第24話今年は知りあいとの悲しい別れがあった。

12月21日 月曜日

今年は知りあいとの悲しい別れがあった。

●昼ごろになっても曇り空からは陽が射す気配はない。

カミさんは松戸。夕刻まで帰らない。ブラッキ―とリリと三人で留守番をしている。

●GGだから、何もすることがない。ぼんやりと時を過ごしているかというと、そんなことはない。小説を書いている。この一年は一作ずつ完成させる、方針をとった。予想に反して――はかいかなかった。

行き詰っても、他の作品に目を移さない。そうすれば、なんでもかんでも、いま書いている作品を書き上げるだろう。

――とは、いかなかった。

一年が終わろうとしている。

年間100ページも書いていないのではないか。

なさけなくなる。

いくら、生来の遅筆だからといって、これではひどすぎる。

●何本も同時に書き進めることにした。

うまくいくといいなぁ。

●好きな本もあまり読まなかった。

クーンツのオッド・トーマスものと、フランケンシュタインは全作読破した。

それに誉田哲也八冊。松岡圭祐の「探偵の探偵」。

●今年は知り合いがおおぜい亡くなった。とくに、義弟二人、俳句作家のR君、近所のFさん。ご冥福をあらためて祈る。

この歳になると葬儀に出席するのはつらい。

もうこれからは、失礼して、家にいて冥福を祈ることにしたいものだ。

●こんなことを考えながら、年の瀬を過ごすのも、歳のせいだと思う。

12月22日 火曜日

すべてこともなし、小説を書く。

●今日もカミさんは松戸。三人で留守番。陽が照っているので二階の書斎に陣取る。

ブラッキ―はわたしのベッドで早くもおねんね。リリは隣りの部屋、塾の教室で駆けまわっている。些細な動作にもブラッキ―とリリの歳の差がでる。リリはまだわが家に来てから2年たっていない。ブラッキ―は17年かな? 人間の年にしたらわたしのお姉さんだろう。 

12月26日 土曜日

「リリならテーブルに上がってもいいわよ」

●「キャハハハ」とカミさんの華やいだ笑い声がする。

諸々のストレス要因が解消したので、彼女本来の姿にもどった。

動きもしなやかさをともなってきた。人間とはふしぎなもので、こころにわだかまりがあると挙措まで、ぎくしゃくとしてしまう。

●わたしは携帯をとりだし彼女にかける。

「リリの準備はできたの」

「いま、リリと遊んでいるの。そろそろでかけますか」

●そうなのだ。今日は、リリをS動物病院に連れて行く日だ。たぶん、血液検査をもう一度するのではないかな。

●いい結果がでた。

「リリ。元気になってよかったね」

カミさんは涙声。

●「こがねちゃん弁当」買って帰ろうよ。

「寒くてかわいそうだから、リリとわたし先に帰る」

カミさんがリリの入ったバッグを肩に掛ける。

●弁当屋さんで待っていると、カミさんから携帯が。

「鍵がないので入れない。早く帰ってきてぇ」

事情を説明して手早くしてもらった。

●弁当屋さのスタッフにお礼を言い、家に急ぐ。

●カミさんはリリのキャリーバッグを日向に置いてまっていた。

●リリは弁当のいい匂いに敏感に反応している。

鼻をひくひくさせている。

●「ゴメンな。リリ。リリが、食べられるものではないのだよ」

●わたしたちの食卓の周りを、リリが元気にあるきまわっていた。

●「リリだったら、テーブルに上がってもいいのよ」

清潔好きのカミさんが、いままでの猫には決して許さなかったことを、さらっと言ってのけた。

12月31日 木曜日

咽喉を腫らして一日寝てしまった。 

●昨日は喉を腫らして一日寝ていた。

扁桃腺肥大で25歳のときに、摘出手術を受けた。

それ以後は、扁桃腺が腫れて40度近い高熱を出すことはなくなったが、喉の奥がほとんど慢性状態でウズウズしている。

少し無理をすると体がずしんと重くなる。

もっとも、それがあるので、今回のように休養をとる。

それが健康に良いようだ。

これ以上は無理をするなという警告を発してくれる。

●ブラッキ―を抱えて一日寝ていた。

今年も、やりのこした仕事(未完の長編)が四本もでてしまった。

忸怩たる思いだ。

2016年

1月元旦

金餓死年

あけましておめでとうございます。

●とんでもない新年になってしまった。

カミさんのパソコンが使えなくなってしまった。ことの起こりは噛みつき魔の愛猫「リリ」だ。カミさんのパソコンのある机でカリカリやっているのにぼくが気づいた。電源コードを噛み切ってしまった。

●宇都宮の量販店にパソコン持参で駆けつけたところ、日本のトップレベルの会社なのに、パソコンの製造からは撤退した。

電源コードはないかもしれない、という回答だったというのだ。

ともかく、正月明けまではどうにもならない。とのことだった。

●メカのことはまったくの門外漢なのでわからないが、

電源コードなどは各社とも共通にする。などということは、不可能なのだろうか。

だいいち、買ってから3年くらいなのに、まったく使えないなんて、おかしなことだ。

こちらはビンボウ老書生の身、新しいパソコンを買うなどということはできない。

●カミさんは楽しみにしている「猫と亭主とわたし」というブログが書けなくてパニック。

●「あなたのかして」といわれたが、ぼくのほうもパニック。

もしカミさんにかして、ぼくのパソコンがクラッシュしたらどうしょう。

商売道具だ。「ダメ」とにべなく断ってしまった。

●彼女の申し出で、彼女の提案、彼女の願いを断ったことはない。

ながい彼女との共同生活の場で、彼女の依頼を断ったのは初めてではないだろうか。

●彼女の顔が一瞬曇る。

ああ、こころないことをいってしまった、と思ったが間に合わない。

カミさんの、ぼくに対する勤務評定が一気に下降した。

たかがパソコンのことで愛情にヒビがはいるなんて悲しいことですよね。

お金があれば新しいパソコンを買ったらと言えるのに、残念だ。

●電気系統のことには、まったく無知のぼくは、暗澹たる思いで沈鬱な元旦をむかえることになった。

●正月があけ会社が動きだす4日が待ち遠しい。

なんとかなるのでしょうかね。

●この世界から、パソコンがなくなったらどうなるのだろう。

そんなことより、お金がなかったら、ぼくらの生活はどうなってしまうのだ。

諸々の事情があって国民年金には入っていなかった。

この春に塾生が入ってくれなかったらどうしたらいいのだ。

もう、こうなったら……。

●金にたいする執着がないのは、ぼくが悪い。

小説を書くしか能がない、ぼくは甲斐性なしなのだ。

金がなければ死ななければならない年に、ならなければいいが。

●金餓死年。金に飢餓すれば、死の年となる。などと不吉なことばかりかんがえてしまった。

●これでは、おちおち小説など書いていられませんよね。でも、書きつづけなければなりません。

●正月早々、不吉な暗い話題でごめんなさいね。

1月1日 金曜日 

「リリ、You はなにしにわが家にきたの」 

●くだんの「リリ」はどうしているかと、朝の8時ごろカミさんの寝室にいったところ、チョコッと彼女の枕元にすわっていた。

なにくわぬ、おすまし顔でわたしをみあげて、おおきなアクビをした。

●夫婦の仲を裂くような椿事を引き起こしたことなど、まったく気づいていない。

●思わず「You はなにしにわが家に来たの」

と話しかけてしまった。

ブラッキーは18年、その前のミュも同じく18年くらいわが家に同居していた。

柱や唐紙で爪とぎをすることはあっても、その他のものにはいたずらをしなかった。

ブラッキーはただひとり生きて行く孤高の猫、まったく手がかからないで、今日にいたっている。

●ところが、ところがリリときたら、花瓶や、コップはこわす。

油断していると何にでも噛みつく。靴紐、ともかくながく伸びているコードなど喜々として食いちぎってしまう。そして、ついにパソコンの電源コードということにあいなったしだいだ。

●去年の春、どこからともなく、あらわれた三ヶ月くらいの子猫、猫らしく鳴くこともできず、わが家の玄関をおとずれたのだった。

かわいい、かわいい子猫ちゃん。

いまだにキ―と声をだすだけで、猫らしくニャオとは鳴けないでいる。

●どう考えても、わたしたちが猫を、ブラッキ―を飼っているので、猫のにおいと餌のにおいにつられて、どこからともなくやってきたのだ。

●かわいくて、夫婦で猫可愛がりをしているが、

これからどんなヤンチャをされるかと思うと恐怖を感じる。

●噛みつき魔のリリ。かんがえてみると、すべては、ぼくがわるいのだ。

だって――吸血鬼作家だ。噛みつくなどと毎日書いている。そのうち血をすわれないように用心しなければ。

1月2日 土曜日

「方舟」に乗せてもらうためには、いい仕事をしよう。

●自由業の身。

元旦だからといって別に休むようなことはしない。

朝から遅筆を嘆きながら「方舟の街(仮題)」を書き継いだ。

まったくもって、オタクだなぁとしみじみとおもった。

家にいるのが楽しい。

家のなかにいて蔵書に囲まれ、さて、今日は誰の本を読もうかと書架の前で迷っているときが、たのしい。

PCのわきに、今日読む本を重ねて置く。

筆が全く止まってしまったとき、――キーボードを叩く指が硬直したときに、かたわらに積んで置いた本を読みだすのだ。寝床に横になって読むのが習慣だ。

あまり、面白くて、本を置くことが出来ず、一気読みしてしまうこともある。

どうしたら、こんなに面白く書けるのかなと感服する。

やはり才能なのだろうな。

肝心の自作執筆のほうは滞ってしまう。

昨日から、この習慣を廃止した。

執筆のための参考文献いがいは机上に積み上げないようにした。

自らの楽しみを封印したわけだ。

だって、書きたいこと、整理したい原稿が山積しているのに、のんびりと読書をたのしんでいるわけにはいきません。

●カミさんはブルー。パニック。むきだしになっているコードをビニ―ルでおおったり、はずせるものは、外したり。

「もう、猫はブラッキ―で止めと思っていたのに。どうして冷たく、リリを突き離さなかったのかしら」

「いや、リリの面倒をさいごまでみる。そうなると長生きできる。100歳まで生抜いてがんばろうよ」

「あまり歳とるのイヤ」

●ぼくは、「卒塔婆小町」をふと思いだした。

小野小町が老醜をさらして街をさまよう話だ。

岩波の文庫本で本棚にあった。

どのへんだったかな。三枝和子に同名の小説があった。

津島祐子のとなりだったかな。

いけない、いけない。また読書に逃げようとしている。


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