第28話 褒賞
レラとのデートを終えた翌日、琉斗の自宅に王国からの使いがやってきた。
玄関を開けた琉斗は驚いた。そこには見知った顔があったからだ。
「シュネルゲンさんじゃないですか」
「久しぶりですな、リュート殿」
二人の部下を従えて立っていたのは、エルファシア王女を救った時に彼女の護衛を担当していた騎士、シュネルゲンであった。
とりあえず客を自宅の中へと招くと、琉斗は疑問を口にした。
「なぜシュネルゲンさんがうちへ? あの件はなるべく内密にと聞いていましたが」
甲冑こそ身につけていないものの、立派な身なりをしたシュネルゲンはどう見ても目立っている。
馬車でやってきたわけではなさそうだが、シュネルゲンは元々れっきとした貴族。その彼がここへやってくること自体不自然であるし、この件を内密にする気があるのかと琉斗は首をかしげる。
「それがですな、リュート殿の活躍はやはり無視できるものではないという話になりまして。公式に王宮で褒賞をというわけにはいかないのですが、せめて私が直接お礼にあがろうということになったのです」
「そうだったんですか。お気遣いは無用でしたのに」
「何せ殿下がどうしてもとおっしゃってまして。それに、私もリュート殿には感謝しております」
そう言って、シュネルゲンは琉斗に褒賞として金貨と一振りの短剣を渡す。
何でも、この短剣を見せれば王国の大抵の場所で顔が利くそうだ。以前王女からもらったネックレスは相当な身分の者でなければその価値がわからないそうなので、こちらの短剣の方が利用価値としては高いかもしれない。
品物を渡し終えると、シュネルゲンは琉斗に声をかけてきた。
「ところでリュート殿、聖龍剣闘祭に出場されるそうですな」
「はい、よくご存知ですね」
「実は私の部下に予選から出場する者がおりましてな、予選出場者の名簿に目を通していたらリュート殿の名前があったというわけです」
「なるほど」
シュネルゲンは興味深げに尋ねてくる。
「リュート殿、大会には魔術師として出場されるのですかな? それとも剣士として?」
「そうですね、剣闘祭というくらいですし、今回は剣で出場してみたいと考えています」
「そうでしたか。皆もリュート殿の剣技を目の当たりにするわけですな」
うんうんとうなずくと、シュネルゲンは話を続ける。
「もちろん予選で負けることがあるとは思っておりませんが、どうか本戦まで勝ち上がってください。殿下も楽しみにしておられますので」
「殿下? エルファシア姫がですか?」
「さよう。本戦の最終日は殿下もご覧になられますからな。リュート殿のことをお伝えしたら、殿下も大層楽しみにされておられましたぞ」
琉斗はエルファシア王女の姿を思い浮かべる。白くきめ細やかな肌、蒼い瞳、紅色の唇。その美貌はまさに高貴な者にふさわしいものであった。
もう二度と会うことはないかもしれないと思っていたが、まさかこんなに早くお目にかかる機会がやってこようとは。
もっとも、観客席から試合を観戦した後、すぐにその場を立ち去る可能性も高いのだが。
「そうですか。それじゃ、ますます負けられませんね」
「はっはっは、その通りですな」
シュネルゲンが豪快に笑う。
「それにしても、以前リュート殿が槍姫に並ぶ冒険者になるかもしれないという話をしましたが、さっそく剣闘祭でその槍姫と激突するかもしれませんな」
「驚かないでください、シュネルゲンさん。実は俺を剣闘祭に誘ったのは、その槍姫本人なんですよ」
「何と! すでに槍姫もリュート殿に目をつけておりましたか! やはり強者同士、引き合うものがあるのかもしれませんな!」
シュネルゲンが驚きに目を丸くする。それはそうだろう。当の琉斗本人が、そんなことになるとは夢にも思っていなかったのだから。
「それは今から本戦が楽しみでなりませんな! 今大会で初優勝を目指す槍姫に、謎の少年剣士が挑むわけですな! 槍姫は前回覇者の騎士団長殿に雪辱を果たすことができるかにも注目ですし、今回は他国からも一級冒険者が参加すると聞いております。私も今から楽しみですぞ!」
「そうですね、俺もせめて一回戦は突破したいと思っています」
「何をご謙遜を! リュート殿は決勝戦で槍姫と相見(あいまみ)えるのですよ、そして決勝戦の場で雌雄を決するのです!」
「シュネルゲンさんもレラと同じことを言うんですね」
琉斗が苦笑する。案外、武人というのは考えることが似通うものなのかもしれない。
その後しばらく剣闘祭の話題で盛り上がった後、用を終えたシュネルゲンたちは琉斗の家を後にする。
「それでは、剣闘祭でのご武運をお祈りしておりますぞ」
「ありがとうございます。エルファシア様にもよろしくお伝えください」
もちろんですとも、とうなずくと、シュネルゲンは従者たちと共に大通りの方へと去っていく。
エルファシア王女をはじめ、思いのほか多くの人間に注目されていることに幾ばくかの困惑と緊張を覚えながら、琉斗は家の扉を閉めた。
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