第54話 魔王軍の拠点



 魔王軍の支配領域に入った琉斗とレラは、着々とその歩みを進めていた。


 魔王領侵入以降、二人はすでに五つの町と村を魔物たちの手から解放した。そのそれぞれに結界を張り、魔物たちの襲撃から人々を守っている。




 そして、今二人は魔王軍の拠点とも言うべき町へと向かっていた。


 アフリカのサバンナを彷彿とさせる植生に目を向けながら、琉斗はレラに声をかけた。


「次の町は大きな町なんだよな」


「はい。かつて大陸東部を支配していた大国、ワレリー王国の王都だったと言われています。もっとも、その国は二百年以上前に滅んでいるのですが」


「マレイアも、元々はその国の一部だったんだよな」


「その通りです。魔王出現後、ワレリー王国は二つに分裂しましたが、旧ワレリー王国の後継である後ワレリー王国はまもなく魔王軍によって滅ぼされました。もう一方のレンチ王国はさらに分裂して、マレイアを含む複数の国家が成立しました。その時のつながりから、今でも旧レンチ諸国はレンチ同盟という同盟を結んでいるのです」


「なるほど、王様がくれた印もそういうことなのか」


 琉斗の荷物袋の中には、レンチの文字が刻印された印が入っている。この印を押してあれば近隣諸国も動いてくれると言っていたが、そういうことだったのか。


 すでにマレイアからはかなり離れたこともあり、解放した町への救援は他国へと依頼している。琉斗は眷属化した小鳥に印を押した手紙を持たせ、救援を要請する国へと飛ばしていたのだ。


「ということは、次の町は今までとは規模が違うんだな」


「そうですね。遥か昔に滅んだとはいえ、今でもそれなりの人間が暮らしているのではないでしょうか。もっとも、『暮らす』などと言えるような生活ができているとは思えませんが」


「急がないとな」


 レラが少し不安そうに聞いてくる。


「ですがリュート、次の町は今までのようにはいかないのではないですか? 二人だけでは攻略は難しいと思うのですが」


「そうだな、二人では少々荷が重い。それに、俺たちは人間だ。もたついている間に人間を人質に取られでもしたら大変だ」


「その口ぶり、もう対策は思いついているのですね?」


 レラの言葉にうなずくと、琉斗は懐に入れていたリスを取り出してみせる。


「今回は、こいつらに手伝ってもらおうと思ってる」


「かわいいですね。でも、そんなリスが……あ、もしかして」


「そうだ、眷属化だ。眷属化した動物を数匹町へと侵入させる。十匹以上投入してもいいな。その混乱に乗じて司令部を制圧する」


「眷属化した動物は魔物と戦えるほど強いのですか?」


「ああ。まだ慣れていないからそこまでの力は与えられないけど、このリスも、前に村を守っていたボスとやり合えるくらいには強いぞ」


「そんなに強いのですか? リュート、それほど強力な眷属をたくさん作っても大丈夫なのですか?」


「大丈夫、というかまだ俺が下手なせいで、せいぜい数日間しか眷属化できないんだ。だから俺もそんなに消耗しないし、野に眷属があふれる心配もない」


「そうなのですか。それなら安心ですね」


 レラが笑顔を見せる。


 それから、リスの顔を覗き込む。


「それにしても、こんなにかわいらしいリスがそんなに強いとは……。にわかには信じがたいですが、やはり龍皇の力というのは凄まじいのですね」


「ああ、まったくだ。眷属化も、迂闊に使えばどんな化け物が生まれるかわからない。一つ魔法を使うにも気をつかわないといけなくて大変だ」


「龍皇には龍皇の苦労があるのですね」


「龍皇も、ひょっとしたらそれがストレスで精神が滅んだのかもしれないな」


「そう考えると、龍皇にも少し親近感がわきますね」


「そうだな、確かに少し親しみがわいてきたかもしれない」


 笑う二人の視線の遥か先に、巨大な町が見えてくる。あれがこれから解放する旧ワレリー王国の王都ボロッフだ。


 琉斗が右腕を前に伸ばすと、隼のような鳥が飛んできて腕に止まった。


「それじゃ、まずはこいつに偵察してきてもらうとするか」


 そう言って、琉斗は鳥に手を当てる。すると鳥はみるみる周囲の景色に溶け込み、目に見えなくなる。

 透明化した鳥を、琉斗は空へと放つ。すでに眷属化を済ませてあるその鳥は、琉斗と視覚を共有している。まずはその鳥を使って敵の状況を把握するのだ。


 

 二人にとって、おそらくこれまでで最大規模になるであろう解放戦が、いよいよ目前に迫っていた。


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