章間  怪談の会にて

 



 きょうは新築パーティーに呼んでいただいてありがとうございます。

 えっ、怪談の会も兼ねている?

 こわい話をするんですか? あると言えばありますが。

 でも怪談っていうのとちょっと違う気が――かまいませんか? 

 はい? わたしからでいいんですか? わかりました。上手く語れるかわかりませんが、では始めたいと思います。


 本当にあった事件です。

 ある山中に心霊スポットと言われていた廃屋がありました。

 実際はただの廃屋で、まあ若者たちのいろんな意味での遊び場になっていたんですね。

 そこに男女五人のグループが遊びに来た。

 普通ここに来る者は大体がきゃあきゃあ騒いで一通り中を見て帰っていくだけですが、そのグループは違っていた。質の悪いいたずらをした、と言うか、もういじめですね。

 仲間のひとりをそこへ置いてきぼりにしたんです。しかも女性ですよ。

 たぶん仲間たちはすぐ引き返すつもりだったんでしょうけど、運悪くその女性はたまたま来た別の若者たちに出会い、暴行され首を絞められて殺されてしまったんです。無惨にも死体は廃屋の床下に放り込まれました。

 グループの仲間たちはしばらくして戻って来たんですが、もちろん彼女はいません。

 何が起こったなんてわかりませんから、もう山を下りたんだろうと引き返そうとした矢先、仲間の一人がもがき苦しみ出した。まるで紐で首を絞められているかのように。

 それを外そうとして喉を掻きむしるんですが、指が皮膚を破って血と肉片まみれになっても紐に触れられない。

 当たり前ですよね、紐なんてないのですから。いくらやっても取れることはありません。

 そうやって一人また一人と死んでいったんです。

 そうです。彼女の呪いです。

 ただの廃屋が本当の心霊スポットになったんです。

 四人の死体は後日肝試しに来たカップルが発見しました。驚いたでしょうね。二人はすぐ廃屋から飛び出して警察に通報しました。

 警察が捜査に来た時、床下の死体も見つけられました。

 四人の奇妙な死体と暴行され絞殺された床下の死体。謎の事件として一応報道もされたのですが、たぶんみなさん覚えてらっしゃらないと思います。じきに箝口令が敷かれましたから。

 警察は当初、『仲間の女性を何らかの理由で暴行したうえ、リンチが行き過ぎて殺してしまった。その自責の念にかられた仲間が集団自殺を図った』と考えたんです。ものすごく無理があると思いませんか。笑っちゃいますよね。リンチをするような連中が自責の念になんて駆られるでしょうか。それに四人の死に方は自殺にしてはおかしいでしょう。

 でもそう結論づけようとしていた。ですが、廃屋の中で捜査していた刑事や鑑識の数人が四人と同じ苦しみ方をして死んだんです。

 外にいた人たちには何事もなかったので、屋内で有毒ガスが発生しているんではないかと考えて調査してみた。でもその人たちもまた死ぬ。防毒マスク付けてても同じ死に方をするんです。

 というわけで、手に負えなくなったこの件は極秘の未解決事件になったんです。有名なお坊さんが廃屋に行って経を上げたということも聞きました。もちろんこれも極秘中の極秘だそうです。

 マスコミ? そうそう鼻が利きますよね。こういうことにすぐ飛びつきそうな――でも、なりをひそめたままでした。テレビでいろんなことやってますが、本当にやばいことって放送されないんだなって思いました。

 いえいえ、まだ終わりじゃないですよ。

 その廃屋は立ち入り禁止になりました。ネットの情報もすべて削除されたみたいです。警官がパトロールし、廃屋を監視していました。肝試しに来る若者たちがちらほらいたようですが、注意されるとそのうち来なくなりました。

 一年以上経ってようやく監視をやめました。

 さあ。大丈夫かどうかわかりません。中に入って確かめてないみたいですよ。試す人なんかいませんし。

 ふふ。だって死んだら終わりですものね。もし若者たちが肝試しに来て命を失っても、もうあずかり知らぬということなんでしょう。

 でも、どこにでもバカはいるんですね。

 来たんですよ。廃屋に。若者三人が。

 呪いはきっとお坊さんのおかげでいったん鎮まっていただろうと思います。だけど、そのバカたちはご丁寧に女性を拉致って来ていた。やることはひとつです。そのために廃屋の呪いを蘇らせてしまったんです。

 もちろん死にましたよ。三人とも。

 ああ、女性は助かりました。あそこで呪いがかからなかったのはその女性一人だけです。

 ですが、男たちにぼこぼこにされて瀕死の重傷だったそうです。かわいそうに体だけ傷つけられたんじゃないんですよね。

 警察はまた厳重な立ち入り禁止にしたみたいです。

 くわしい場所ですか? 訊いてどうするんです? 行っちゃだめですよ。今聞いてたでしょ。死にますよ。って、もうありませんけどね。この話は何年も前の話です。いつまでも廃屋の監視なんてやってられないじゃないですか。

 ええ。最近取り壊されたと聞きました。

 はい? 全部本当の話ですよ。そうですね、警察関係の知り合いに聞いたとでも言っておきましょうか――

 えっ、警察の及んでないところまで何で知ってるのかって? さあなぜでしょう。

 そうそう、警察の知らない話をもう一つ教えましょうか。

 死んだ三人組は最初の女性を殺した若者たちです。のこのこと自分たちからやってきたんですね。

 呪いの主は図らずも復讐を遂げられたってわけです。かといって廃屋の呪いは終わってませんけどね。

 えっ、わたし? いやですよ、いまごろになって「お前は誰だ」なんて。ここに呼んでおきながら――


 ふふっと女が笑うと部屋が真っ暗になり、車座から呻き声や悲鳴が上がり始めた。




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