第14話 僕の舞踏会はクライマックスです

「誰が主役なのか、わかってもらえないかな」

 炎の前に立つはコンラート王子。

 古木の杖を構え、その先には風のバリアのようなものが見えた。


「大丈夫か! 芽衣子!」


 腰を抜かしそうになりながらも炎から逃げ出して、芽衣子は檻の近くまでやってきた。

「お姉ちゃん、どうして助けてくれないのよ! ここは女神様が助けないと見せ場ないよ!」

「そんなところじゃないだろ!」

「だって、私なら何とかできたんだもん!」

 そういいながら、足が微妙にがくがくしているのはどうしてだろうか。

「何とかできたってーの! ちょっとーちょーっぴし、びっくりしただけ。うわーびびったーとか、危なかったとか思っていたわけないしぃ」

 思っているわけですな。

 あーぼろぼろと化けの皮がはげていく。

 目も何だか微妙に涙目になっているし、ぼろぼろだよ。

「こんなときだからこそ、王子様がいたらいいのにと思ったのに・・・・・・」

 それはコンラート王子がいると思うのだけれども。


「にぶちん」

「まあ、女の子だからな。ルディア、仕方ないと思え。私から付け加えるなら、青春だねえ」


 僕は男です、と言えないのが悔しい。

 というか、酔っ払いと残念な赤竜(オカマ)を作り出した残念さんには言われたくありません。


『あたしを無視するとか、もーかんかんよー』


 やけに野太いおっさん声が僕たちの頭の中に響く。

 赤竜の声だった。


「くっ、流石に辛いか」

「殿下!」

 炎の勢いが増して、コンラートが弱音を吐く。

 そこにソニアが白い大盾を持ってはいった。

「ソニアやめろ!」

「くっ、早くお逃げください。私の手が火傷でただれる前に!」

「すまないッ」

 コンラートが逃げた瞬間、熱で赤くなった大盾が溶け始める。ソニアは慌てて、赤熱して使えなくなった防具を放り投げてごろごろと転がった。

 その瞬間、ソニアのいた土が赤くなって、マグマのように溶けていた。


「あれ、強すぎませんか」

「リアリティというのを大切にした。そして、竜というのだから強いのが当たり前」

「やりすぎな気がしますけど……」

「悪役というのは時として強くならなくてはならない。タイミングが今でしょと判断した」

 間違っているような気がする。

 失敗したら死人が出来るような気がするし。


『あと、リア充は死になさい。どうして、そんなにイケメンはハーレムみたいなのを作るの。私だって作りたかったわよ。私は王子様のような男よりもムキムキ男たちの楽園のほうが好きだけれども。一人くらいはいてもいいわね。あなたみたいなイケメンもたまには私の慰めになるわけだしうっふん』


 流し目が残念すぎる。

 誰が野太いオカマでオッサンみたいな声の竜に惚れるとかあるのだろうか。

 ある意味超特殊な性癖を持つ変態さんであればあるかもしれないけれども極稀で希少定期かつ偶然が数億分のいくつにかかるものであればあり得るかもしれないけれども。偶然というのは奇跡にかかわるほどのアレなレベルであり、まず考えることが無駄なわけで。


「うん? 考えるなよ。考えても無駄なことを考えても駄目だぞ。下手な考え休むに似たりということわざもあるわけで」

「というか、どうして、あんなにひどい思考になっているんですか」

「そりゃあまあ、うん。私だって、いろいろとあったわけで。数年くらい引きこもりをしていて、いろいろな知識をため込んだ。その中でもいろいろとネタになる知識があるわけでつぎ込みまくってだな」

「理解できました。僕はもう帰ります」

「まて、私だって黒歴史をあんなにため込むつもりはなかった。悪乗りが過ぎてしまった。君だって、あるだろう。中学生の至りとか」

「そんなものはありません」


「魔女っ娘じゃなくて、女の子の服を着て、ドキドキ。私と一緒にショッピングモールで水着を着てはしゃいでいた金髪の美少女。購入した水着でプールも楽しかった。その美少女はナンパもされていて、それに対してなんか適当にあしらっているあなたはとても気持ち悪かった。喜々として断っている姿がとてもサディステックでした。でも、女子更衣室で顔を真っ赤にしたお姉ちゃんの顔は今でも忘れられない中学2年生の夏」

 なんというか、散文風に言われる黒歴史。思い出したくない過去が僕の頭の中を走馬灯のようによぎってとても辛くなる。


「僕が悪かったです。やめてください死んでしまいます。主に僕の心のHPがすでに0です」

「よろしい」

 うん、やはり芽衣子は僕の黒歴史を知る大魔王なり。


「で、どうするんですか。あっちは盛り上がっているんですがなんというかカオス。美少年があれば酒飲んで眠りたいレベルの」


 ルディアがいうようにもう収拾がつかないような状態になっている。


「くっ、魔術を使おうにも竜が私をにらみ続けている。これでは魔術が使えない」

「殿下!」

 ソニアがコンラートをかばおうとしている。

 しかし、彼女には大盾がなく、すでに王子をかばいながら戦うしかない。

 他の新鋭隊員が予備の盾で牽制をしながら耐えているものの、すぐに赤竜の炎に焼かれてしまい、手を放してしまう。


『リア充がっ!』

「君が何を言っているかはわからないが悪竜は勇者にやられるのが運命」

『格好つけようが私にはハーレム男があはーんうふーんしているようにしか見えないのよ!』

 なんというか、かみ合っていない会話。


「どうするの、これ」

「簡単。不意打ちしちゃえばいいのよ」

 と言って、芽衣子が魔術を繰り出す。


「水よ。刃となりて、彼のものに押し寄せよ!」


 芽衣子が魔術を唱え、手に持っていた傘を発現体としていた傘から高圧縮された

水の刃を放つ。

『邪魔よ!』

 赤竜はあっさりと水をはじき返す。


「あれ? コンナノッテアリナノ?」

「ありなのだ、流石なのだ。私」

 ふんぞり返るノープランの引きこもり竜。


「ついでに水が帰ってくるう゛!」

「まずいっ! あれは芽衣子君だって、やられるッ!」

 その瞬間、僕の体は何故か勝手に動いた。


「踊ってください。私の人形。踊って踊って、舞踏会で華麗なるステップを舞い踊りましょう。私の相手をして下さいな」


 それはあの魔術。

 しかし、あのゴーレムはいない。

 元々はあの洞窟で戦おうとしていて、そこに置いたままにしていたというのが事実。

 今は全然違う道での戦い。

 やることとしては間違っている。

 けれども。


 檻がぎしっと動き、それを構成する棒の一本が水をはじいた。

 カァンという音がして、水が霧散する。


『なにそぉれ。チートよチート!』


「うるさいな。僕はこれしか使えないから」

 そう、僕は魔女っ娘だけど、魔術はほとんど使えません。

 ただモノを動かして、人のように動かす魔力だけは人一倍努力した。

 それは強化ともいえる力であり、檻を人の形に構成することさえも簡単にできる。


 檻をつぶして、再構成していく。

 その速さは数秒。


 現れるは鉄の鎧を着た騎士。

 フルフェイスの武人、あのゴーレムとは違い、僕の創造で作られた鎧騎士はあまりにも不細工だけれども、負けることはない。

 それしか僕にはないのだから。


「踊ってください。私の人形。踊って踊って、舞踏会で華麗なるステップを舞い踊りましょう。私の相手をして下さいな」

 もう一度僕はそこの言葉を告げた。









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