これからの二人 ~La braise~

菊月太朗

第1話

一章 1




「はー、寒くなってきたなー日本も冬だねぇ…」

 季節は11月末。東京都内のマンションのドアの前で雪村ハナハルは手に息を吹き掛けて暖を取っている。

 寒いのもその筈、彼は、パーカーにTシャツ、ジーンズにスニーカーといった出で立ちである。

 彼の持ち物はスーツケース一つに収まっている。その中でも容積を圧迫しているのは大きめのラップトップと液タブで、その他は筆記用具とスケッチブック、ほんの少しの衣類だけである。

 身軽なハナハルは、ふらっと放浪に出て、友人を頼って半年ほどアメリカに住んでいたが、友人が恋人と同棲することに成り、家を追い出されたのであった。

「ふー。兄貴はやく帰って来ないかな~」

 と、ハナハルは五つ離れた兄の史郎を待つ。

 腕時計を見ると、時間は21時を過ぎた所である。

「腹減ってきたなー。うーん、メシ買って来たいけど、金が……」

 情けない声を出して、ハナハルはジーンズのポケットから財布を取り出す。

 開けて、逆さにして振ってみても、空、である。

「カラ……うっ。虚しくなってきた……」

 そうやって、一人ブツブツと独り言を言っている様は、まるで不審者、である。

 そんなハナハルの耳に、エレベーターが上がって来る音が聞こえた。

 音のする方を彼が見ると、五階で止まって、ドアが開いた。

 そこには、彼の兄がいた。

 雪村史郎、その人である。

「よっ」

 ハナハルが片手を上げると、史郎は驚愕したような顔をした。

 (表情筋が死後硬直している顔の兄貴にも表情のヴァリエーションがあったとは……うーん、実に珍しい!)そんな、或る意味無礼な事をハナハルが思っているとは知らない史郎が歩きながら尋ねた。

「……なぜここにいる?」

 ハナハルはひらひらと先程と逆のポケットから出した葉書を振る。

「兄貴が転居するって葉書、くれたんだろ」

 さすがの史郎は海外に住む弟にも転居の際、ご丁寧にエアメールを出した。

「おまえはアメリカに住んでいたのではないのか?」

 史郎が質問すると、つい尋問のような口調に成ってしまう。

「うん。でも、追い出された。友達んち。同棲するんだって、恋人と」

 パラパラとした言葉が舞い散るハナハルの意見を聡明な史郎は脳で情報を整理してから、(成る程)と史郎は一応の納得をした。

「……。それで、どうして此処に来た?」

「だって帰るとこないし」

「実家があるだろう?」

「やーだね! あそこはオレの家じゃない!」

 弟の反論に、兄は色々と想い出して、その話題に触れることを止めた。

 鎌倉の実家は、史郎が考えても、弟にとって余り戻るべきだと推奨される場所では無いと考えたからだ。

「……そんな事より、何故そんな寒い恰好をしている?」

 質問の意図が全く解らないハナハルは、子供のようにキョトンとした。

「え? だってオレが居たのマイアミだもん。南フロリダ」

 頭が少し痛くなってきた気がするが、気のせいだと史郎は思い直した。

「なんでそんなに考えなしに行動するんだ。日本はこの季節もう寒いだろうとは解らなかったのか」

「あ、うん、忘れてた。あと金が無かった」

 ハナハルは史郎の言葉をアッサリと躱(かわ)した。

「――金が無い……?」

 ここに来て、史郎は頭を抱えたく成って来た。

「判った。とりあえず、家(うち)に入ろう。そしてお前は御飯を食べて風呂に入れ。それから話そう」

 史郎の意見に飛びつかんばかりに喜ぶハナハルは、まるで飼い主に尻尾(ルビ:しっぽ)を振る犬のような喜色満面である。

「ラッキー! 泊めてくれんの? メシも! やったね!」

 ハナハルは小さく「よっしゃあ!」と呟いて、ガッツポーズまでしている。

「当たり前だろう」

 史郎は冷静に答えて、玄関の鍵を開けた。


 ――二人の奇妙な共同生活はここから始まるのであった。






 2




 案内された史郎の部屋はモデルルームのように整然としていた。

 それを兄らしいとハナハルは口元を緩める。

「とりあえず、風呂を沸かしてくるから、沸いたら入りなさい。私は、その間に夕食を作るから」

 史郎はそう行ってバスルームに消えた。

 ハナハルは、とりあえず荷物をキッチンの机の側に降ろすと、台所の流しで手を洗って、嗽(うがい)をした。そして、そのまま流しのタオルハンガーに掛かっていた高級そうな――国産のふかふかした肌触りのタオルで手を拭いた。

 何時の間に戻ったのやら、史郎はハナハルの後ろに立っていて、

「ハナハル、行儀が悪いぞ。風呂場の前に洗面所があるから、今度から其処を使え」

 と、惘れたように声を出した。

「へいへーい」

 ハナハルは聞いているようないないような、何とも気のない返事を返した。

 キッチンにはシンプルな木製の机と椅子が置いてあり、椅子はお誂え向きに二客あったので、許可も取らずにハナハルは、その片方を引いて座った。

 史郎はケトルに水を入れ、コンロに載せ、湯を沸かしている間に、流しの上の収納を開け、ダージリンのオカイティ農園の茶葉の入った紅茶の缶を取り出すと、茶葉をティースプーンで掬ってティーポットの中に入れる。 

 その後、沸いた湯を淹れて蓋をして蒸らして、ハナハルの前にティーポットを置いた。

 次に、流れるような手付きで、食器棚から、セーブルのアガサブルーのティーカップとソーサーを二客取り出すと、蒸らし時間が終わった紅茶をカップに淹れた。

 きれいな水色と、華やかな香りが鼻腔を擽る。

 久し振りに良いお茶が飲めるとハナハルは上機嫌だ。

 なにせアメリカでの暮らしではずっと同居人の趣味と、手に入りやすさから珈琲ばかり飲んでいたからだ。

「どうぞ」

 史郎が律義に宣言してハナハルの前にティーカップを置く。

「やっぱり、兄貴は紅茶派だよな」

 しみじみハナハルは呟いて、紅茶を口に入れた。

「?」

 疑問符が浮かぶ史郎の顔を見て、ハナハルは付け足す。

「だから、珈琲より紅茶の方が昔から好きだろ?」

「――ああ。そうだな」

 史郎も椅子に座って、紅茶を飲む。

 ハナハルはティーカップの紅茶を覗き込んだ。

「兄貴みたいに美味しく淹れようと思っても、昔から出来なかった」

 しんみりと呟くハナハル。

 そして、それを聴いた史郎の顔に、またしても疑問符が貼られていた。

 尤も、デフォルトが鉄壁のポーカーフェイス状態の史郎の表情で、そういう事を汲み取れるのは一緒に過ごした時間の最も長いハナハルだけだった。

「いや、別にお前の淹れてくれた紅茶も美味しかったと記憶しているが……」

 史郎の言葉にハナハルは、また笑った。

「あー。そうだよな。兄貴は昔から天然だもんな」

「天然なのはお前の方じゃ」

 ないだろうか、と言いかけて、先程風呂場で思い付いた事を言わなければと史郎は考え、言い直した。

 居住まいを正して――といっても元から、姿勢の良い史郎ではあるが――、一つの提案をした。

「――さておき、暫くハナハルは此処に住みなさい」

「へっ?」

 ハナハルは驚いて、弾かれた様に手元の紅茶から顔を上げ、まじまじと史郎の顔を見詰めた。

「そんなに驚く事だろうか?」

「いや、てっきり邪魔、とかで追い出されるかと……」

「邪魔な訣(わけ)あるか。大事な弟なんだから」

 目線を合わせて、史郎が恥ずかしげも無く言った言葉にハナハルは気恥ずかしくなって、先に顔を逸らした。

「あー。……さんきゅ、兄貴。助かるよ」

「だから、暫くうちに住んで、仕事して、お金を貯めなさい」

 建設的というより当然の帰結であるが、史郎の言葉はハナハルからしても正しかった。

 そもそもハナハルは貯金をするタイプではないし、そもそも論として定職に就いて毎月定額きっちり支払われるような仕事でもなければ、必ず仕事が来る訣(ルビ:わけ)でもない。

 何より、帰国の航空券代でハナハルの貯金残高は吹っ飛んだ。

 ――付け加えるのならば、正直なところハナハルは『兄ならば自分をきっと受け入れてくれるだろう』と思っていたからこそ、兄のマンションまでの片道運賃だけはお金を掻き集めて来たのだ。

「……そうする。一応、挿絵の仕事来てるし、ちっちゃい会社だけどゲームのキャラクターデザインの仕事も取って来たから」

 ハナハルはイラストレーターである。

 ハナハルには、この仕事以外出来ないし、元より、する気もない。故に、相当な気合いで何時も仕事に臨んでいるので、時間の許す限り完成度の高い作品を提出するのだが、それには作品のみに集中出来る環境が不可欠だった。

 ハナハル一人だけでは、仕事中は何も食べない、水も飲まない。それ程のめり込んで集中してしまうから、冗談ではなく、死んでしまう。

 だから、常に誰かと一緒に暮らして来たのだが、直接兄を頼ったのは大学入学以来初めての事だった。

「それは良かった」

 淡淡とした、あまり抑揚のない声だが、史郎が喜んでいるようだとハナハルには伝わった。

 そもそも、ハナハルが今のイラストレーターの仕事をしているのは、兄の御陰である。

 ――というか、大恩人である。

 親に大反対されたハナハルの道を、史郎だけが応援してくれて、しかも、身銭を切って画塾にまで行かせてくれたのだから。

 ――勿論、その後、美大に入ったハナハルの学費を払うべきであると親を説き伏せたのも史郎だった。

 何故か史郎は、自分は検事という誰が見ても堅実な親の望んだ職に就いているのに、食えないことで有名な職にハナハルが就く事を止めなかったし、寧ろ応援してくれているのである。

 だから、親族中で唯一、ハナハルのペンネームを知っているのも史郎だけ、である。

「ああ、良かったと言えば、この前の本の表紙、綺麗だったよ」

 また想い出したように史郎が口にした。

「え? あー」

 ハナハルは面と向かって誉められて迚(とて)も驚いた。

 まさかそんな方向から、またしても兄から豪速球が飛んでくると思わなかったのだ。

「『血塗られた巫女と聖戦の騎士』。あの絵、お前だろう?」

「あー。ああ、あれね。……うん、そう」

「『雪ノ下ハナ先生』の本はちゃんとチェックしているぞ。ブログもTwitterも見ている」

 得意気に言う史郎。そんな兄の無条件な好意は非常に有難いのだが、血の繋がった兄弟に誉められるというのは何故か凄く羞恥プレイのように感じられるハナハルである。

「あー。すごい恥ずい……でも嬉しいよ」

 赤い顔を手で覆って隠して、ハナハルは言葉を返した。

「そういえば、まとめサイトでお前の事を綺麗な女性だと言っているファンが居たぞ」

 史郎の言葉にハナハルは露骨に顔を顰(しか)めた。

「……それ定期的にでるネタだから。兄貴ちゃんと記事読んだか? その後はきっとこう続くんだぜ『あんな男性からあんな可愛いイラストが生まれる奇跡!』とか『雪ノ下ハナ先生は男性ですよ』とか『いっそ清々しい程のギャップが』とか! でもな、オレ、美少女ばっかり描いてる訣(わけ)じゃないんだぜ! モンスターとかドワーフとか騎士とか神とか悪魔とか、っていうか無生物とか、背景とか、それこそ描けるものは何でも描いてる! …………しっかし、なんでああ言われちまうのか……いや、そりゃ女の子は可愛く描きたいけどさあ……」

 ブツブツと不満気なハナハルを見遣って「まあ、ファンに誉められているのは良い事じゃないか」と史郎は相槌を打った。

 しかし、その史郎の言葉を受けて、ハナハルは俄然、鼻息を荒くした。

「もう悔しいから、エイプリルフールとか、コスプレしてネタ画像上げてやった!」

 してやったりと言わん許りのハナハルの様子が微笑ましくて、史郎が珍しく声を上げて笑った。

「はは、それで美剣士とか、可憐な美少女コスプレとか書かれていたのか」

 史郎自身は深く得心が言って非常に愉快な気持であったが、ハナハルはそんな兄の態度が気に喰わなかったのか、

「兄貴、記事読んでんじゃん!」

 と、叫んで立ち上がった。

 その勢いでハナハルの座っていた椅子がひっくり返った。

「いや、だから、面白いなと思って」

「…………」

 ハナハルは、むくれた。

「まあ、座れ。風呂が沸いたら行って来い。私はこれから料理を作るから」

 と、史郎は立ち上がった。

 ハナハルは転がった椅子を手で戻しながら、座り直して尋ねた。

「何作んの?」

「ビーフストロガノフだ」

 サラッと史郎は答えた。

「へーいつもそんなに凝ったの作るの?」

「いつもな訣あるか。ハナハルが来たからだよ。最愛の弟が久し振りに帰って来たんだ、出来るだけ美味しいものを食べさせたいだろう?」

 その言葉にハナハルは不覚にもジーンと感動して、

「……兄貴っ! 超ありがとう! 大好き! 愛してるぜ!」

 と言って史郎に抱き付いた。

「まったく、お前は大袈裟でゲンキンなヤツだ」

 史郎は言い乍ら、ハナハルを手で退(ルビ:ど)けると、冷蔵庫を開けて続けた。

「最近、おいしいレシピを見付けてな。休みの日に一回作ってみようと思ったんだ。それで食材が有る――ハナハル、お前は相変わらず運が良いな」

 なんて事無く史郎は言うが、ハナハルは相当な強運の持ち主で有る。

 だからこそ夢を着実に叶えてきたとも言える。

「どんなレシピ?」

「坂井シェフのレシピだ。料理の鉄人って番組が昔あっただろう?」

「あー! あった! それ、アメリカでも似た番組やってたよ」

「それは日本の番組が好評だったから、アメリカが真似して作った番組だな。アイアン・シェフだろう。……そのままだろ?」

「ほんとだなー独創性なさすぎ」

 クスクスとハナハルが肩を揺らした。







 3




 笑っていたら、風呂が沸いた音がして、兄の史郎に勧められるがまま、弟のハナハルは風呂に向かった。

 史郎は風呂に向かうハナハルに、風呂場の脱衣所に置いたカゴの中に、バスタオルとハナハルが暫く使う用のパジャマを置いた旨を指示すると、自分はテキパキと料理を始めていた。


「ふー、久し振りに浴槽に浸(つか)ったよ! お先に~」

 史郎のパジャマに着替えたハナハルが出て来た。

 体から、まだ湯気が出ているように、ホカホカとして満足そうだ。

「あとパジャマ久し振りに着た!」

 ハナハルは、はしゃぐように言った。きちんと洗濯されてアイロンまで掛けられた清潔なパジャマは袖を通すと迚(ルビ:とて)も気持の良いものだが、それにも増して、ほんのりと兄の匂いの残る服がハナハルの気分を昂揚させた。

「そうなのか?」

「うん、何時も高校の時のジャージ」

「寝間着じゃなくてジャージで寝ているのか」

 驚く史郎をよそに、しれっとしているハナハル。

「そうだよ。昔っから」

「……そうだったか? 小さな頃のお前はパジャマを着ていたと思うがな」

「うーん、あー、そうだなー小さい頃はそうだけど、んー。中高は兄貴と擦れ違ってたからなあ……知らなくてもしょうがないか」

「そうだな。残念な事だ」

 さらっと激しいことを言っている史郎だが、ハナハルも史郎もそこには気付いていない。

「すごい良い匂いがする!」

 ハナハルが嬉しそうに兄の掻き混ぜる鍋を覗き込んだ。

「ああ食事が出来た所だ。席に着きなさい」

「へーい」

 ハナハルが席に着くと、史郎が配膳を始めた。

 机に置いたワイングラスに赤ワインを注ぐと、台所からメインディッシュを運んできた。

 平たい皿の上に乗ったバターライス。その隣にビーフストロガノフが掛かっており、上にはサワークリームを流し、更にパセリが載っている。

「おおー! きれー!」

 ハナハルが感嘆の声を上げる。

「それは良かった」

 素直に感情を表現するハナハルの、衒(てら)いの無い賞賛に史郎の心が珍しく嬉しくなって、胸に温かな感情が込み上げてきた。

「兄貴スゲー」

 尚も誉めるハナハルに、史郎は気持だけ朱を刷(は)いたような色に成った頬に自分では気付かずに、

「ありがとう。さあ、食べようか」

 と席に着いた。二人は手を合わせた。

「いただきます」

 声が重なった。

 そうして、二人は食べ始めた。




「やー、バターライスに合うねぇ! 超うめー! 兄貴天才!」

「いや、レシピを再現しただけで……」

 小さく呟かれた史郎の言葉を遮って、ハナハルは続ける。

「赤ワインもうめー! 久し振りに飲んだ! おっしゃれー! ほんと、兄貴んち来て良かった! 兄貴ありがとう! 大好き! 超愛してる!」

 ハナハルの掛け値なしの喜びの感情は、史郎の心を再度じんわり温かくした。

「うむ。口に合ったのなら、良かったよ」

 史郎は嬉しそうに、少し照れた様に言った。

 実際、それはハナハルにしか伝わらない感情だった。

 それもその筈、他人から見たら史郎の表情は不断通り変わっていない上に、声色にもそういう部分が然程も出ていない。

 けれど、ハナハルだけには兄の感情が手に取るように伝わるのだった。

 だから、ハナハルは又嬉しくなって、幸せのスパイラル、である。

 



 二人は楽しく食事をして――一方的にハナハルが色々と捲し立てていただけだが――、食べ終わった後は片付けを手早く済ませ、それから、やっと史郎は風呂に入ったのだった。


 史郎の姿を見送ってから、布巾で拭き終わったキッチンの机の上にハナハルはスーツケースから取り出したラップトップと液タブを広げた。

 メールを確認して締め切りと注文内容を確認し、構想を練り始めた。

 ただ今日は珍しく仕事をする気にならなかったので、軽く落書きをして、帰国した旨と共にツイートしたのだった。




 いつの間にか風呂から上がった史郎が後ろから声を掛けた。

「仕事か?」

 ハナハルは驚いて、振り返る。

「あー。いや、違う」

 と、首を振る。

「そうか? 何か絵を描いていたようだったが?」

「うん、Twitterにアップしたよ」

 ハナハルはラップトップの、手元の画面を史郎に見せる。

「その絵は仕事じゃないのか?」

 つい史郎が質問した。なぜならば、見せられたその絵は、一つの作品として出しても良いようなクオリティに思えたからだ。

「仕事じゃ無いけど――或る意味仕事でもあるって感じかな」

 増えてゆくリツイート数と、いいねの数を見遣って、ハナハルはラップトップのパソコンを閉じた。

「そうか」

 と史郎は頷いて、新しい話題を切り出した。

「ところで、仕事をするのであれば、私の机と椅子を使いなさい。ここでは不便だろうし、何より、本来食事を摂る場所で仕事道具を広げられると、二人とも御飯が食べられないだろう」

 至極ご尤(もっと)もな意見にハナハルも承諾する。

「わかった。じゃあ、兄貴の部屋借りるね。……っていうか全部兄貴の部屋だよな、ここ」

 ハナハルが部屋を見渡して言った。

 史郎は失念していた事を又一つ想い出した。

「そうだったな。まだ案内していなかった。気が利かなくて、すまない。簡単に説明すると、この部屋の両側に一づつ部屋があるんだ。右側で仕事をしなさい。左側の部屋は寝室だ」

 史郎が矢継ぎ早に言い終えて、ふと、言葉を止めた。

 そして、閃いたようにハナハルに衝撃的な通告をした。

「今日からお前の寝室でもあるな。客用の蒲団がないから、一緒に寝るか」

 史郎の爆弾発言に、ハナハルは固まった。

 何も答えないハナハルを不審に思った史郎が、

「……?」

 首を傾げた。

 兄の動きが、何か迚(とて)も心を捉えて放さない可愛らしい仕種のように映って、数瞬、ハナハルは言葉を失った。

 が、しかし、何かを答えねばと決意して、絞り出すような声で尋ねてみた。

「――ソファとか、何か、ない?」

 そんなハナハルの態度の奥の何かに気付かない史郎は、

「ないな。すまんな」

 と淡白に答える。

 バッサリと、目の前でハナハルの頼みの綱は切って捨てられた。

「えーっと、……兄貴はそれで良い訣(わけ)?」

 ハナハルは俯いて、少し震える声で質問を更に返した。

 が、しかし。

「兄弟だし、何も問題ないだろう? ああ、多少窮屈かもしれないが、セミダブルサイズだから大きさも然程問題無いだろう」

 言葉を選んで、暗に質問したハナハルの耳に、さらりと爽やかな史郎の言葉が追撃されただけだった。

「セミダブル……」

 そういう問題じゃないと主張しようとするハナハルの言葉は口から溢れずに喉の奥に消えた。

「とは言え、休日になったら、当座のハナハル用の蒲団を買いに行こうかと思うが……。現在の私の職場が公判部なのは知っているよな? 申し訳ないが、暫く忙しくなりそうなんだ。故に私は平日に身動きが取れない。お前が気に成るなら、今日はどうしようか? ――否、適切な表現では無いな。今日から暫くどうしようか? 因みに私の休日は四日後だ」

 更なる衝撃の発言の数々にハナハルの目はポーンと飛び出そうになったが、しかし、さすがの兄も、ずっと一緒にセミダブルベッドで寝ようと提案した訣(ルビ:わけ)ではない事に少し安堵したが、ハナハルは随分会っていなかった兄の性格を量りかねている自分に気が付いた。

 確かに、『兄は天然だ』と云う認識はあったように思うが、これ程何か軽く眩暈のするほどズレているようには今まで思えなかったので、考慮の範囲外だった。

「あー。オレ明日買って来ようか? 蒲団。お金貰えれば、の話だけど……」

 ハナハルは小さく反撃した。

 それを聞いて、「ふむ」と首を縦に振ってから史郎は、キッチンの掛け時計を見た。

「判った。明朝までに机の上に用意しておこう」

 史郎の答えは明快で、ハナハルは、また少し安心した。

 が、しかし。

 此処に来て迄(まで)も、どこまでも。

 ハナハルの退ける腰に全く気付かない史郎である。

「それで、今日はどうするんだ?」

 と、結局――史郎はハナハルを撃墜したのだった。

 ハナハルは何度か、唇を湿らせてから、か細い声で答えた。

「兄貴と、一緒に、寝る」

 その答えに史郎は「そうか」と頷いた。

 史郎にとっては何でも無い事の様子だが、ハナハルには衝撃的だった。


 普通、好い年した兄弟は同衾しないだろうと云う一般常識のような何かが史郎にはどうやら無いらしいと言うことがハナハルの衝撃を深くした。


 いつもあんなに良識的な模範みたいな態度で近所でも有名だった兄が、こんなトチ狂った事を言うとは、さすがのハナハルでも考えも付かなかった。

 というか、及びもつかなかった。

 (ああ、でも、客用の蒲団ないし、ソファもないから、兄としては畢竟、当然の帰結なのか)と、ハナハルはごくりと唾液を飲み込んだ。

「私はもう寝るが、お前はどうする?」

 史郎の質問に、

「……寝る」

「そうか」

 事務的に相槌を打たれて、またハナハルは途方に暮れた。




 しかし、現実は得てして予想を裏切る物である。

 それも、衝撃的な方向に。


 ――ハナハルは実に良く眠れたのだった。







4




 ――朝の七時。

 何時も通り史郎は目が覚めて、起き上がった。

 それは、彼が目覚まし時計が無くても決めた時間には目が覚めてしまうタイプの人間だからだ。

 上体を起こして、ハナハルの方を見ると、まだ、熟睡している。

 時差ボケなどの症状もあるのかも知れないと考えて、一応の保険としてセットしてある目覚まし時計をハナハルを起こさないように静かな動きで止めた。

 そして、ベッドから抜け出して、ハナハルに蒲団を掛け直し、小声で「私は起きるが、お前は未だ眠っていて良いからな」と伝えた。

 眠りに落ちているハナハルだが、史郎の声が届いたのが「ふぁーい」とかムニャムニャ寝言に消える語尾を口にした。

 その姿は、まるで一緒に寝ていた頃の、幼稚園児だった頃のハナハルの仕種と同じで。

 我知らず、史郎にしては珍しく口元に微笑みが浮かんだ。


 機嫌の良いまま史郎は仕立ての良いYシャツの上にベストを着込み、ジャケットを羽織り、出勤用のキッチリしたスーツ姿に着替えた。

 加えて、史郎は昨夜ハナハルに言われた事を忘れていなかった。

 財布から、数枚、壱萬円札を取り出すと、封筒に入れて机の上に置いた。そして、封筒に蒲団代とサラサラとパーカーの万年筆で文字を書いた。

 それから、昨日のビーフストロガノフを温め直して御飯と一緒に食べると、歯を磨き、手入れの行き届いた革靴を履き、律儀に小さな声で「行ってきます」と玄関で挨拶をして、出掛けたのだった。





 窓から入る日差しが眩しくて、瞑った眼でも、瞼の裏が白い感じがする、とハナハルは思う。

 (これは、そろそろ起きないといけない。……でも眠い……)。

 そんな葛藤を数回繰り返して、やっと。

 えいや、とハナハルは目を開けた。

「うっ。やっぱり眩しい……今何時だろ?」

 ハナハルはベッドサイドの目覚まし時計を薄目で確認する。

 ちょうど、十二時半を回ったところだ。

「あー」

 ハナハルは呟いて、考える。

「なんちゅーこっちゃ……」

 口から感慨がダダ漏れる。

 (不可抗力? とは言え、兄貴と一緒のベッドで眠ってしまった)。

 そんな事実が頭を、ぐわんぐわん掛け巡る。

 (どうしても眠れないだろうと思っていたのに!)

 と頭を掻き毟る。

 (のに……!)

  と、ハナハルは頭を搔いていた手を止めた。

 (悲しいかな? オレの体は正直だ)。

 ぱたん、と手を蒲団の上に投げ出した。

 昇り切った太陽の光を背に、

「なんというか、快眠?」

 ハナハルは枕をぎゅっと抱き締めた。

 史郎が貸してくれた枕は、兄の匂いが染みついていて、これまた快い匂いがして、……正直、又(また)、眠くなる。

「過去、未だ嘗て、これ以上無いくらいにグッスリと良く眠れた……」

 ハナハルは言ったきり、絶句する。

 脳ではフルスピードで思考が過去の想い出と共に駆け巡る。(本当に、完全な快眠と言っても良い。……拍手だ! 喝采だ! ってか、ホント、何だろう、兄弟だからか?)とハナハルは深~く悩み始める。

 実際ハナハルは、今まで他人と同衾して、と云うか一緒に眠って、眠れた記憶が無いのである。

 『無い』どころか、『皆無』である。

 男でも、女でも、年齢も、全て関係なく、剰え、その当時、恋人だとしても、必ず魘(ルビ:うな)されるか、全く眠れないかの二択で、どんなに頑張っても改善しなかったので、結局ハナハルの出来る解決法は、事後、直ぐにベッドから出て別の場所で寝るか、若しくは、眠れないまま数分から数時間悶々とした後、逃げるように自分の部屋のベッドに帰るかの二択だけだった。

「兄貴は違う……。これって何だろう? ……匂い、なのか? わからないが、ともかく、得体の知れない安心感があって、この上なく幸せに眠ってしまった事だけは事実だな」

 ハナハルは独り言を続ける。

「ほんと、マジで、なんだこれ?」

 本当に驚いた様子でハナハルは思考を続ける。

 それがそのまま言葉にダダ漏れているのにも気が付かない。

「そういえば、朝、兄貴は几帳面に挨拶して起きていたように思う」

 (ま、寝汚いオレは返事だけして、そのまま又眠りに落ちたが)と心で付け足す。

 さすがにベッドからのそのそと動き出して、キッチンに向かう。

 すると、机の上に昨日の約束通り、史郎が置いた少し膨らんだ封筒が見えた。

「さすが兄貴」

 極めて実直である。

 ハナハルは義理堅い兄の用意した蒲団代に感動したが、何だかそのお金に手を付ける気に成れなかった。

「この、快眠の先を知りたくて……」

 ハナハルは積極的に家を出る気にも成らなかったし、何より寝具を買う気にも成らなかった。

 買い忘れたとでも言えば、また兄と一緒に眠る事が出来ると確信していたからだ。

 食事に昨日の鍋を温め直して、炊飯器の中から御飯を取り出して、皿に盛った御飯にビーフストロガノフを掛けた。そして、机に運ぶと、キッチンの抽斗からスプーンを取り出す。

 更に、戸棚から出したガラスコップに水道水を汲むと――遉に、ハナハルも蛇口に付いた浄水器を通したが――、席に着いた。

「いただきます」

 手を合わせて、食事を始める。

 ビーフストロガノフを口に運んで、食べる。

「うまい」

 素直に感慨が漏れた。

 (バターライスじゃなくてもうまいのな)と感想を胸に浮かべて、

「兄貴、イイ嫁になりそ。あ、夫だから、婿、か」

 と独り言を言って、でも、不思議と、それは余り想像したくないな、とハナハルは思った。

 そういえば、とハナハルは考えた。

 兄貴のしている秋霜烈日のバッジは、とても綺麗だと思う。過去に一度だけ見せて貰った事があるが、あれは実に兄貴に良く似合っていた。

 弁護士のピカピカした金色のひまわりに天秤の徽章(きしょう)よりも、裁判官の八咫鏡に浮かぶ裁の字の徽章よりも……。

 検事の紅色の旭日(きょくじつ)に菊の白い花瓣(かべん)と金色の葉の徽章が――一番、恰好良いと思う。







5




 食事が終わって、食器を流しに置くと、ハナハルは自分の荷物を前日の兄に言われた通り、キッチンから右側の部屋に移動させた。

 そこは史郎の書斎とでも言うべき場所だった。

 シンプルで整った部屋である。

 ――何せ、机と本棚しかない。

 壁一面には大きな本棚が張り付いており、反対側の壁に沿わせた机と椅子だけが存在するだけの空間である。

 本棚には分厚い法律の本が整然と並んでいるが、その隣に場違いなサイズもまちまちなハナハルがイラストを手掛けた本が作品の発行順に並んでいる。

 嬉しいやら恥ずかしいやら、なんとも言えない声がハナハルから出る。

 (ほんとに兄貴は……)と考えるが、矢張り嬉しいハナハルは、又、機嫌が良くなった。

 それと同時に、しかし、さすが兄の部屋だとハナハルは驚嘆した。

部屋があれば直ぐ散らかるタイプのハナハルなので、散らかっていない部屋は、それだけで尊敬に値するのである。

 しみじみ本棚を見詰めて、

「へー法律の本って色分けされてんのか。刑法は緑色、商法は黄色、民法は赤色、憲法は青色、茶色は六法全書か……ふーん」

 本棚の背表紙を目で追って独(ひと)り言(ご)ちる。

「あとは、これは雑誌か……定期購読してるって兄貴らしいなー『ジュリスト』って……うーん、ほんとに法律家って感じだな。――しっかし、ここにオレの本って、ほんと、合わねーな」

 ハナハルは自分以外誰も居ない部屋で目一杯上機嫌にクスクス笑った。


 兄らしさに溢れた部屋は、ハナハルには迚(とて)も好ましくて心地良かった。

「さて、やるか」

 そう呟いてハナハルは、机にラップトップと、液タブと左手デバイスとキーボードを置いて、作業を開始したのだった。







6







 公判部に属する史郎の執務室には、検察官の机と椅子、事務官の机と椅子の他、事件記録を保管するロッカー、検察官・事務官の本等を入れる本棚、そして、検察官・事務官それぞれの上着などをしまうロッカーが備え付けられていた。

 史郎の事務官は、桂という若い男性だった。まだコンビを組み始めて間もない。

 午前中の仕事を黙々と二人で熟(こな)し、東京地方検察庁の地下食堂で昼食を摂(と)った後、史郎は昼休みに昨日の帰宅中に買って来たハナハルが表紙と挿絵を描いているライトノベルを読んでいた。

 『異世界の勇者の日常は異能バトルのなかで』という本で、内容は扨措き、ハナハルの絵は光っていた。

 肉親の贔屓目で無く、本当に表紙が数ある本の中でも目を惹いて、輝いていたのだった。

史郎はハナハルの挿絵をより深く理解する為にも、本文に目を通していた。

 すると、

「変わった本をお持ちですね、雪村検事」

 と、事務官の桂に話し掛けられた。

 桂とは仕事の話以外話した事が無かったので、少しだけ史郎は驚いたが、彼の疑問に答えるように言葉した。

「ああ、桂君。――これは、私の知り合いが関わっている本なんだ。だから、応援の為に買ったんだ」

 努めて冷静に答えた積もりだったが、史郎の表情が、どうしても、柔らかくなる。

 桂は、そんな史郎の表情に、非常に驚いた。

「お知り合いは……」

 と切り出して、桂は少し悩んだ。史郎の専門から見て、大学の知り合いと云った所だろうとアタリを付け、更に思考する。――だとすれば、きっと編集者か、小説家だろう、と。

 そして、口を開く。

「小説家さんですか?」

 その問い掛けに、史郎は笑った。

「……いや、イラストレーターなんだ」

 と照れたように話す史郎。

 その表情に、桂は固まった。

 不断(ふだん)、表情がデッサン用の石膏像みたいに表情が一ミリメートルも変わらない史郎が、その顔に表情を乗せたからだ。

 しかも、白い肌をうっすら上気させて居る。

 愁眉を開く、とっさにそんな慣用句が頭を掠めた。――少し違う。と、桂は首を振った。

 いずれにせよ、衝撃が、走ったのだった。

「イラ、イラストレーター? ですか?」

 桂は、自分でも声が裏返ったのが解るが、どうしようもない。

 桂の驚きも当然である。

 彼の中の雪村史郎検事はパーフェクトな仕事人間で、鉄壁のポーカーフェイスで、彼が東京地方検察庁に来てから一緒に仕事をしているが、彼の表情が変わったのを初めて見たのだ。

 おまけに、あの、堅い事で有名な、清廉潔白で名高い、難攻不落の城に譬えられるような、おまけに、頗(すこぶる)る付きで優秀な――司法修習生時代に「裁判官にならないか」と、直接、肩叩きをされ(後に理由が明らかになるのだが、それは史郎が旧司法試験の主席だった上、人品優れていた為だと、スカウトし損ねた裁判官の嘆き等から周囲に広く理解される事になった事件)、更に司法修習時代のカリキュラムにある模擬裁判で伝説になっている完璧な(主文も理由もケチの付けようが無い)素晴らしい判決宣告をした――、そんな雪村史郎検事に、一番接点のなさそうな、職業だったからだ。

「そうなんだ。すごいだろう」

 と、尚も無邪気に、誇らしげに史郎は言っている。

 それに、桂はもっと混乱した。

「…………す、すご、すごいです、ね……」

 辛うじてそれだけ口にして、そそくさと桂は史郎の執務室から出て行った。

 史郎は、そんな桂の様子には全く気付かずに、機嫌良く本を速読しているのだった。




 桂は、自身の精神の立て直しに、少し時間が掛かりそうだった。

 それは、史郎が悪い訣(わけ)では勿論ない。

 ただただ衝撃、だったのだ。

 桂は事務官なので、職業柄、通常――検事とは夫婦以上の付き合いになるのだが、そもそも、まだ一緒に仕事をして間も無いし、今回の事は何より桂の予想外の事態だった。

 とにかく桂は一人になりたくて、何故かトイレに走ったのだった。

 



 トイレの個室に籠もって、ぐるぐると桂は考えた。

 雪村史郎検事について事務官である桂の見解は、今まで表情が変わらなくて余り何を考えて居るのか解らない、ちょっと恐いくらい優秀で、でも、側(ルビ:そば)で一緒に仕事をしていて、その誠実で正義に忠実な人柄が垣間見えて……まあ、一言で纏(まと)めるならば、人として尊敬――していた。

 そんな彼の意外な一面に、桂は驚きを隠せなかった。

 (そうだよな、まだそんなに時間経ってないもんな)と、自分を慰めるように回想した。

「いや、これは或る意味、こう、リーズナブル、いや違う、親しみやすい人で良かったって事だよな。雪村検事、表情全然変わらないし、だから、ぱっと見、恐いもんな。うん、うん。優秀すぎて人間っぽくないし。……うん。でも、あんな風に表情が変わることもあるんだなーすげーなーびっくりしたー」

 と桂はブツブツ独り言を続けた。

 斯(か)くの如(ごと)く、史郎は大変に誤解されやすい人間であった。


 最終的に桂は、自分の五三桐の徽章を見て、ハッとしたのだった。

 この徽章に込められた想いの通り、国民の為、延(ひ)いては平和の為に己の職務の遂行を頑張ろう、と思い直したのだった。






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これからの二人 ~La braise~ 菊月太朗 @Kikudukitaro

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