第55話 ボロッフ攻略戦
ボロッフ攻略作戦は、白昼堂々決行された。夜に襲撃しても魔物は夜目が利くものが多いし、かえって人間たちが怯えたり暗がりの中で危険に陥るかもしれなかったからだ。
偵察に放った鳥からの情報では、市壁の向こうには人間はほとんど住んでいないようだった。壁の外には広大な田園地帯が広がっており、大半の人間は点在する家畜小屋のような建物に押し込まれているようであった。
日中だからか、多くの人間が畑仕事に従事している。ところどころに魔物が配置され、人間を見張っている。
働かされている人間はかなりの数に上っていた。確認できるだけでもざっと数千人、ひょっとすると万を超えているかもしれない。
彼らを監視する魔物の数も十や二十ではない。優に百を超える魔物が、働く人間たちを監督している。毎日こうして強制的に働かされ続けているのだろう。
これが何百年も続いていたと思うとぞっとする。今こうして働いている人間たちは、生まれた時からこういう環境だったからか、誰の目にも光がなかった。
不幸中の幸いと言うべきか、魔物たちは数匹で数十人の人間と広大な畑を監視せざるを得ない状態だった。隣の区画で何が起こっているかをすぐに把握するのは難しそうだ。今までこのあたりに侵攻された経験がないことからくる慢心と、効率化が進んだ管理体制が仇になることだろう。
まず琉斗は、先行して数匹の眷属を町の中へと侵入させた。
彼らをそのまま潜伏させつつ、人間たちを監視する魔物たちを残りの眷属たちが倒す。ただの犬や猫、鳥だと思っていた動物たちがいきなり襲いかかってくるのだ。魔物たちはなす術もなく倒されていく。
しかし、いくら不意打ちとはいえ、いずれは誰かが異変に気付く。隣の区画の様子がおかしいことに気付いた魔物が、何やら騒ぎ始める。
そのタイミングで、琉斗は町に潜伏させていた眷属に攻撃命令を出す。市壁の向こうはすでに敵が侵入していることへの対処に追われ、壁外への警戒を強めるのが精一杯で市壁の外の異変にまではすぐに対応できない。
そこを琉斗とレラが一気に馬で市壁まで迫る。馬にまたがりながら、琉斗は巨大な火球を作り出し、市壁の門へと叩きつける。轟音と共に門は破壊され、大地が揺らいだ。
突然の爆発に、市壁の外にいた魔物たちは恐慌状態に陥ったらしい。周囲の区画で異変が起こっていることもあり、魔物の多くが町から離れようと逃げ出していく。
その場に残った魔物も、琉斗が放った眷属の手により排除されていく。どうやら外は彼らに任せておけば大丈夫そうだ。
市壁の内部へと突入した琉斗とレラは、視界に入ってくる魔物たちを片っ端から倒していく。
魔物は他の町にいたものより強力だったが、二人の敵ではない。魔物たちの群れに琉斗が剣を振るうとその波がぱっくりと割れ、レラが一突きすると魔物たちの壁にぽっかりと穴が開く。
そのまま魔物たちを蹴散らしながら、二人はかつての王城に駆け込んでいく。目指すは敵の大将。それを討ち取れば、他の魔物は逃げ出していくだろう。
城内に入るや、琉斗とレラは眉をしかめた。内部はまるで生物の身体の内側のように肉に覆われ、血の臭いが立ち込める。言いようもなくおぞましい空間であった。
城内の魔物は外の魔物よりさらに強かったが、それでも二人を止めることはできない。城内を魔物たちの血で染めながら、琉斗は特に強い魔物の反応がある部屋へと駆けていく。
二人が飛び込んだのは玉座の間とおぼしき一室であった。壁が不気味に蠢いている。
魔物がひしめき合う部屋の奥には、巨大な剣を携えた魔物が待ち構えていた。
二人を憎々しげに見つめながら、その魔物が叫んだ。
「おのれ、人間風情が! エメイザーさまが倒れた隙をついて侵攻してくるとは! ここで返り討ちにしてくれる!」
「なるほど、ここが奴の城だったのか。道理で趣味が悪いわけだ」
眉をしかめると、琉斗は魔物に向かい剣を向ける。
「容赦はしない。お前の首、俺がもらいうける」
「ほざけ! たかが人間ごときが――」
魔物が言い終える間もなく、琉斗はその大将らしき魔物へと肉薄する。
驚きに目を見開いた魔物に向かい剣を一振りする。大口を開けたまま、魔物の首は胴体に別れを告げた。
一瞬の出来事に、魔物たちが絶句する。
そのまま動けずにいる魔物たちの間を、琉斗は大将の首を片手にレラのところまで戻っていく。
彼女のところまで戻ると、琉斗はつぶやいた。
「お前たちは、この呪われた城ごと燃え尽きるがいい」
そして、魔法を発動する。
直後、二人を半透明の球体が覆い、その外が炎に包まれた。
紅蓮の炎は瞬く間に城を飲み込み、おぞましい肉の壁ごと魔物を焼き払っていく。それはあたかも神聖な炎が不浄な存在を浄化していくかのようであった。
間もなく、ボロッフの町は二人の手によって解放された。
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