第6話 僕は女神から般若に変わることにした
「これはどういうことですかね?」
『そのままの話だよ。うん』
ふと、黒竜の姿が霞んで、酒樽が2つ置かれた間に着崩した着物を着たアンリさんの姿が現れた。
「色々と話を聞いたんだけどさ、アンリさんドラゴンだったみたい。昔は日本の山地にいたんだけど、召喚されたとか」
「ちょうど良かった。西から逃げてきて、気付けば日本で人化の術で暮らしてきたがそれも限界だったところに、あの酔っ払いに呼ばれてきたわけだ」
「黒竜はいるけれども人に害意はなかった、と? まさか、村の人は知っていたとか」
「まあ、うん。そだね」
芽衣子さん、答えにくそうな言いよどみ方でわかるんだけどさ。
「僕、騙されてた?」
「あああっ、ドラゴンがきれーなねーちゃんに!」
ガザックさん、酔い醒めちゃいましたね。
しかも腰抜かして、もう大変なことになっていますね。
顔がもう3流ヤクザの雑魚チンピラが逃げる前の顔になって、顔が赤くなって、青くなって、白くなって。目がぐるぐるしていて、口から泡吹いてる。
顔がある意味、ピカソみたいになって、悪役から何が何やらわからない物体と化している。
「眠れ、羊とともに踊れ」
芽衣子は持っていた黒い日傘を広げ、くるくると回し始める。
「何だこれ、ねむ、い」
芽依子の魔術により、ガザックは眠気に耐え切れず、崩れ落ちて眠る。
「はーい、お終い。これですべてはおしま」
プチッ、っと僕の中が切れる音が聞こえた。
「はーい、二人ともそこに正座」
「ナヌッ! ここ土」
「罰なので丁度いいデース」
「どうして、口元が気持ちのよい笑顔で言葉が片言なのに怖いのかな。あ、目元が一切笑っていませんね。何というか、影が入って、あとはゴゴゴゴとか、後ろに般若の仮面を被ったス●ンドみたいなものが見えるような気がするのは私の気のせいかな」
「そんなことはどうでもいいのデース。僕がこんなことをさせた理由はわかっているのカナ?」
「私がドラゴンだということは黙っていたことは許してほしい。しかし、これにはきちんとした意味がある」
「どういう意味デーショウカ?」
「その方が盛り上がるに決まっているじゃない、ネ」
ふらふらと『美少女』の1升瓶を担ぎながらやってきたほろ酔いエルフがのたまう言葉。それはあまりにも残酷な言葉。
「酔っ払い、それは嘘だッ!」
「えー、でも、ものすごくノリノリだったじゃない。女神を担ぎ上げて観光地にすればここの村おこしが出来るって。私も面白そうだって言ったけど、アンリのあの時の腹黒い笑顔は忘れようが無いわぁ」
「馬鹿ッ、そんなことは私は言っていない」
と言いながら、顔は真っ赤で怪しすぎる顔。
「黒竜と戦う女神。中々絵になるから綺麗だろってね。さらにゴーレムとかおいておけば絵になるからってノリノリなのも覚えているよー」
「ふむ。嘘だな。全部酔っ払いの戯言だな」
震え声で答えているところでどちらが正しいか、だ。
ちなみにルディア、お前も正座だ。
「どうして、無言で私を押さえつけるんでしょうか。女神様。あと、『美少女』を取らないで下さい。ちなみにこの提案をしたのは先に召喚されたメイコちゃんの提案」
「ちょっ、おまっ、嘘だと言ってよお兄ちゃん」
予想はしていた。
こんな悪巧みをするのは芽衣子くらいだろうと。
品の無い口元をゆがませた笑いをしながら、しれっと僕を騙そうとする算段を付け、さらに楽しもうとするようなことを考えるのは自称大魔王の芽衣子しかいないと。
ゆらり、と幽鬼のごとく揺らめきながら、三人を睨みつける。
「どうして、そんなに般若みたいなのが後ろに見えるのかな」
「ナゼデショウ? よく、胸を押さえて、自分の行っていたことをよく考えて、きちんと振り返ってクダサーイ」
「私はおにいちゃんのことをよく考えて、これからの事をじっくりと考えた結果、この茶番を考えたわけです」
「本音は?」
「面白いことは盛り上げるのが大魔王としてのエンターテイメント性を付けると思いまして」
うん、有罪。
決定、僕の法廷での判決は。
「お前ら、1時間ここで全員正座」
「それって、凄い鬼――」
「芽衣子正座だ」
罪は裁くべきである。
「アッハイ」
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「というわけでだ。1時間は経っただろう。そろそろ、私達を解放してくれないか。私も足が痺れてたまらないことになっている」
「流石、鬼畜魔女っ子。私のライバルとして、おそるべしだ」
「ああ、お酒。お酒をくれぇ~」
三者三様の台詞をはいているが、反省は足りなさそうだ。
「あと、1時間はたっぷり」
「と行きたいのだが、少々私達にも都合がある。多分、そろそろだ」
アンリさんが空を見上げると、白い鳩が飛んできて、痺れているルディアの頭に乗った。
「あいたたたたイタイイタイ。どうして、私の頭に乗るのが好きなのコイツ」
「噂をすると何とやらだ」
「伝書鳩? 足に指輪が付けてあるんですけど」
鳩の片足に赤い宝石のついた指輪がついており、それをアンリさんが触ると赤い光とともに一人の天パっぽいちゃらい感じの男が土の上が現れる。
後ろが透けていて、魔術を使った手紙のようなものかと思われた。
その男は節くれだった時間を経た古木を使った非常に強い魔力を帯びていそうな杖を持っている。
身なりはよさそうで、どこかの王族を思わせるような品のよい笑みを浮かべている。とはいえ、ちゃらい感じがするのは僕の気のせいだろうか。
『やあ、師匠元気にしているかな。いきなりの投影の手紙で申し訳ないのだけれども許してほしい』
「師匠? アンリさんのことかな?」
『ルディア師匠、私は貴方のところに出現した黒竜を退治しようと思っています。大魔王もいると言うような噂もあるようですので念の為、私の部隊を貴方のところに率いてやってこれそうです。私もスミフェニア 第3王子としてはドラゴンスレイヤーとしての称号を得たいので抜かりはないようにしたいと思います。2日後にはこれるとは思います。では失礼致します』
そう言って、彼の姿は消えた。
「うん、これがあるからさ、女神様ってヤツを呼ぼうとしたんだ。私の弟子コンラート=カウニッツ=スミフェミア第三王子がやってくる――永遠の樹の枝から作られた魔術具を持った数少ない男の魔術師がやってくるから」
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