ファンタジー小説における詠唱の有用さについて

天野げる

第1話

無詠唱。詠唱しないこと。詠唱破棄などと別の名前で登場する事もあります。

 

 異世界転生チート主人公が敵の魔術師との戦闘の際、

「ばっ、馬鹿な! 無詠唱だとぉ!?」

と現地の方々との格の差を見せつけるための材料の一つになったり、

 魔法学院の入学試験で得意な属性の魔法を一つ発動する場面で、

「なんと……これほどの威力、しかも無詠唱とは……」

と試験官及び受験生、その他諸々に力を見せつけるためのアクセサリーとして使われたりもします。

 この事件をきっかけに、いかにも悪そうな貴族に絡まれたり、やんごとなき身分のお人に突っかかられたりすることになるのです。

 

 話が少々脱線してしまいましたが、ファンタジー世界における主人公は魔術を行使する際、詠唱を用いることが少なく感じられるということです。

 

 

 まずは無詠唱の良い点を挙げてみましょう。

 

 無詠唱の最大の強みは『速さ』です。相手が「我が手のひらに集まりし魔力よ~」と唱えているうちに、

「ファイア」「ファイア」「ファイア」

 相手との発動回数が、天と地との差です。こりゃ強い。

 決闘などを挑まれた時にも、始まりと同時に、相手を一歩たりとも動かせることなく仕留めることができちゃいます。

 例えるなら、ホルダーに入った銃に触れることすらなく弾丸を発射できるガンマンのようなものです。まさにチートとの名を冠するにふさわしい能力です。

 

 もちろん無詠唱の強みは速さだけではありません。無詠唱とは詠唱しないってことですから、当然音がしません。敵に魔術の発動を悟られず、いつの間にかトラップを仕掛けたり、敵アジトに潜入したときなどにもその力は大いに活用されることでしょう。

 


 次に詠唱することの良い点です。

 

 『格好いい』これが一番です。それに、戦いに詠唱が加わることによって臨場感が高まり、戦闘シーンがより濃密になります。別に毎回詠唱することに拘らなくとも構いません。普段は技名だけを叫んで決めのシーンで詠唱を使うのが個人的にベストだと思います。

 詠唱しなくとも発動できるが、詠唱したほうが威力が高まる! みたいな世界設定にしておけば問題ありません。

 また詠唱の内容で独特の世界観を形作ることもできるでしょう。


 他には、戦闘の始めに武器の封印を解くみたいな設定で詠唱するシーンを入れたほうが、日常パートとの切り離しができます。

『剣を抜いた』『殴りかかった』よりも詠唱を唱えて姿や武器の見た目を変えてから戦闘を開始したほうが始まりがより分かりやすく、内容が頭に入ると思います。

 これはヒーローの変身に通じるものがあります。

 


 『詠唱中はスキだらけ』これは誰でも簡単に思い付く、詠唱の弱点です。

 詠唱させるヒマもなく攻撃し続けられたら、その対応に追われて攻撃できない状況に陥ってしまいます。

 

 詠唱中のスキに似た展開が、戦隊モノにも存在します。

 ピンと来た方もいらっしゃるでしょう。変身シーンです。シリーズによっては一分を超える変身シーン。その間敵さんは律儀に待ってくれています。


 なぜ相手にスキを突いて攻撃するという当然の戦法を捨てさせてまで変身シーンを優先するのか。それは変身は戦隊モノの一種の見せ場だからです。

 もし変身シーンをカットしたならば、そのシリーズの変身するための時計やらベルトやらの売り上げはガタ落ちでしょう。


 

 相手との実力が拮抗している場合、言ってしまえば顔面に砂かけて、金的でも食らわせたら一発です。


 それなのになぜ途中で会話したり、必殺技を最初から出さなかったりするのか、それは『格好いい』からです。

 戦闘シーンに一番必要なものは格好いいと思えること。胸が躍り、思わず鳥肌が立ってしまうほどに痺れる展開を読者は待っているのです。

 

 

 人生において最も格好良さを追い求める時期は中学二年生。つまり中二病。

 頭の中で展開される妄想を現実世界に持ち出してしまうが為にイタい人たちと評価されてしまう彼等。

 しかし小説は文字におこす前は妄想そのもの。

 つまり小説は妄想の延長線上にあるのです。

 妄想の申し子中二病。その多くがこよなく愛する魔法陣、謎の暗号、自分だけが持つ特別な力……そして詠唱。

 

 

 そして中二病は中高生向け小説の主なターゲットでもあるのです。

 

 

 

 

 このエッセイを通して、ファンタジー小説に少しでもカッコいい詠唱が増えることを期待しています。

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