第4話 陰陽師、参上する

 晴瑠は金野のもとに歩み寄ると、踏みつけられたままのテレビ付喪神にお札を貼った。すると、テレビ付喪神の手足は透けていき、ただのブラウン管テレビに戻った。


「これで襲ってくることはもうないでしょう」

「助けていただいてありがとうございます」

「いえいえ、陰陽師として当然のことをしたまでですから」

「いや助けたのあっしですから‼ お嬢はほぼ何もしてやせんよね!?」


 聞くところによると、晴瑠はあの陰陽師、安倍晴明の末裔の一族だそうだ。しかも安倍家の次期当主候補だとか。まったくそんな凄い人には見えない。


 金野さんは妖狐で大昔から安倍家の式神として、現在は晴瑠のもとに仕えているそうだ。本来は狐の姿だが、都合が良いから人間の姿に化けてるらしい。


「じゃあお嬢、あっしは失礼いたしやす。最後に旦那、ちょっといいですかい?」

「な、なんですか?」

 金野はゆっくりと近づくと顔を俺の耳元に近づけてきた。

「あっしがいないからってお嬢に手を出したら……ただじゃ死なさん」


 ただでさえ迫力のある顔なのに、さらにドスの効いた声で思わず固まる。ていうか手を出したら死ぬのは確定なんだな。

「出しませんって」

「それはつまりお嬢に魅力がねぇと?」

「いや魅了的過ぎて、俺には高嶺の花というか…」


「金野、さっさっと引っ込んでください」

 晴瑠の一声に金野は煙のように消えると、一枚の人形ひとかたのお札に戻った。助かった、心臓止まるかと思った。


 晴瑠が金野だったお札をかばんにしまい込んでいると、ちょうど如月が警察を連れて戻ってきた。それから俺らは警察署まで行き、事の顛末を話して、やっとのことで帰してもらったのは二時間ぐらい後だった。


「あー腹減ったなぁ」

「かつ丼出なかったねー」

「かつ丼は捕まった人に出すんですよ? 」

「そうなの⁉ 警察署の限定メニューだと思ってた!!」


 なんか俺の知らない間に、二人が仲良くなってる。鬼と陰陽師が仲良しってのも違和感あるけど。みんなお腹が空いていたので、帰りがけにファミレスに寄ることにした。


 互いに自己紹介をすると、晴瑠が俺や如月と同級生だと分かった。それから大学の話に華が咲き、自然と付喪神の通り魔事件についての話になった。


「道具が付喪神になるのにふつう百年かかると言われてるんですよ」

「だったらほんの数十年前の中古家電が付喪神になるのはおかしいな」

「復讐の気持ちのおかげで早く付喪神になったのかもよ。『捨テラレタ恨ミ、晴ラサデオクベキカ』って言ってたし」

「そんな話は聞いたことないですが、安倍家の方でも調査してみます。とにかく夜道には注意しましょう」


 食事も終わり会計を済ませたところで、現地解散となった。一応帰りは俺が如月を付き添うことになった。


「せっかくだしさ連絡先交換しようよ、ね? 寅くん」

「あ、あぁそうだな」

「実は携帯持ったの大学生からで、男子の友達と連絡先交換するの初めてなんでドキドキです」


 俺は後で金野さんに殺されないかドキドキしてるけどな。めっちゃ金野さんに睨まれてるし。


 ポケットに手を突っ込むと、見るも無残に割れた俺のスマホが出てきた。そういえば、如月に投げたとき馬鹿力で叩き割られたの忘れてた。


「すまん晴瑠、どっかのバカがスマホ壊したから交換できねぇや」

「寅くんほんっとゴメン!! 怒ってる? 」


「怒ってねぇよ、わざとじゃないんだし。あぁ、俺のスマホが付喪神になって如月に復讐するかもな」

「やっぱり怒ってんじゃん!!」


 むしろ交換できないから命拾いした。なんて思っていたら俺の代わりに如月が晴瑠に俺の連絡先を送っていた。

 夜道には気を付けようと思う。








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