第49話 二人の願い
「信じてくれるのか、レラ」
「はい。世界中の皆が信じなくとも、私だけは信じます」
真剣な面持ちで答えるレラに、琉斗は心が解放されるような感覚を覚えた。
ようやく自分を理解してくれる人間に出会うことができた。龍皇の力を得て、自分が何者なのか、当の本人自身でさえわからなくなりかけていた状況にあって、彼女の言葉はそれだけで心強いものであった。
胸のつかえが取れたような気がする。
「ありがとう、レラ。こんな話ができるのはレラしかいない」
「そうかもしれませんね。龍皇の力を受け継いでいるだなんて、普通の人には信じがたい話ですし、そもそも龍皇の存在自体がこの世界では忌み嫌われていますから」
「何だかそう言われると傷つくな」
琉斗が苦笑すると、魔王ほど嫌われてはいませんよ、とレラが返す。
だが、レラに打ち明けて本当によかった。彼女のおかげで人々の龍皇に対する認識を知ることができた。もし彼女以外の人間に打ち明けていたならば、問答無用で迫害を受けていたのかもしれないのだ。
シュネルゲンあたりに打ち明けようものなら、その場で処刑される流れになっていたかもしれないな。琉斗はほっと胸を撫で下ろす。もちろんそんな流れになれば、琉斗もただで殺されてやるつもりはないし、血も流れることになっていたかもしれない。
「リュート……ずっと悩んでいたのですね」
「ああ、そうみたいだ。自分ではあまりそんなつもりはなかったんだけど」
「悩んでいるのなら、これからは私に相談してください。あなたに救われたこの命です、私はあなたのために全てを捧げましょう」
「そんなに大げさに考えなくていいさ。俺はレラを助けたいと思ったからそうしたまでだ」
真剣に訴えてくるレラの瞳が好ましい。
そんな彼女に、琉斗も頼ってみることにした。
「でも、そこまで言うなら一つ相談に乗ってもらおうかな」
「はい、何なりと」
「さっきも話した通り、俺がこの力を得たのはつい最近の話なんだ。とりあえずこの町に来て冒険者登録をしたら成り行きでこんなことになったんだけど、これからどうするべきかが俺には見当もつかないんだ。俺が得たこの力、いったいどう生かすべきなんだろうか?」
琉斗の問いに、レラは形のいいあごに手を当てるとうつむいてしばし思索の海へと沈む。
それから顔を上げると、笑顔で言った。
「それは、リュートが望むがままに行動すればいいだけの話ではないでしょうか」
「俺が望むままに?」
「はい。詳しい経緯はわかりませんが、今龍皇の力を手にしているのはあなたです。難しいことを考えず、あなたがよいと思う道を歩めばいいのではないでしょうか」
「そんなこと言っていいのか? まだろくに使えないとはいえ、仮にもこの世界を滅ぼしかけたほどの力だ。もし俺が欲望のおもむくままに暴れれば、止められる奴はいないかもしれないぞ」
「大丈夫ですよ。リュートがそんな人間ではないことくらい、私にはわかりますから」
誰かに信じてもらうということがこれほど心強いものだったのか。琉斗の胸に自信と勇気がみなぎってくる。
そんな琉斗の頭に、一つ閃いたことがあった。
それを琉斗は口にする。
「ありがとう、レラ。では参考までに、レラはどんな世界を望んでいるのか聞いてもいいか?」
「私ですか? 私は、そうですね、平和な世界がいいですね。誰もが魔王の脅威に怯えることなく、穏やかに暮らせるような世界です。私は、そんな世界を一刻も早く目にしたい」
「なるほど。つまり、まずは魔王を倒したいということか?」
「そうですね。険しい道のりだということは、今日の戦いからも明白ですが。それでも私は一級冒険者として、そして己の理想のために、魔王と戦い続けるつもりです」
「そうか……そうだよな」
うなずくと、琉斗はレラの顔をまっすぐ見つめた。
「よし、それじゃ魔王を倒すか」
「はい……え?」
「え? じゃない。魔王を倒そう。そうすることに決めた」
「いえいえ、リュート?」
あまりに軽い調子でとんでもないことを言うリュートに、レラが困惑の表情を浮かべる。
「さっき言ってただろう? 俺がやりたいようにすればいいって。俺が今やりたいことって言うと、レラの望みをかなえることだ。で、レラは早く魔王に消えてほしい。だったら俺が魔王を倒せば万事解決だ。な?」
「な? じゃありません! 危険なんですよ? あなたを巻き込むわけには……」
「何だかいろいろ矛盾してるぞ。今この世界で一番危険な存在は、魔王じゃなくて多分俺だろう。それに、そんな危険な戦いにレラを一人で放り出すわけにもいかない」
「でも、だからって……」
「頼む、やらせてくれ、レラ。今の俺は、お前を失うわけにはいかないんだ」
「リュート……」
レラの両肩をつかみながら、琉斗が思いを伝える。この世界で、自分を唯一理解してくれる人間。手放せるわけがない。
直後、これははたから見れば求愛しているように見えるのではないかと気づく。だが、レラを異性として好ましく思っているのも事実だ。別に何も問題はない。
当の本人はどう思っているのかと顔を見れば、頬は紅潮し目がわずかに潤んでいる。ひょっとすると、後者の意に取っているのかもしれない。それならそれで、琉斗としては望むところであった。
琉斗が手を放すと、レラは恥ずかしそうにうつむきながらつぶやく。
「ありがとうございます……。そうですね、リュートが決めることです。私が口を差し挟むことではありません」
それから、意を決した様子で顔を上げた。
「ですが、どうか私もそばに置いてはいただけないでしょうか。あなたから見れば足手まといでしかないかもしれませんが、だからと言ってあなたが戦っているのにこの町でのうのうと過ごすなんてこと、私にはできません」
「もちろんそのつもりだ。俺にはレラしか相談相手がいないしな。大丈夫だ、レラは必ず俺が守る」
「リュート……ありがとうございます」
レラが深く頭を下げる。
琉斗もまた、信頼できるパートナーを得て深く満足していた。
気持ちはすでに、新たな目標へと向かっていた。
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