第1章はじめての彼女ができるまで第5話 キレッキレのゾンビ

部活動も引退した。


県大会に出るか出ないかくらいの中途半端な戦績だったが2年半の部活動はとても楽しかった。


なんとなくそこそこに勉強が出来る要領はあったので受験勉強などはあまり気にしてなく、放課後の時間を持て余し気味だった私はゲームセンターに通うようになっていた。


私の操るキレッキレのゾンビはいつの間にかワンコインで50連勝出来るくらいの猛者になっていた。


中学最後の修学旅行も、寺なんて死んでからでいいと思っていた私にはさほど興味が湧かなかった。


生菓子のニッキの香りと、女子と外泊する緊張感だけが印象に残っている程度で思い出も何もない。



中学3年生にもなると、お付き合いをしているカップルなどもチラホラいたりするものだが、お付き合いをして果たして何をしているのか?

って事までは私の耳には入って来なかったが、自転車の後ろにハブステを付けて2人乗りをしている様には憧れがあった。


きっと背中に胸が当たるんだろうなぁ、。


と、急ブレーキと急発進を繰り返す私のビジョンが脳裏をよぎったりしたが、実現は難しそうだ。



当時私にはイチコという意中の人がいた。


私の席の隣に座って、歯茎丸出しで大アクビしているロマンスのかけらも感じられないやかましい女子だ。


『おい、ブサイク』


と、私が爽やかな朝を演出する気さくな挨拶をすれば、イチコは大アクビで伸ばした腕をそのままに回転させて裏拳を食らわしてくるような女子だった。


ロマンスの神様は一体何をしてるのだろうか?



卒業も間近になり、卒業写真など撮ったりした。

私は生来写真映りが著しく悪く相変わらず目付きも悪く最悪な笑顔で写っていた。


イチコは家がボヤにあったのか何かに取り憑かれて凶刃を自身に振るったのか判らないが、とてつもなく短い前髪とチリチリな頭をして満面の笑みで写っていた。


そろそろ3月も半ばで、中学生活もあと僅かになった頃に卒業文集が配布された。



イチコとは違う高校に進むことが判っている。


このやかましい女子の隣の席も残り2週間かと思うと感慨深い。


ふいに、隣のイチコから声を掛けられた。


『あんたってさ、誰が好きなの?』


そんなこと聞かれることは無かったので少し驚いたが、私は平静に、


『バカでワガママで変な髪型したいい女が好きだ。』


と答えた。


イチコは


『はぁっ??まったくわからない!、あんたどんな趣味してんの??!』


と言うので、私は


『まったくその通りだ。私もわからんよ。』


と言う。


イチコは私の答えが不服だったのか、


『じゃあさ、この卒業文集の中のあんたの好きな人のところに印つけて!』


と、卒業文集を私に押し付けてきたので、私はペラペラとめくってイチコの所に印をつけて、


『家帰ってから見ろよ』


と言い捨てて教室を後にした。



いつもの道を歩いて、徐々にスピードを速めて、最終的には全速力で家に帰り、階段を上がり、部屋の扉を閉め、鞄を投げ捨て、ベッドに頭からダイブし、布団を被って絶叫した。


『、ッなにやってんだ俺ェェッ!!!!、/////』


『まだあと2週間あんだろゥオオオォッ!!!!、』


『どーすんだ!?どーすんだよコレ!!?』


と、ひとしきり悶えた。


面と向かってではないが、生まれてはじめて異性に自分の想いを伝えた。イチコに。


イチコと高校が変わってしまう寂しさ、ただでさえ席が近くなければ話すことのないイチコとは今後一切関わり合いになることはないだろう。


だからこそ繋がりを求めたのかもしれない、とにかくこのままで終わりたくなかった。



次の日、重い足取りで学校へと向かう。


正直休んでしまいたかった。無かったことにしたい気持ちでいっぱいだった。

残り2週間を今まで通りに楽しくバカ話して過ごしたかった。

だが時間は不可逆で卒業文集につけた印も元には戻らなかった。


教室に入る。平静を装うが全神経がイチコを探してしまう。


イチコは、私の隣の席には座っていなかった。


私が教室に来たことには気付いているのだろうが、離れた前の席に座っていた。


こちらからイチコに近づくことも出来ず、席を移動しているイチコへ教師からの指摘も無く、ただそのまま1日を過ごした。


周囲の者は異変を感じただろうし、私に聞かれても


『さぁ?』


とトボけることしかしなかった。


私はイチコに対する想いと私の自尊心とでアタマもココロもグチャグチャになりそうだった。


席を離れて座っているイチコの心境もわからない。嬉しくて恥ずかしくて照れてるのか気まずくて気持ち悪くて離れてるのか、、おそらくは、イチコのアタマの中もグチャグチャなんではないだろうか。



何も頭には入らなかったが授業がすべて終わって放課後になり、帰宅しようとしたら


『ねぇ、』


と、イチコに呼び止められた。


なんだか、恥ずかしい気持ちや死刑宣告の前のような気持ちではあるけど、とにかく、声を掛けられたことで救われた気がした。


一瞬硬直した身体を出来るだけ自然に振り返らせて私の口に答えさせる


私『ん、どした?』


イチコ『、、どした?じゃないでしょ。』


私『お、おぅ、そうだな。』


イチコ『、、席離してゴメン、。なんか、、ムリで、。、だってあんたが!、、』


イチコは一度俯き、、顔をあげ私をみて


イチコ『本気なの、?』



私『ああ、本気だ。』


イチコ『私のことが好きなの?』



私『、、ああ、そうだ。』


情けない。


肝心なことは全てイチコに言わせている。


私はただ印をつけただけだ。


それでもイチコは、


イチコ『、、嬉しい。アリガト。』


と言ってくれた。

そして、その後を続ける。



イチコ『でも、、ないわー。あんたはないわーw!!ゴメンね!失礼なこと言っちゃうけどチョットあんたと付き合うとか想像つかないかな。』


と言ってくれた。


このヤロウ。


あまりに清々しく酸味もある梅対応に


『だよな!私もだよ!wでも、イチコにそんなこと言われるのはムカつくわ』


と素で言い返してやった。


その後は聞くに堪えない言い争いを少しして、私とイチコの距離感は平常に戻った。



卒業式を迎え、雰囲気に飲まれてボロ泣きしているイチコをひとしきりからかった後、私は列を離れた。


なかなか彼女ってのは出来ないものだなと、3年間通った校舎を見ながら家路に向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る