第10話 僕にはこれは酷いと言う事しかできなかった

「これは酷い」


 芽衣子さん。

 僕はどうしようもないくらい酷いことだとは思っています。

 しかし、僕にはそれ以上のことはいうことはできません。

「うむ。これで安心した。あ、魔女殿でしょうか。とても顔色が悪いようなのですがどうかされましたか」

「いえ、なんでもありません」

 そうさせてください。

 でないと僕の平静が保てないのです。これは悪夢でしかない。それもとびきりのトラブル。TOLOVEるではない超弩級のクソって意味での最悪な奴だ。


「大丈夫です。おに、いえ、お姉ちゃんは王子殿下を待つために少し太陽に当たりすぎただけだと思います。日陰に入ればどうにかなりますよ」

「そうですか。それはよかった」


 歯を出してきらりと笑う王子殿下。しかし、それはただの魔王が弱者を下した時の余裕にしか見えないのは僕だけだろうか。


「ところでそこのはどうされますか。殿下」

「大丈夫さ。すぐにその状態に慣れて、私に感謝の意を示すだろうさ」


「これって、なによぉ」


 微妙にカマっぽい野太い悲鳴がもう悲惨すぎる。

 やめて。ガザックのHPは0よ!


「それでこれからどうされますか。王子殿下」

 ルディアが俺の動きを制し、魔王の前に立った。

「そうですね。黒竜を私は屠りにきたのです。そのための準備はできています」

「しかし、黒竜は数日前にこの女神様倒したのをご存じではありませんか」

「正確にはだけですよね」

 その通り。

 しかし、裏の意味でそれは敗北して知能のある竜は元の場所に帰ってこないという習性があるらしい。

 という意味があるのだが。

 そんなことも教養の高そうなコンラート第三王子ではないだろう。


いますよ。よくね。けれども、あまりにも報告ではあっさり退散したという話ではありませんか。もしかしたら別の理由があって逃げたのではないかと私は考えているのです」

「その理由とは」


「例えば、宝を積まれて八百長を誰かから依頼されたとか」


 八百長という意味ではあたっているし、というのは間違っている。黒竜アンリ自身とルディアの意思で行ったわけだ。

 だが、当たらずとも遠からず。

 半分は当たって、半分は外れ。

 とはいえ、この話について真実は違うという疑惑を感じている点で嫌な感じがする。

 この八百長がバレてしまうとルディアの状況は良くないし、僕だってせっかく会えた魔王ろくでもない性格とはいえ、男の魔術師との繋がりはなくなってしまうのだ。

 あまりよろしくはない状態であるというのが真実だろうか。

 コンラートの依頼というのが、ルディアということを疑っている線というのが今のところ明白のような気がするからだ。


 彼女はエルフ。しかも召喚魔術を使えるというのは師弟関係であれば知っている可能性は高い。

 ならば疑いをかけられても仕方ない状況なのはわかるわけだ。


「まあ、こんなところで立ち話もよくはないですし。師匠のお部屋でゆっくりとお話をしませんか。ソニア」

「ハッ、紅茶の準備をしてまいります」


 ソニアは執事のように綺麗な礼をして、彼女の住む家へと行ってしまおうとするが、


 何かが空気を震わせるほどのプレッシャーを上空から与えてくるのが分かった。

 風圧、重圧、重力。

 どれにも当てはまるような質量のある攻撃。体全体が上から押さえつけられて、体が支えきれなくなる。


「く、何だこれは」

 コンラートが上を見上げる。


 上空に黒い点のようなものが見えると、荒々しくと急降下している飛行体が現れた。


 それは鳥のような爬虫類のような1対の翼を大空に広げた巨躯に白い光に包んだ神々しい姿を大空に委ねた白竜。


『よくぞ来たな! 愚かな魔術師!』

 重厚な声は前の黒竜に劣らぬほどの勢いで僕らの体を引き裂かんとばかりのプレッシャーを与えてくる。


「だが、私は負けるわけにはいかない」

 その中で比較的軽傷らしいコンラートがゆっくりと立ち上がり、正義の味方張りに 節くれだった老木の杖をつかんでが構える。

 白竜とコンラートが対峙する。

『ほう。早いな。不意を突いたつもりなのだが』

「黒竜ではないが、竜! 白竜か! しかし、私は負けない」



「なんという展開。これは意外。白竜とか、なんとひねりのない展開でしょうか。お話としては40点だよっ」

「点数をつけないで! 芽衣子さん!」

 色々と台無しですから。

 しかも結構けろりと立ち上がっていませんか。

 顔色悪くないし、威勢もよくありませんか。

「私大魔王ですから。魔王よりも強いですから」

 僕の頭の中を読みながら、そんなことを言っても格好良くはありません。


「あんたら何しているのよ。あああん、このオカマになってからどうも体の調子がおかしいわよん」


 ガザックさん、あなたの口調のほうがおかしいです。

 くねくねくね内股でしないでください。怖いです。


「こっちくんな。きもい」

「ああんっ、辛辣ぅ」

「カマ踊りしないで。きもい」


『邪魔だな』


 白竜が鋭い爪をもった後ろ足にガザックをつかみあげた。

「やめてよう」

「目障りだ」

「きゃあんっ」


 振り上げられたガザックは近くの木に叩きつけられた。


「ガザックさん!」

「きゅう」


「よかった。変な声を上げるくらいの余裕はある。流石ギャグキャラ」


 あーもうどうでもいいわい。

 色々とグダグダだよ。


『ふん。興が冷めた。私はあの黒竜がいる所で待っている』


 白竜はそう言って、去っていった。


「大丈夫ですか。殿下」

「ああ、しかし強いな。ただ、これで目標は決まったか。白竜、あれが黒竜がいなくなった後のここに君臨する竜か。面白い」

 コンラートは気障に口元に笑みを浮かべた。


「あたしの扱い酷いわぁ」


 うん、ガザックさんは酷いって怒っていいと思う。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る