップ。


綾ちゃんに習って少し化粧をし、眼鏡をやめてコンタクトにした。


変じゃないかな。


高宮くん、こういうの好きかな。


ドキドキしながら私は駅まで向かう。


デートなんてした事なかったから。


しかも大好きな人と二人になるなんて。


わっ!


高宮くん、もう来てる。


高宮くんは黒の麻のシャツの下にボーダーのカットソーを着て、下はジーンズを履いている。


胸元にはキーリングデザインのネックレスが。


「桜木、おはよう」


「た、高宮くん!おはよう。ごめん、待たせちゃった?」


かっこいい!!


私服の高宮くんだ!


「いや、今来たとこだ」


「良かったぁ」


「桜木」


「ん?」


「いつもと雰囲気違う」


「や、やっぱり変かな!?」


「良いな。可愛い」


か、可愛い!?


「あ、ありがとう!高宮くんも私服おしゃれだね」


「ありがとう」


「なんだよ!?あの雰囲気!」


「みっちゃんの好感度が上がったわね、今ので」


ん?


なんか誰かに見られてる気が。


気のせいかな?


「桜木、行こ」


「へ?」


た、高宮くん!?


私、今高宮くんと手繋いでる!?


「俺が読んできた少女漫画だとデートでは手を繋ぐものだと」


「で、でも!それは付き合ってる男女に限るというか・・・」


「桜木、俺と手繋ぐの嫌か?」


っ!


「やじゃないです・・・」


「今日は桜木の漫画の為のデートだ。リアルなデートにしよう」


「う、うん」


そうだった。


このデートはネームの為。


だけど


私はいっぱいいっぱいだよ!


高宮くんと手を繋ぐなんて!!


「さく、らぎ・・・」


「高宮くん?」


「顔が紅潮してきた気がする。俺、熱あるのか?」


「へ?」


確かに高宮くん顔赤い!?


「家帰る!?高宮くん。大丈夫?」


「顔が熱い以外は身体に異常はないから大丈夫だ」


「そう?今日、そんなに暑い日じゃないけど・・・」


高宮くん大丈夫かな。


「陸斗の奴!さらりと手を繋ぎやがって!」


「許せねぇ、陸斗。僕だってまだみっちゃんと手を繋いでないのに・・・」


「綾斗、男子モードになってる」


「やっだぁ!あたしったら」


ん?


やっぱり視線を感じた気がする。


気のせいかな?


「桜木、ここ入ろ」


「アニメショップ?」


「うん。楽しいぞ」


やっぱり多いんだなぁ、こういうお店。


高宮くんがチョイスしたデート場所は秋葉原。


高宮くんらしいなぁ。


「わっ。高宮くん見て!ライアス初号機のフィギュアがある」


「2万円・・・俺のお小遣いじゃ無理だ」


「高いんだね、こういうの」


「ああ。だからいつもフィギュアはお年玉で買う」


「あ、アニメキャラ以外のグッズもあるんだね。ゆるキャラの雑貨とか」


「ケロ王子・・・」


「なんか気持ち悪いね。カエルの顔がやけにリアル!」


「王子様の格好してる。桜小路くんの誕生日プレゼントに買おうかな」


「高宮くんだめ!桜小路くん泣いちゃうから!」


「でも、桜小路くんは俺に誕生日プレゼントくれた」


「そうなの!?」


何だかんだで仲良し!?


「プレゼント、びっくり箱で俺が驚かなかったから泣いちゃった」


「そ、そうなんだ」


確かに高宮くんは基本的に冷静だから驚かなさそう。


「あ!このうさうさもふ子ちゃんってキャラ、最近好きなんだ。私のマイブーム」


「真っ白いうさぎだな。ふさふさだ。すごく可愛い」


「でしょ?」


「桜木に似てる」


「へ!?」


「俺も好きだな、こういうキャラ」


なんか遠回しに私の事可愛いって言ってるみたいでドキドキした!


「このカピバラは高宮くんみたいだね」


「こんにちは。蜜葉ちゃん。僕はカピト。ライアスが大好きな15歳!よろしくね」


高宮くんはカピバラのぬいぐるみを持ってアテレコした。


何そのあざと可愛さ!!


声優志望なだけあってすごい。


急に高い声に切り替えた!


「わ、私はうさうさもふ子ちゃん。よろしくね、カピトくん」


私もうさぎのぬいぐるみを持ち、アテレコをする。


「よろしく!チュッ」


高宮くんはカピバラのぬいぐるみをうさぎのぬいぐるみに近付け、うさぎのぬいぐるみの頬にキスをさせた。


「た、た、高宮くん!?」


さっきから可愛いな、高宮くん。


天然って怖い!


「ライアスの主題歌CDが出てる」


「わっ。ジャケかっこいい」


「初回限定盤はアニメバージョンのPV付きか。買いだな」


高宮くんってガチのアニヲタなんだなぁ。


「はっ!ライアスのOVAも出てる」


すごい目が輝いてる!


高宮くん!


「何やってんだよ、陸斗!桜木、置いてけぼりじゃねぇか」


「これだから陸斗は。僕のがみっちゃん楽しませられるのにぃ!」


ん?


私は視線を感じ、振り向く。


あれ?誰もいない。


気のせいかな?


「桜木、たくさん買えた!」


「良かったね、高宮くん」


「あ、悪い!つまらなかったよな?桜木、がちのアニヲタじゃないし」


「ううん。こういうとこ初めて来たから楽しいよ」


高宮くんと一緒にいられるだけで幸せ!


「あっ。このキャラかっこいいね。少女漫画にいそう・・・」


私は表紙に惹かれ、ある本を一冊手に取る。


だけど


裏表紙を見ると漫画の1シーンが。


べ、べ、ベッドシーン!?


「きゃあああ!」


「桜木、そこ18禁の同人誌コーナー」


「えぇっ!」


「桜木、そういうの苦手なんだな」


「わ、私!キスシーンしか漫画で描かないし!」


よく読む漫画雑誌もエロくない漫画しかないから!


「俺は綾斗の読むから慣れたけどな」


「そ、そっか」


綾ちゃん、15歳で18禁描けるとかすごい。


尊敬!


「そろそろ出るか」


「う、うん!」


「桜木は何処行きたい?」


「えっと、秋葉原詳しくなくて」


「じゃあ、適当にぶらつくか」


「う、うん!」


「お、綾斗が好きそうなギャルゲーっぽいイラストの店がある。行くか?桜木」


「た、高宮くん!そこは・・・」


「桜木、どうした?」


「お、大人向けのおもちゃ屋さんだって」


「わ、悪い!ギャルゲーの店かと思った」


「ほ、他の店行こ?」


「あ、ああ」


「メイドさん、たくさんいるね」


「メイドカフェか。前に結斗と行ったな」


「い、行ったの!?」


「ああ。だが、メイドが作ったオムライスより結斗の作ったオムライスのが美味いな。あいつ、メイドカフェで働ける。猫耳似合いそう」


「姫島くん、絶対嫌がると思う・・・」


「桜木はメイドになれそうだな」


「へ?高宮くん?」


「桜木、あの辺にいるメイドより可愛いと思った」


っ!?


「も、もう!」


「桜木、顔赤い。大丈夫か?」


「た、高宮くんのせいだよ?」


「俺のせい?」


「ほら、次の店行こ」


高宮くんにこんなにもドキドキしているというのに、高宮くんは冷静で。


私ばっかり意識してるんだろうなぁ。


「桜木、このゲームすげぇ面白いんだ」


「高宮くん、スーファミのゲームとかやるんだ?」


「ああ。最近のもやるけど、レトロゲームも好き」


高宮くんはどうしたら私の事好きになるんだろう?


「すごい!綾ちゃんの描いた同人誌が店頭に並んでる」


「綾斗、同人界では有名だからな」


「ライアスのもあるよ?高宮くん」


「綾斗が描くライアスの同人誌はBLだから無理だ・・・」


「ありゃりゃ」


私は高宮くんと同人誌の店やゲームの店見て回る。


「桜木、美味いな。このライアスバーガー」


「ね!ライアスがプリントされてるのすごいよね」


「ずっと行きたかったんだ、ライアスカフェ」


私達は高宮くんと高宮くんが大好きなロボアニメ・ライアスのカフェで昼食をとった。


「桜木、ケチャップついてる」


「へ?」


わっ!恥ずかしい!


「えっと、鏡!鏡!」


「桜木、じっとしてて」


「へ?」


高宮くんは身を乗り出し、いきなり私の口元についたケチャップを舐めた。


「た、た、高宮くん!?」


「っ・・・少女漫画のデートシーンにありそうな事してみたんだが・・・」


高宮くんは顔を真っ赤にし、下を向く。


「た、高宮くん!無理してそんな事しなくても・・・」


「い、嫌だったか?」


「ち、違うよ!びっくりしただけ・・・」


「良かった」


高宮くんはいつだって不意打ちだ。


「何よ、あれーっ!」


「陸斗の分際で!あいつ、後でぶっ飛ばす」


顔が熱くて、心臓の鼓動が速くなる。


高宮くんも顔真っ赤。


でも


高宮くんがあんな事をしたのは私の漫画の為で。


私を好きだからとかじゃない。


そうだよね?


「桜木、ゲームセンター行こ」


「うんっ」


私は昼食をとると、高宮くんとゲームセンターへ。


「桜木、勝負しよ」


「ホッケー!?」


「うん」


運動神経抜群の高宮くんに勝てる気がしないけど・・・


「はわわっ!勢い強っ!」


高宮くんは真顔で勢いよくパックを打つ


ぜ、全然防御できない!


「高宮くん強いよーっ!!」


「桜木、頑張れ」


「そんな事言われてもー!」


パックが速すぎて捕まえられない!!


「に、2回しか点入れられなかった・・・」


ホッケーが終わると、私は息を切らす。


「桜木、大丈夫?」


「高宮くん、やっぱり運動神経めちゃくちゃ良いんだね」


「そんな事ない。普通だ」


いや、高宮くんの普通は普通じゃないよ!?


ドッジボールでも凄かったし。


「桜木、次はシューティングやろ」


「えっ?た、高宮くん!」


高宮くんが向かったのはゾンビのゲーム。


「これ、やるの??」


「うん。そんなに難しくないし。ハマるぞ」


「う、うん」


高宮くんって結構ゲームセンター好きなのかな?


「桜木、当たってない」


「だ、だって!ふえぇ!近い!近いですって!」


「あっ、桜木ゲームオーバーだ」


「うぅ・・・ビビリだからね、私」


シューティング難しいなぁ。


「・・・桜木」


えっ?


いきなり高宮くんが私の後ろに回り込む。


そして


「位置はここ。で、そこで撃て」


高宮くんは後ろから銃の使い方を説明してくれた。


高宮くんの手が私の手の上に重なっていて、息が耳にかかる。


声もよく聞こえるし!


かなり身体密着してる!


「えいっ!」


「お、桜木!1体倒した!やったな」


「う、うん」


高宮くんは笑顔だ。


なんだか今日はいつもより高宮くんを近く感じる。


本当にデートって感じ。


「桜木、さっきのカピバラある」


「あ、本当だ。うさうさもふ子ちゃんも。同じ帽子被ってるんだね、カピバラともふ子ちゃん」


もふ子さん欲しいけど、私クレーンゲーム苦手だからなぁ。


「1回お金入れたら2回できるな」


「高宮くん?」


高宮くんはクレーンゲームをやり始めた。


「えっ・・・あっさり掴んだ!?」


高宮くんはもふ子ちゃんをあっさりゲット。


「次はこいつ・・・っと」


その次にカピバラのキャラクターをゲット。


「すごい!高宮くん、クレーンゲームの達人なんだ!」


「はい、桜木はこっち。もふ子ちゃん」


「わっ!ありがとう、高宮くん。良いの?」


「ああ。俺はカピバラ貰う」


「嬉しい!!欲しかったんだぁ」


「帽子、お揃いだな」


高宮くんは笑って言う。


高宮くんのカピバラとお揃いの帽子・・・。


「うん。お揃いだね!」


すごく嬉しいな。


「なんだよ、あのリア充な感じ!」


「僕のみっちゃんなのに・・・」


あれ?


また視線を感じた気が。


「桜木、秋葉原でやりたかった事があるんだ」


「ん?何?」


「これ!ライアスのカイトの着ている制服とヒロインのマリアが着ているワンピース」


「コスプリ?」


「うん」


高宮くんが持っているのは学ランとピンクのストライプのワンピースと花のついたカチューシャ。


「桜木、絶対似合う」


「き、着てみるね」


ちょっと恥ずかしいけど。


私は高宮くんと試着室へ。


コスプリかぁ、初めてだなぁ。


こないだ綾ちゃんともプリクラ撮ったなぁ。


「桜木、準備できたか?」


「う、うん!」


「じゃあ、撮りに行こ」


わっ!


高宮くん、学ラン姿めちゃくちゃかっこいい!


「やっぱり桜木、似合う!マリアみたい!」


「あ、ありがとう!高宮くんも似合ってるよ」


「本当か?ありがとう、嬉しい」


「さ、プリクラ撮ろっ」


「ああ」


私は高宮くんとプリクラコーナーへ。


「高宮くん、何故真顔?」


「俺、笑顔作るの苦手」


そういえば、高宮くんって真顔率高いもんなぁ。


「高宮くん、スマイルー!」


「こうか?」


「高宮くん、顔引きつってるよ!?」


「綾斗みたいにかっこよく写りたい・・・」


「綾ちゃん、モデルさんみたいだったもんね」


「・・・桜木」


「ん?」


えっ?


私はいきなり高宮くんに後ろから抱きしめられる。


「はわっ!た、高宮くん!?」


「カップルっぽいプリクラの撮り方」


「な、何故急に!?」


「桜木の漫画に活用できないかと。リアルに描きたいんだろ?」


協力してくれる高宮くんの気遣いは嬉しいけど、申し訳ないし、私がいっぱいいっぱいだよ!


「た、高宮くん!」


高宮くんの温もりと匂いが!


私には刺激が強すぎるよー!


「なかなか良い出来だ。しかし、何故目がこんなに大きいんだ?」


「そういう機能なんだよ」


撮影とらくがきを終えると、私達はプリクラを受け取る。


やっと終わった!!


高宮くん、いきなり抱きしめてきたからドキドキしちゃったよー!


「そろそろゲームセンター出るか、桜木」


「うん!っ・・・」


さっきまでは我慢できると思ったのにな。


慣れない靴を履いているせいか、靴ずれしてしまったようだ。


でも


高宮くんには言えないな。


「桜木?」


「つ、次はどこ行こっか?」


「そろそろ帰ろうかと。どうした?」


「えっ?っ!」


「もしかして靴ずれか?」


「う、うん」


「それは大変だ!公園まで行くぞ」


「た、高宮くん!?」


私は高宮くんにいきなりお姫様抱っこされる。


軽々と!?


「お、重くない?大丈夫だからさ!高宮くん!」


「歩くと余計痛むから」


口元舐められたり、抱きしめられたり、お姫様抱っこされたり。


今日だけでキャパオーバーだよ、高宮くん。


これじゃあどんどん好きが強くなっちゃう!


「ありがとう、高宮くん」


「ちょうどバンソウコウ2つあったから良かった。ごめん、すぐ気付けなくて」


「大丈夫だよ!」


公園に着くと、高宮くんが足にバンソウコウを貼ってくれた。


「今日、楽しかったか?なんか俺の好きな場所ばっかになってた気がする」


「すごく楽しかったよ!私が普段行かないようなとこたくさん行けたし」


高宮くんの不意打ちな行動にはハラハラドキドキしたけど。


もうデート行けないのかな。


今日が最後だったりして。


好きな人とデートという幸せな時間はなかなか作れない。


両思いでない限りは。


やだ。


今日、終わらないで欲しいよ。


「桜木、良いネーム描けそうか?」


「う、うん。スランプ無くなってきたかな」


「良かった。他に悩みは無いか」


「うーん。ネームでよく指摘されるのはキスシーンの拙さと男性の身体の描き方くらいかな。これは練習あるのみだよね」


「キスシーン?」


「上手くイメージできなくて。私、経験無いからさ」


「・・・桜木」


「ん?」


「俺とキス・・・しないか?」


「えっ・・・」


えぇっ!?


高宮くんは私を真っ直ぐ見つめ、言った。



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