第30話リリはもういない。

5月2日 Mon.

リリはもういない。

●早い朝。妻の部屋にはいっていく。わたしが障子を開けた気配で妻は目覚めた。

「リリに水あげなければ――」

「リリは、もういないのだよ」

しまった、と思ったが――。

妻はふいに泣きだした。

毎朝、花瓶にぬるま湯をそそいで、リリに飲ませていた。

花台にリリの小さな骨壷。花瓶。サッカ―のミニボール。

生前のリリがすきだったものを供えてある。

ふたりで、がっくりとその前にすわった。

しばらくは、声もでない。

リリとのさまざまな思い出が脳裏をよぎる。

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