第28話 杉江と岡本3

 七野修太郎の微笑みに岡本浩太は少しゾク

っとした。本来中身は万物の王

のだ。世に解き放つにはあまりにも危険な存

在に間違いない。


 向坂健太と君塚理恵は自分たちには理解で

きない話ばかりだから、ということで先に帰

った。岡本浩太は杉江統一とまだ少し話をし

たい、ということで残った。七野修太郎は二

人の話には関心がないのか、一人黙々とTV

ゲームをやっている。次々と襲い来るゾンビ

を打ちまくるソフトだ。殊の外このゲームが

気に入っただった。


「それで具体的には、これからどうするつも

りなのかな?」


「そうだね。今の所僕はここで七野修太郎君

の元の生活を崩さないよう指導しながら待機

って感じなんだけど。僕まで動き回ったら、

彼の身体に何か起こったときに対処できない

からね。動き回るのはナイ神父に任せる、っ

てことになってたから。」


「それで色々と動き回っているんだな。それ

はそれで自由に動かれると困るんだけど、こ

の際仕方ない、か。」


「だと思うよ。彼をフリーにしておく方が何

かと便利だし。元々封印されていなかったん

だから、封印できる方法も目途もないことだ

しね。」


「そうなんだよなぁ、なんで彼だけ封印され

なかったんだろう。」


「それは、まあ、色々とさ。あまり詮索しな

い方が精神衛生上いいと思うよ。」


「君は何か知っているんだね。益々君が何者

なのか興味が出てきた。」


「いつか、話せるときが来たら話すさ。僕は

君を友人だと思っているから。」


「僕もそう思っていたよ、あの件があるまで

はね。今は少し(理解できない)友人ってト

コかな。」


「その枕詞は仕方ない。」


 屈託なく笑う杉江だった。


「それじゃあ僕は修太郎君のクラスメートと

して君がカヴァーできない学校での彼をフォ

ローすることにしようか。」


「そういえば、高校1年生に転入して来たん

だって、少し無理があるんじゃないかい?」


「そう言うなって。自分でも無理がある、っ

て思ってるんだから。杉江は確か飛び級だか

ら年下だったよな。まあ、それでも高校1年

生は無いか。」


「あははは。無理だろうね。浩太は童顔だか

らまだしも僕は少し老け顔だから。」


 落ち着いて見える杉江には確かに無理そう

だった。


「僕が高校で動けないから出来れば誰かに桂

田の行方を探してほしいんだけど。財団の関

西支部は一回壊滅状態になってから放置され

ているんだ。人員は全然足りてない。」


「桂田か。彼を知っている人がいいかもね。

誰か大学に残ってる知り合いは居ないかな?」


「共通の友人か。僕には居ないな。」


「それじゃ、桂田と親しかった学生は?」


「ああ、それなら確か僕の他によく遊ぶ友人

が居るとか聞いたことがある。名前は、そう

だ枷村とか。」


「綛村忠史か、僕も一応面識はあるな。浩太

が高校に通ってて時間内なら僕が彼に連絡を

取ってみようか。」


「助かるよ。結城さんにも声を掛けてみる。」


「結城、って新聞記者の?」


「そう。色々とお世話になってて、ある程度

の事情も理解してくれているから。」


「新聞記者を巻き込むのは、ちょっとどうか

とは思うけど、まあ仕方ないか。」


「おい、ここはどうしたら抜けられるんだ?」


 ふいに七野が声を掛ける。ゲームが先に進

まなくなったようだ。


「そこは、棚を調べて鍵を見つけないと進め

ないんですよ。ホント、そのゲーム好きです

ね。」


「この文化はなかなか侮れんな。こんな物が

この星で産まれたのは奇跡だ。」


「そうですか。では、封印解かれても地球を

滅ぼしたりしないでくださいね。」


 岡本浩太が冗談交じりに言うと、


「それとこれとは話は別だな。この文化は吸

収したうえで、滅するか滅しないかを判断す

るのだ。」


「怖いこと言わないでくださいよ。というか

滅しないこともあるんですか?」


「お前たちは我を一体どんな存在だと思って

おるのだ?すべてを滅しようとしている訳で

はないぞ。」


「気まぐれで決める、ですよね。」


 横から杉江が口を挟んだ。


「その通り。気まぐれ、気分、何とでも言う

がよい。この宇宙を滅するのかどうかは、そ

れで決まるのだ。」


「それを、まあ、決めささないのが現宇宙、

ということだけどね。」


「ふん。忌々しい。」


 やはり中身はなのだと再確認す

る浩太だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る