第11話笑わない少女と白銀ランク

かつて、イスハーン大陸で猛威を振るった悪しき存在がいる。

誰もが幼い時に親から話を聞いた事だろう。

わく、いい子にしてないと魔王に連れ去られてしまうよ。と……


その大昔において実際に人類を全滅せしめんとし、女神ル・シャラにて封印され、一度古代アル=レギルス文明時代に復活した魔王オージャだが、これはアル=レギルス文明時代に倒されている。

勇者ブレイバーですら倒せずにいた存在をどうやって?



答えは、人造勇者イミテブレイバーの量産による物量である。


まさに数は力であった。

私が落ちたあのクソッタレな迷宮ダンジョンはNo.6とナンバリングしてあったことから少なくとも古代においては6つほどの迷宮ダンジョンがあったようだ。


数は力である。それは正しい。しかし、数の差を覆すのもまた力である。




依頼の子鬼ゴブリン10匹の討伐部位である左耳を集め終わりギルドへ戻り、セナさんの元へ報告にいく。


ギルド内に入った瞬間ほぼ全員から敵意の視線を受ける。

その視線を無視しながら受け付けへ。


セナさんと目が合った。

途端に慌ててカウンターからこちらに駆けてくるセナさん。


私を引きずるようにギルドの隅へ。


「ちょっと! マキナさん何したんですかっ!!」

セナさんがすごい剣幕で詰め寄ってくる。

私は肩をすくめながら答える。


「なにって、討伐依頼をしていただけよ?」


と言うと呆れたようにため息をついた。

「はあっ じゃあ何で『バルバロイ・アックス』の血盟クランから血盟戦クランバトルの申請がきてるんですかっ!」


私はそれに取り合わず後ろを向いた。

「ちょっと! 聞いて……」


振り向いた先には、一人の男がいた。

こちらを睨みつけながら。


「あっ……ダイスさん」

どうやらこの男が、『バルバロイ・アックス』の血盟主クランリーダー白銀プラチナランク冒険者のフィオス・ダイスらしい。


年齢は三十代後半くらいか?

見事な筋肉を金属製の鎧に詰め込み、たかを思わせる鋭い眼光で睨みつけてくる。

その背には片手半長剣バスタードソードを背負って、腰には鎚矛メイスを下げている。


「よう、セナの嬢ちゃん。そいつがマキナってヤツか?」


ダイスは油断なくこちらを伺っている。


へえ、こいつは叩き上げっぽいわね。

魔力が均一に身体を覆っている。


少しは楽しめそうだ。


「どうも、それで鑑定の結果はどうでした?」


軽く会釈してそう言ってやると苦虫を噛み潰したような顔をする。


「気づいてたのか……」

私はなにも言わず、肩を竦めるに留めた。


ダイスは一度後ろの鑑定持ちの男に合図を送ると、やがて懐から一枚の紙を取り出しこちらに突きつけた。


鑑定してみると……『青血判状ブルーブラットオーダーとある。


「それは血盟戦クランバトルの時相手に渡すものだ。それを受け取れば血盟戦クランバトルの開始となる」


その言葉を聞いてセナさんが慌ててダイスに食ってかかる。


「ちょっとまってください! 彼女はまだギルドに登録したばかり何ですよ!」

「だがうちの結盟員クランメンバーを二人殺してるぞ」


と言われ口を噤む。


私は青血判状ブルーブラットオーダーを受け取ると懐にしまう。


「受け取ったなら明日からは地獄を見せてやる」

それを見届けたダイスはきびすを返し捨て台詞を残して去っていく。



地獄……ね。

見せて貰いたいものね。


セナさんがなにやら怒りながらカウンターへ戻っていくのを見送った後、依頼達成の報告をし忘れた事を思い出した。


やれやれ、締まらないわね。

私はセナさんの後を追いかけながらそっとため息をついた。










血盟戦クランバトルとはなにか?

これは、大なり小なり人が集団で行動する血盟クラン同士がいさかいを起こすことは必然である。

その血盟クラン同士が争えばそれは戦争ともいえる規模になる場合もある。

それを回避するためにギルドが一定のルールを定めた物が血盟戦クランバトルである。た


終了条件はお互いの血盟主クランリーダーの死亡、または降参。そして血盟戦クランバトルの撤回もある。


今回はダイスか私の死亡もしくは降参。



次にルールだが、まず街中での戦闘の禁止。これは当たり前とも言える。そんな事を許せば街の領主と揉めるだろうし、ギルドの信頼も地に落ちるだろう。


次に、血盟戦クランバトルを仕掛けた側の依頼受注の強制。これは血盟戦クランバトルにかまけて依頼を受ける冒険者が減るのを防ぐためだ。

これは、現在の血盟戦クランバトルのやり方にも関係している。

現在では、直接戦闘より、狩り場の閉鎖や街中の依頼を邪魔したり、依頼自体を独占したりなどして資金面から攻めるやり方が主流だからだ。


大体はしばらくそうやって落としどころを見極め話し合いで終了するのが常である。


掲示板を見れば見事にカッパーが受けれる依頼は無くなっている。

敵意の視線もかなりの数あることから、他の街にいた血盟員クランメンバーを呼び寄せたのだろうか?

これからも増えるだろう。



さて、この素敵でクソッタレな状況で私がどうするかと言えば……




学生の本分は勉強だということで学園にしばらく引っ込む事にする。


どうせダイスも守りに入るでしょうし、取り合えずば放置させてもらうわ。


学園はほぼ貴族が通っている。いくらコンティナ家の子飼いとはいえ、学園に手を出すのは無謀だろう。

まあ手を出してくれば面倒が減っていいのだけれども。



計画を一段階進めましょうか。





宿舎へ戻ってきてまずやることは、部屋の防御力を高める事。


対魔法防御アンチマジックバリアを重ね掛けしていく、ドアの鍵も強化。

これでマスターキーも使えないようになった。

寮長には悪いけどね。

一通り仕込みも終わりいい時間なので食堂へと向かう。


今日のご馳走は何だろうか?

多分、血眼になって私を探しているだろうバルバロイ・アックス』のメンバーに手を合わせながら食堂へ急ぐのだった。

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