第13話 僕は色々と選択肢を間違わされる

「で、どうすんだこれ」

 暗闇の洞窟、そこに鎮座する祭壇に置かれた檻の中に僕は閉じ込められていた。

 何故だろう。

 溜息をついて、檻の中にいるメンツを確認する。

 間抜けな色っぽい村人風の女性。

「いやはや、これが運命」

「そんなキメ顔で言われましても・・・・・・この状態をどうすれば」

「何とかなる。どうにでもなる」

 うん、どうにもならない。


 あともう一人。

 間抜けな『美少年』を瓶で飲んでいる飲んだくれエルフ。

「どうにでもなるさ。もういいんだ、私は役立たず・・・・・・」

 そうだね。檻の中でいじいじして、もう酒飲んで我を忘れているなら役に立たないわ。


「まあ、私が守ってあげるわ! お姉ちゃん!」


 そして、外にいる自称大魔王。

「お前だけが何で外にいるのかな? 芽衣子」

 自分の声が微妙に震えているのがよくわかる。

 怒りを抑えているのだから。

「面白いことは間近で観戦するのが最高だよね!」

 しかも、舌出して親指立てるとか漫画でしか見たことのないリアクション見せて、どれだけ喜んでいるだよ。


「というか、元凶のお前が外にいるとか納得できんわ!」

 檻の中に放り込まれる原因、それは数時間前の朝にさかのぼる。 

************************************

 アンリさんが顎に手を当てて、感心していた。

「ほう、これだけの頑丈な檻を見つけることが出来たな」

「大変だったんだよ。私。手配したけど、それも根回しして、来たのが今日。女神様を囮にしようと思っていたのに時間がかかりすぎて、お金無駄にしちゃったなーとか思っていたら、だけどね」

 ルディアは珍しく酒もないのに機嫌よく答える。

 とはいえ手が微妙に震えて心中複雑なところもあるらしい。

 単なるアルコール中毒かもしれないが。

 というか、この檻が届いていたら僕は檻の中で戦うとか酷いこと考えていたのか。あとでじっくりとこってりと問い詰めた後、酒を奪って色々としたほうがいいかな。

 うん、そうしよう。


「ルディア師匠、これは」

「簡単ですよ。これの中に囮を入れて、まずは竜をおびき寄せるという事を考えているんです」

「なるほど、昨日仰っていた策ですね」

「そうです」

 ふんすとルディアは偉そうに胸をそらして、偉そうに答える。


「それは良かった。これで準備は整うんですね」

 コンラートがやってきて、素直にルディアをほめる。


「やっとです。けれども、これでおびき寄せることが可能です」

 何か、顔を引き締めてキリッとしているのだが、元々がふにゃけているので威厳も何もない。

 残念エルフはどこまでも残念だった。

「ところで誰がこの中に入るんですか」


「そのために私が来た」

「この人は」

「村長のところのはねっかえりでね。冒険者になりたいと言って出て行って、少しだけ里帰りしたら、王子がやってくると聞いて飛んできた人です」

「細腕だが、拳でやっている。檻に閉じ込められたって、何とかなるさ」

 どちらかというとスラッとしているので華奢きゃしゃな印象もあるけれども、長身でよく目立つ印象のアンリさんであれば、拳闘士グラップラーといっても差し支えないだろう。

 だからこそ、アンリさんが村娘の格好で生け贄を装った囮になりながら黒竜をおびき寄せる。その作戦をルディアが提案した、という形にしている。

 実際のところはブラフの竜を作って、倒すという形で穏便に帰ってもらうというのが僕たちの目標なのだが。


「さて、私が入ればいいのだろうが、どうする? 今からにしようか」


 まだ早朝。

 しかも檻を馬を6頭立てで引っ張って、山の中腹にある洞窟まで持っていく。一応、あの洞窟は黒竜が来るまでは村の倉庫として使っていたらしく(というか、あの奥には今でも天然の冷蔵庫らしく食料が置いている)、道は整っているので多少は揺られても問題はないのだろうが、檻の中ではそれも増幅されてしまうだろう。

 それを考えると檻を洞窟の中に入れてからというのが普通の話だろうが、人語を理解する黒竜が山の中に仕掛けを張っていて、彼女が檻の中に入っていないという事で何かを疑うというのはなかろうかということらしい。

 であれば、他の連中も村人を装った格好をしないとまずいのではないという事だろうが、供物として捧げられる乙女の護衛は多少装備をしていても問題はないそうだ。


「なになにどうしたのー」

 芽衣子が目をきらきらさせながらこちらにやってきた。

「何かなお嬢さん。これから戦になる。危ないところだから寄らないほうがいい」

「むっ、私がそんなに子供に見えるかな。まさか小学生とか言うんじゃないかな」

「小学生というのはわからないが、そんなわけがないさ。まだ成人していないとはいえ、立派なレディになれるさ」

 背伸びをしている女の子の扱い。

 まさにそれは小さな子どもと接するような。

 さらに哀れみか微笑ましい何かを見るような目で胸をチラッとコンラート皇子は見ているのを芽衣子は忘れない。

 ぺたっとした胸を見たのだという事を見ているのだ。

 芽衣子は自分の子供体型が憎い。

 たまに僕の女の子の時の体を見ると目の表情が消えるときがある。

一応、僕の体はらしく、出ているところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいるので彼女から見たら辛くなるそうだ。

 

「私はこれでも15歳ですッ! んもう、どうしてこんなことばっかり言わなくちゃいけないのかな!」

「すまない。私はてっきり、10歳くらいかと」

 小声で言っているのは聞こえるフラグだと思うのですが。


「もういいです。色々聞いていたんですが囮をそろそろ檻に入れて、何とかしようとしているんですよね」

「そうだけれども」

「なら、もう入れちゃいましょう。で、私がその竜を倒しちゃいます。よし、女神様とアンリさんとルディアさんいれてあとは私がやっつけちゃうよ!」


 ということで、檻に入れられた僕たちと何か自信満々な芽衣子が馬上の人となっているわけだ。

「何とかなるって」

「何か選択肢を間違っているような気がするのは気のせいだろうか」

「いやいや、私に任せなさい」

 といわれたら、とりあえずは何とかできると思う僕は甘いのだろうか。


 ガラガラと揺られて、吐きそうな感じになりつつ僕たちはえっちらおっちらと、山道を登っていく。

「はあ。で、あれ何?」

 黒い物体。

 のように見える赤い竜。

 トカゲのような赤い毛が生えた灼熱の体はまさに天災のように思える。

 恐怖、火に対する恐れを想起させる姿。

 足元の鉤爪は焼鏝やきごてのように赤く染まり、体も火に包まれたように熱を持った赤。

 くちばしの様にとがった口も開けば煙とともに鋭い牙が見える。

 しかし、開いた言葉は。


『女ばかりだけど、これはいい、男ね』


 いい声のオカマだった。

 男にすると渋い声をしたいい男だけれども口調がすべて台無し。

 ターミ●ーターというか、●坊主みたいな声なのに、カタツムリのイト●君みたいな声。

 その赤竜は一人だけの男を見つける。


「な、何だお前は!」


 コンラート王子殿下を赤い眼光で見つめている。


 失敗だった。

 あまりにもわかりやすい失敗。

「あれは何ですか!」

「制御に失敗した。自立稼動にしたら変な風になって、ゲイになってしまった」


「ちょっと、それってまずいんじゃないですか?」

「まずいね」

「どれくらいまずいんですかね」

「どれくらいだろうか」

 うーんと頭を抱えるアンリさん。


「というか、そんなことをしている暇があれば助けに行かなくちゃ!」

 芽衣子が赤竜の前に躍り出た。


『ガキは邪魔よ!』

 赤竜が口から太陽と見間違えるような赤い光を放つ。


「芽衣子!!」


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