第7話 件(くだん)のアレがヤバい件(けん)

 あの後食堂に集まり、俺は先程の出来事を如月や小毬、晴瑠に話した。俺の命が何者かに狙われていること。霧雲にストーカーされていること。そして一応、唇を奪われたのは不意打ちだったことも。


「ウチ絶対に許さない。 泰寅の唇を奪っていくなんて‼」

「もっと他に怒るとこあるだろ」

「小毬ちゃんの言う通りだよ。あたしだってまだなのに‼」

「如月に関しては怒るとこ関係ないよな!?」


 霧雲にれられてなければ、今頃俺の命は無かったかもしれない。なのにコイツらときたら、まったく緊張感が無い。


 今まで黙っていた晴瑠が口を開いた。眼鏡の奥の眼差しは真剣そのものだった。

「一ヶ月くらい前に、ある牧場の牛から『くだん』が産まれました」

くだんって、牛の体に人の顔をした予言をする妖怪か?」


 くだんは産まれてから死ぬまでの数日間に、干ばつや戦争など重大な予言を残す。そしてその予言は、


「予言はこうです『ヤバイヤバイ、マジヤバイ‼ 日本がマジヤバイ‼』」

くだん、語彙力ゼロかよ‼」

「まだ続きはあります。『鬼門きもんを名に宿し人、鬼神の如き力あり。その者、魔除けの鬼の眠りし力により真の鬼神きしんとなりて…』、ここで予言は終わりです」


「それ途中で息絶えてるよな? 絶対ヤバイ連発して力尽きてるよな!?」

「おそらくその予言が、丑門君が狙われている理由だと思います」


 そして、件の予言を聞いて小毬は何かに気づいたのか、耳がピクンとはねる。

「確かに『鬼門を名に宿し人』って、どう考えても泰寅のことよね」

 俺の名前『丑門泰寅』に入ってる『丑寅』は悪いものが出入りする方角で、『鬼門』と呼ばれ不吉とされている。


「じゃあ『魔除けの鬼』ってのは」

 俺たちの目線は自然と一点に集まった。下の名前が『南天』という魔除けの植物である如月は、ゆらりと立ち上がりながら右目を手で抑えた。


「クククッ、あたしの邪鬼眼じゃきがんの力をついに覚醒させる時が」

「中二病かよ 」

「ふざけないでください‼」

 晴瑠は勢いよく立ち上がった。状況が状況だし、怒られるのも無理ないな。


 するとなぜか、晴瑠はおもむろに眼鏡を外した。

「南天ちゃんがそう来るなら、私も『真実の目エンジェル・アイ』を発動しますよ?」

「お前もかよ‼ 『真実の目エンジェル・アイ』ってただの裸眼じゃねぇか」

「とにかく、丑門くんも南天ちゃんもなるべく一人にならないでください」





 とりあえずその場は解散し、俺と小毬は如月を送ってから帰宅すると晴瑠から連絡が来ていた。

『後ほど丑門くんの家に行って盗聴器を探すので、バレないよう会話を合わせてください』


 晴瑠が来た後、俺たちは何気ない会話をしながら手分けして部屋を探し回った。すると、いたる所から盗聴器が出てきた。


 全ての盗聴器を処分し一息ついていると、晴瑠が話を切り出してきた。

「実は丑門くんに聞きたいことがあって来たんです」

「俺に?」

「私、今まで不思議だったんです。なみの妖怪と渡り合える、丑門くんの身体能力の高さが」


「そして予言のこともあって、丑門くんのことを調べさせていただきました」

「そんな勝手に‼」

「やめろ小毬‼ いいよ晴瑠、続けて」

 怒る小毬を抑えて、晴瑠に話を促す。どうやら晴瑠は俺の、いやの秘密を知っているようだった。


「そして私はひとつの結論にたどり着いたんです」

「結論?」

「丑門くんって、本当は遥か遠い星から来たエイリアンなんじゃないかって」

「「なんでやねん⁉」」

 真実を知る俺と小毬は、予想外の返しに思わず関西弁でツッコミを入れてしまった。


「冗談です、少しでも場をなごまそうと思って」

「それで本当に出た結論は?」

 晴瑠は仕切り直しとでも言うように、クイっと眼鏡の位置を直した。

「丑門くん達は『神隠かみかくし』で、この世界に来たんですよね?」

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