4-怒涛の2ヶ月


なぜ母に方から連絡があったかというと、何日も同じ夢を見たそうだ。

僕が妊娠する夢を。虫の知らせとはまさにこのことだ。

こうなったら、こっちから連絡するしかないと思い、会って話すために都合を聞くと、こちらへ出向いてくれるということだったのでお願いすることにした。最初はとりあえず家族で話すことにした。

ここから、母の許しをもらうまで2ヶ月かかるのだが、その2ヶ月は怒涛の2ヶ月でもう1年弱くらいの感覚だった。


母は結婚もしていないし、準備もなくやっていくのは大変だからと最初はやんわり反対された。でも、僕からしたらやっと手に入れた人生だった。天に任せて自分でよく考えた結果だった。だから、そんな簡単に母の意見を受け入れるわけにはいかなかった。もちろん、母は母で僕がそんな風に考えていたことも、いろいろ悩んできたことも知るはずがないから、ただ妊娠してしまったと思って反対するのもわかる。でも、それは“今思えば”のことで当時は僕もとても感情的になっていたので、日が経つにつれて冷静に話し合いはできなくなっていた。もちろん、いろいろと話さずに隠している僕が悪かったんだけど。僕はもうなにを言われても、誰に反対されも、「産む」の一点張り。母からすれば、付き合ってる人がいるとか結婚考えてるとかそういった紹介もなく、いきなり妊娠しました。産みます。は賛成できないし、今まで教員になるという夢があるっていうから、いろいろ応援してきたのに、今までの応援はなんだったのかということだった。そんな話し合いを重ねているうちに産まれてきても、祝福できないし、顔もみたくない。産むなら絶縁するといわれた。

そんな中、彼と母を会わすことになった。うちは実家が近くにあるわけじゃないし、適当な場所がなかったので、外で会ったのだが、ものの30分もしないうちに終わった。母の怒りはおさまっておらず、言いたいことを言って帰ってしまった。二人で勝手にしてくれということだった。親子だから、口調以上に怒っているのはわかった。でも、そんなこと言われても、僕の気持ちは変わらなかった。母がそんなことをいうのは珍しかったので、やっとそれまでの経緯や理由を話すことにした。あの時、僕がGIDだとカミングアウトして受け入れてくれたけど、妹の話を聞いて違ったのかと思ったこと。治療のことをいろいろ調べていたこと、その中で僕がどうしても子どもを諦められなくなったこと。そして、その結果が僕の中に2択をもたせて、その中で迷い計画があったこと。すべてを話した。母はまずすれ違いが生まれたことについては、

「どうして確認してくれなかったの?そんなつもりで言ったわけじゃないし、その意味は私しか知らないのに勝手に決めつけてほしくなかった。いつ、その後のことを話してくるのかと待ってた。でも、そんな簡単な話じゃないし、なにか考えがあるのかなと、聞こうと思ったこともあるけど、いつか話してくるだろうと思ってたんだよ。」

僕はそんなことにも気づかず申し訳なかったと思った。

「その治療のことも、いろいろと話を聞きに行ったり一緒にいって、理解したかったよ。一緒に悩みたかった。その中で、悩みながらだした答えを私は、今までなにも知らなくて、一人で辛い思いをさせて、親としてなにもしてあげられなくて、あなたのことを何も知らなかった」

と母は涙ながらに話していた。僕からするといろいろ心配や迷惑をかけまいと、自分のことは自分でできる限りやろうと思っていたのだ。でも、結果的に母に辛い思いをさせてしまった。母のことだから自分自身のことを責めているだろうと思った。そんな家族での話し合いが行われ、次は彼も呼んで話すことになった。そのことを彼にも伝えた。家族全員と彼とで話すことになった。


スーツにネクタイを締めて、そんな姿は初めてみた。「俺にできることならなんでもする」と話し合う前に言ってくれた。そして、仕事終わりの21時くらいから始めた話し合いが終わり、家についたのは深夜2時だった。母は僕のすべてを聞いても答えが変わることはなく、諦めてくれ。本当は付き合いも認めたくないほどだ。と。僕たちはただひたすら謝り、それでも二人で頑張りますしか言えなかった。お互い折れることなく、ずっとこれの繰り返しだった。


何回目の話し合いだっただろうか。母がこれで最後にしたいから、もう一度話し合おうと。母からは協力しなくても、たとえ一人になったとしても、この先に何かがあり彼がいなくなっても、一人でできるのかなど今までの気持ちを話してくれた。僕の気持ちは変わらなかったから、全てイエスと答えた。どんなことがあっても僕は頑張ると決めていた。そして、母が

「じゃあ二人で頑張りなさい。その子のために。」

と言ってくれた。本当に本当に母には感謝しかなかった。何年もかけて話し合うようなことを母は数ヶ月で受け入れなきゃいけなかったのだから、複雑な気持ちになって当然だと思う。今まで僕は話してないことが多すぎたし、それをこの短期間で全て受け入れるなんて、難しかったと思う。普通でも結婚する、子どもができたなんて、簡単な話じゃないのに。


でも、この子が僕たちのところに来てくれたことで、僕たち家族はより一層絆を深められたと思う。母が許してくれた時に、

「これからは大事なことはしっかり相談してほしい。家族なんだから」と。

それだけは約束した。

許してくれた家族にも一緒に何回も頭を下げてくれた彼にも本当に感謝したいと思う。

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