第2話 僕は無理ゲーに挑戦する

「男の魔術師を知っているんですか!」

 僕は身を乗り出した。

「落ち着け。顔が違い。私も女だ。照れるではないか」

 

――さっき女と勘違いしたのは誰でしょうか。


 などと突っ込みたくはなるが、落ち着かなくてはいけないだろう。

 ここでへそを曲げられたら困る。

 僕の望みである男の魔術師がいるという情報を伝えてもらえないかもしれないのだ。

 もちろん自分で探すと言う方法もあるわけだが、ここは異世界。全然知らないところから始めるというのはあまりにも分の悪い話だ。


「どこから話したらいいだろうか」

「まずはこの世界には魔術師がいるんですか。それは女性が多数なんですか」

「ああそうだな。魔術師はいるが、殆どは女だな。男は魔術を使えるやつが大層少ない。しかも大抵は途轍もない魔力を持っていて、王族に召抱えられていて私達も容易に会うことが出来ない。または偏屈で辺境で隠遁生活をしているような人間が多い」

「要は魔術が使える男はいるが、とても少ないと」

「簡単に言えば、な。付け加えると男は魔術を使う為の魔力が少ないから使えない。ただし、魔術を使える男がいたらとんでもない量の魔力を持っていることが多い」

「ということは女性の魔術師は結構いるんですか」

「まあ、その辺も少ないといえば少ないし、普通の暮らしには魔術なんて必要がないし、魔物から取り出したマジックアイテムがあれば使い捨てであれども誰でも使えるわけだし、な」

 と言いつつ、アンリさんは手近にあった赤い石が入っているコンロに触れる。

 ボッと赤い石から火が灯り、ポッドに水と紙に包んだお茶っ葉のようなものをいれた。

 

「こんな風に茶もわかすこともできる。今の赤目石というのだが、一番低い魔物の腹の中を裂いたらごろごろと出てくる。きちんと使えば一月くらいは使えるから便利だぞ」

「ちなみにエルフは?」

「エルフは皆精霊使いだ。男も女も例外無く。魔術は人間と変わらない」


「その中でもルディアちゃんはチョー優秀なんだからネ! しかも、魔術も使えるときて、召喚魔術なんてものは普通使えないんだから――あ、頭痛い」

 と言いながら、頭を抑えてついでに顔を青白くして吐きそうな表情をしながら、蹲っていれば優秀なんてとても見えない。

 どちらかというと落第しているほうがお似合いだとは思う。

 あー洗面所にまた行ったほうがいいんじゃないかな。


「確かにルディアは優秀だが、まあいい。話が脱線した。ここからが本題だ。この村に魔術の使える女神ともいえる存在が必要になった」

「だから、異世界の女神をそこの駄目エルフが召喚し、僕が召喚された。なら、僕が女神になれば男の魔術師を紹介するという話ですか」

「察しがいいね。そういうことだが、君がさっきの女の子だったのかい?」

「不本意ながら」


「えーかわいいじゃん。とってもキュートで(あざとくて)」

 最後の言葉は小声だが聞こえているぞ。


「まあそういうわけだが、考えてくれるかな」


「そうですね、その交換条件はちょっと考えさせて」

「えい」

 と芽衣子さん、僕のステッキをどこからか出さないで。

 ぶるあああああああ、変身はいやあああああ。


「だってさ、これチャンスじゃん。うじうじ考える前に動かないと。考えるな、感じろとか、そんなノリで」


 何かいいこと言ったって顔しているけど、やっていることは問題があるんだが、きゃああ、服がひらひらになっちゃうよぉ。


「ルディアちゃん、これいいかもって思っちゃうわ」

 またカオスな・・・・・・ぴゃー。

************************************

「というわけで、やってきました。ここは村の近くの洞窟」

「何がというわけだ。よくわからず、僕はここまでルディア、あんたに連れられて、よくわからない状態すぎて困っている」

 そう、僕はいつの間にか、召喚された石造りの家から追い出されるようにルディアに連れ出され、山道を歩かされた。魔女っ娘の姿で。

 正直村人からの好奇の目線は何の罰ゲーム化と思うくらいのプレイで死んだほうがマシだと思うような状態で涙が出そうになった。しかも山道は開かれているものの、現代社会に慣れた僕のもやしな体では上り坂で太ももがむくんでパンパンで張り裂けそうだった。

 で、山の中腹に大きな何かで掘られた5階建てのビルほどの大きな横穴が開いている場所まで歩かされていた。

 他の止めてくれそうな、アンリさんや芽衣子の姿は気付いたら消えていて、ルディアに文句を言おうにも華奢そうなエルフにも関わらず結構な怪力で僕を引っ張られて、あれよあれよといういう間に洞窟の前まで連れて行かされたわけだ。

 

「よう、ルディアさん。やっと来てくれたか」

 その入り口の前に何人かの何か悪役っぽい感じのする荒くれ者というか、冒険者っぽい濃いおっさんたちがたむろっていて、その中の傷だらけの山賊のボスっぽいおっさんがだみ声で話しかけてきた。


「どうもどうも。ガザックさん、待っててくれましたか。やっと女神様がやってきましたよ」

「おうよ! おめーら、やっとこさ、メンツがそろったみてえだ。この中にいる黒竜を討つメンバーがそろったってよ!」

 おいっす、とばかりに冒険者たちが鬨の声を上げる。

 ではなくて、ガザック氏が何か不穏な言葉を言ったのでちょっと血の気がさっと引いた。


「なんすか、そのとかいう単語が聞こえたんですけど」


「いやねえ、聞いてなかった? ごめんごめん。これから、竜殺しをしに行くのよ」


聞いていません。

初耳です。


「というか、大丈夫なのか。そのお嬢さん、見た目が派手なんだけど、何か信頼できないと言うか、何というか弱そうなんだが」

「大丈夫ですよ。私は召喚魔術のエキスパートですよ。見た目はアレでも力はありますよ」


 期待されても困ります。僕はね――強くないですよ。


『よくぞ、来た。蛮族どもよ』


 地の底に叩き込まれるような重圧。

 腰砕けになるような感覚。

 そんな声が僕らの頭に響く。


 そして、ひと鳴きの咆哮は僕らをなぎ払うような衝撃ッ。

 僕やそのほかの冒険者一団は近くの岩の後ろに隠れて、咆哮の脅威から逃げた。


「これなんて無理ゲー?」

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