第2話 鬼と悪夢な日

「昔の首相が自分を妖怪だと暴露し、列島中を震撼させた。それから色々あって、日本は人と妖怪が共存する人妖じんよう中立国家となった訳だが」


 無事退院してしばらく経ったある日。俺は、教授じじいの眠くなりそうな講義を受けていた。実際に隣の席に座っている如月は、気持ちよさそうに寝息を立てている。


 ちなみにうちの大学は、学生の10分の1を妖怪が占めている。それは鬼だったり、天狗だったりと様々だが人間の学生とそれなりに仲良くやってる。


「やめて、それをぶつけないで…」

 なんか、如月コイツうなされてるようだけど、怖い夢でも見てんのか。

「イワシの頭だけは勘弁してぇ」


 どんな夢だよ。ツラそうだし、そろそろ起こしてやるか。そう思い、手を伸ばした時だった。

「恵方巻きを口に押し込まないで」

 節分の夢だった。確かに、鬼にとっては悪夢だけども。


 昼休み、俺は食堂でテレビを見ながらを定食を食べていた。すると、如月が怒った顔でこっちにやって来た。

「もう寅くん、なんで起こしてくれなかったの!? 目覚めたら誰もいなくてビビったんだけど」

「いや、起こしたら悪いかなって」

「そこは起こそうよ‼ 怖い夢まで見たし、最悪だったんだから」


 もうっと言って如月は正面の席に座って、かわいらしい弁当を出した。

「スマンスマン。お詫びにコレやるよ。ほら、あーん」

 そう言いながらイワシのかば焼きを渡そうとすると、如月は複雑そうな顔になった。

「こんな自分が鬼だったことを後悔したことないっ!! 」

「弱点だもんな、いわし。なんなら煮豆にする?」


 ひとしきり如月をからかい、満足した俺はテレビで見た話題を振った。

「さっきテレビで見たんだけど知ってるか? 『付喪神通り魔事件』」

 道具は長い年月を経ることで、魂が宿り付喪神という妖怪になることがある。

 

 捨てられた中古家電がその付喪神となって、夜道に襲いかかってくるそうだ。

 さらに厄介なのは、警察が駆け付けたときには、付喪神はただの中古家電に戻ってるらしい。


「しかもその事件現場って、大学の近くでしょ?」

「うちの学生もやられたらしいな。軽い怪我で済んだらしいけど」


 如月は少し考え込むと、テーブルにくっつきそうなぐらい頭を下げた。

「そんなわけで、夜一人だと怖いから帰りに家まで送ってください」

「遠回りだしヤダ、一人で帰れ」

「か弱い女子が危険な目に遭ってもいいの!? 」


 如月がドンと叩いたテーブルは、きれいに半分に割れた。俺の定食は間一髪救ったが、柊の弁当は、盛大に床にぶちまけられた。

「や、やっちゃった……」

「か弱い女子はテーブルを真っ二つにできねぇよ」


 放課後、結局俺は如月を家まで送る羽目になっていた。しかも、途中にスーパーに寄って食材の買い出しに連れ回されたおかげで、とっくに日が暮れてしまった。


「こうしてるとさ、周りからカップルって思われるかな?」

「思われるもなにも、全然人いないからな」

「なんなら、ごはん食べてく?」

「いや、すぐ帰る」


「ウチもうすぐだし、せっかくだから食べてけば……ってなにあれ? 箱? 」

 如月の目線の先には、暗くて見えづらいが、大きい箱のようなものがあった。


「こんなのあったっけ?」

 如月がその箱が何か確かめようと近づいた。次の瞬間、何かが空を切る音がした後、柊が尻もちをついた。


「きゃっ!? 」

「大丈夫か!? 」

 如月の元に駆け寄ると、彼女の足首に何かが巻き付いていた。

「なんだこれ……電源コード?」


 そのコードを目でたどると例の箱の方へ伸びていた。

「捨テラレタ恨ミ、晴ラサデオクベキカ」

 その箱はノイズが入った機械的な声を出すと、手足が生えこちらへゆっくりと歩いてきた。そして、街灯の光に照らされ、ついにその姿を現した。


「テ、テレビ? 」

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