第5話 僕は裏側を知って、絶望する

 「ちっくしょう!」

  村にあるただ一つの酒場で強面のおっさんが机の上で突っ伏している姿は正直、見苦しい。

 まあ、同情の余地があるのでそっとしておこうとも思ってはいる。


「黒竜の宝、金メッキだったからねえ。まあ、しょうがないかな」

 ルディアが米酒「美少女」の一升瓶をかっくらいながら、そっとしなかった。

 空気読めよ。

 おっさんこと、ガザックさんが完全に悪役顔で子供には見せられないような凶悪面になっているんだけど。


「俺、泣いているんだが。女神様に色々と酷いこと言われていやせんか」


 どうして、僕の思考を読むようなことをして、ルディアの言葉を無視するんでしょうか。

 あと、女神様じゃなくて僕は瑞希って名前の魔女っ娘でもなくて――男だし。

 仕方なく酒の相手を女の子の姿でしているのもしょげているあんたの相手をするからなんだけど。


「おんにゃのこの方が男としてはいいでしょ。男心くすぐりませんか」

「酒臭い息を吐きかけんな。酔いどれエルフ! 酷いレッテルを貼ろうとしないでくれ」

「でもでもぉ、思ってませんかねえ。ほら、私の目を見てくださいじーっ」

 赤い瞳と同じくらい酒で充血した白めに濁ったピースで目潰し。

「おぐおっ! 痛い、これは両目にヒット痛いわっ!」

 悶絶する酔っ払い。

 ごろごろと床を転がり、悲鳴を上げている。


「ひでぇ」

 ガザックさんが一言そんなことを言っているが、知ったことじゃない。


「これくらいなら、この酔っ払いならすぐ復活するでしょう。キャラ的に」


「そんな酷い扱いはありませんよね!」

 といいつつ、ルディアが起き上がって涙目で僕に迫ってきた。

 やはり、復活が早い。

「ほら、ね。予想通り」

「扱いの悪さの待遇改善を要求しますぅ」

 ぶーぶーとルディアが言ってくるが、まあ、どうでもいい話だ。

 もう少ししっかりしてから話してくれないと。


「しかし、皆さんすぐに帰ってしまわれましたね」

「黒竜の宝があれだけしょぼいとなると、当て込んでいた金も入らないわだと、仕方ねーでしょう」


 そう、黒竜の宝はほとんどが黄金だったにもかかわらず、見るものが見るとそれはメッキで塗られた偽者であり、ガラクタだった。

 そのあとの冒険者たちの気の落とし方は酷かったわけで、ご愁傷様というわけだった。

 何とか使えるものはあったらしいのでこの村に着たくらいの経費くらいは取り戻せたらしいのだが、黒竜が持っているものとしてはあまりにも対価が少なすぎる。

 しかも逃げ出したという事になるとドラゴンスレイヤーの称号も得ることも出来なかったわけで散々な結果。

 ちなみに逃げただけなら帰ってくると言うこともあろうが、竜は逃げ出したところには帰らないと言うプライドの高さだとか習性をもっているので返り討ちは無理だとか。

 以上のことで冒険者ギルドに報告という名の愚痴をこぼしに行くだけという状況らしい。

 そんなわけで早々に冒険者たちは立ち去って、村で一つだけあるガザックだけが一人残って、ゲロゲロを酒やら何やらを吐きながら腐っているという体たらくだった。

 あーあ、机が汚れちゃってるよ。涙とか、他エトセトラでドロドロ。

 今は酒場には僕とルディア以外はいないから問題は無いけど、よくないなあ。


「まあ、男だって泣きたい時もあるさ。女の子じゃわからない、ものもあるさ」

「ルディア、僕は男だ」

「どう見ても女の子。金髪ツインテのかわいい女の子。私食べちゃいたい」


 ひくわー。

 ルディアさんひくわー。

 舌なめずりしながら僕に迫ってくるとか駄目だわ。百合属性ですか。


「ちなみに戻ると、男女だってそこの酔っ払いは知るし、私も言いふらす。ついでにメイコちゃんが昔の恥ずかしいシャシーンって言うのを見せびらかすとか言う」

「嘘だな。そんなもの」


「あるよん。ほら、フリフリの金髪少女の写」


「芽衣子さん、いきなり現れて何をおっしゃるんですか。やめてください死んでしまいます。僕は女です。はい、女ですよ」


 酒場に現れた自称大魔王は何故か昔母さんに取られたかわいい金髪美少女の写真を持っていた。

 しかも何枚も。あれは僕が忘れたい過去の一つ。

 ううっ、バリエーションに黒ゴスもあるとか、いっそ殺せ。


「ちなみにこれ、データがあるから焼き直しも異世界だけど出来るからネ」


 嘘だと思いたいのですが、芽衣子はどこからともなく写真を出すことができると言う嘘のような本当のスキルがある。

 どこからか、スマホを取り出してデータを保存して、写真にする。


「というか、この写真母さんが撮った写真じゃないか。どこから」

「もらったに決まっているじゃない。データもクラウドとかCDとか、色々な媒体に保存しているから私観賞し放題」


「魔王め」


「最高のほめ言葉ありがとう!」

 にんまりと笑みを浮かべる芽衣子の姿に僕は心の中でさめざめと泣くしかない。


「さて、ドラゴン討伐? 逃亡? 記念の祝勝会でそろそろ呼びに来たんだけどさ」

 そろそろだと思ったけど、そうか。


「もう行ってしまうんですかい。女神様」

「まあ、そうですね。村はドラゴンが逃げて平和になって、問題解決で祝勝会のようですし。そこの主賓が僕らしいので」

「そうですかい。俺はそんな気分になれませんがね。今回の仕事で金がそんなに入らなかったわけで。ああ、ここも祝勝会の会場になるのか。そろそろお暇させていただきやすよ」


 まあ、いい気分でもないし参加する気分になれないんだろうな。仕方ないかな。


「いえいえ、そこの凶悪面のオジサンにも参加してもらいますよ。ほらほら、お姉ちゃんも一緒に」


「いやいや、凶悪面って、でなくて、俺はそんな気分じゃ」

「僕はお姉ちゃんじゃ」

「はいはい。文句は後で受けるから、ルディアさんも手伝って」

「うー面倒だけど、わかった」

 外に引きずり出される僕とガザックさん。

 酒場から出て行くとそこは村人がわいわいとしていて、祝勝ムードという感じで酒やら何やらを運んでいる。

 僕らが出て行くと男達が酒を運んできたり、肴をいれて騒がしい感じになっていった。


「おーこりゃまた、うらやましいことですって」

「まあまあ、落ち着いてよ。オジサン。広場にお酒があるから、飲んでよ」

「お、おう」


 15歳JK、どちらかというと幼児体型とはいえ、女の子に言い寄られては断りづらいらしい。


「そこのお姉ちゃん失礼なこと思っていないかな」

「思っていません」


 当たり前のことを考えていただけです。

 見当はずれな事を言われても困りますわよ。


「寒いこと考えないかな」

「いや考えてないよ。考えていない筈だよ。多分」


『ところで漫才はいいところなのだが、酒樽はそこに起きたいんだが』


 変な声と威圧感のある影が僕の上にかかった。


「ひえっ、黒竜!」

 ガザックさん、変な事を仰ってませんか。

 うん、違うよね。

 僕の頭上に黒竜が何故か、酒樽かついで持っている姿が見えていますけど、気のせいですよね。


「ああ、アンリさん。邪魔でしたね」

 

 何言っているんだかよくわかんない。


『ああ、仕事は手早くしないと。予定の場所はそこだからな』

「わかりました。じゃあ、どきますね」

『うむ、仕事をするというのもいいのだが、早く酒が飲みたい』


「はーい。邪魔だからどいてどいて」


 ちなみにそこにおいてあるドッキリ大成功とか、古臭い看板は何ですか。芽衣子さん。


「ん、看板無駄になりましたね。アンリさん」

『そうだな。あとでこの姿を見せようと思ったのにな』


「ドッキリ大成功って何?」

「言葉通りですが何か?」

 にやにやにやけた芽衣子の顔が憎らしい。

 というか、これ何だよ。マッチポンプですか。なんですかこれ。


「絶望した!」




 








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