黒髪少年の異世界ゲーム

緑茶風呂

堕天の魔女編:異世界転移

 今、望月 要が見ている光景はまさに惨状だ。

一つの王国が火の渦に飲み込まれ、いいたとえるなら火の海になっている。

人々は絶望の目をしており、生きる気力などない模様だ。


──そんな中、ひときわ目に留まったのは大きなお城だ。


 要の良く知るお城といえば、日本の代表的な和風建築のお城だが、今見ているお城は中世のヨーロッパでありそうな大きなお城だ。

 だが、そのお城にまで火が燃え移っており全焼になるのは時間の問題のようだ。


 その光景を見ていた要は、ふと、バルコニーにいる一人の少女に焦点がいく。

手を祈るように組んでいて白髪のこの世のものとは思えない造形美。

豪華なドレスを着飾っていて、えらい身分の人だと見て分かる。


 その少女が目を瞑り、下を向いて何かつぶやいていた。

要が「聞こえない」と心の中で言うと少女は、「ごめんなさい・・・・」と掠れた声で言った。

 少女が今にも途切れそうなくらい小さい声で言った瞬間。

要の意識が遠ざけられてゆく。


──残酷な夢の中から。



───────────────────────────────



 目を開けるとそこには、いつもの自分の部屋から見る天井ではなく、木造の見知らぬ天井があった。


──要の家のガチガチのマットレスの上ではなく、ふわふわのベッドの上のようだ。


 なんとも言えない静けさの後、要は外の様子を確かめようと体を起こす。


 窓を突き抜ける日の光が要の目の辺りを照らし、要は反射的に目を細める。

窓から見える範囲ではせいぜい森と生い茂った雑草くらいだ。

その光景からすればなんら地球と変わらない。


 望月 要は15歳の平凡な高校一年生だ。

特別顔がイケメンとか、お金持ちとかそういうわけではない。

ごく一般の家庭に生まれた三人兄妹の末っ子だ。

誕生日は2月23日。星座はうお座。

趣味はラノベを読むこととアニメの鑑賞。

日々アニメの世界に憧れをいだく典型的な日本男児だ。


 だからこそ、要はここが異世界だと賭けることにする。

大体、ここが地球だったとして、ここはどこだ。

 実は昨日、要は両親と壮大な親子喧嘩をしたのだ。

その後拗ねた要はすぐさまベッドにもぐった。

土竜のように。

 その後のことは寝たから覚えてはいないが、そんなに記憶に残る壮大な親子喧嘩を一日たった位で忘れるはずもないし、寝ていた場所が変わるなんておかしな話だ。


 要はふわふわベッドから立ち上がり、部屋の外へでる。

どうやら要が寝ていたところは一階建ての小屋みたいなところで家主は不在のようだ。


 要は家主の不在を確認すると、この小屋の玄関、のような場所へ向かう。

力皆無の要でも一蹴りしたらつぶれそうなもろいドアだ。

要はそのドアのドアノブに手を掛け、かる~くドアを開ける。


──ギギギギギィッ


「やっぱり、ここは異世界か」


 要はドアの開く音とともに前に出て外の光景を見た。

そこには──見たことのない火の鳥が空を泳いでいたり、地球では考えられないほどの高さの木が一本遠くに見えたりした。


「リアル『ジャックの豆の木』かよ」


 と、その外の世界の光景に要が感激を覚えていると、


「おきたんだね」


 後ろから少女の声が聞こえた。

声質的には要と同じ15歳くらいの少女だろうか。

 要はその声の主のいる右へ振り向く。


 髪の毛の色は緑、顔は普通にかわいい少女。

まさしくThe『森女』と呼べるような人物がいた。


「昨日はビックリしちゃったよ、家の前で貴方が倒れていたんだから。ここら一帯はケルベロスの生息地として有名だし、夜になると危ないと思って家に入れてあげたけど」


 そう言う彼女の言葉を受け流しながら要は彼女の言う『家』のほうを向く。

それは先ほど要が目覚めた小屋だった。

そのあまりにも不恰好な『家』の姿に要は「ブッ」と噴出す。


「なによ貴方っ! 今私の家見て吹いたよね? ねぇねぇ吹いたよね?」


「いや、吹いてねえよ、なに言ってるんだ君。今のはそうだね、くしゃみだよ」


 要はそう言ってさっきの表情とは裏腹に超絶キメ顔の真顔になる。


「え、あ、そう。なんだか『貴方』とか『君』とかでやり取りしてるのも変だし、私のほうから名乗らせてもらうわね。私の名前はセーレ、セーレ・アルスタイン」


 要の超絶キメ顔の真顔がどれだけ効いたのか、セーレと名乗った少女の表情は引きつっている。

 その反応に要は少しだけ落ち込み


「あぁ、よろしく。俺の名前は望月 要。要って呼んでくれ、んでもって家(笑)で寝かせてもらったのも超絶感謝してる。マジでさんきゅ」


「要? 要って変な名前ね。てっ、いうかっ! 今私の大切な家に(笑)つけたわね!?」


「おいちょっとまてっ!! 今俺の大切な名前をディスりあがったなお前っ!? さすがの俺も名前ディスられるのには我慢できねぇ、あああーっ! 俺怒っちゃったもんね~っ!」


「先に嫌味を言ってきたのはそっちでしょっ!? 撤回して! 今すぐ謝罪して! 土下座して! 早く!!!」


「段々要求が酷くなってきているのは気のせいか!? おい!」


 要とセーレはすぐに打ち解けた。

学校ではコミュ障でボッチ飯安定だった要がこうも簡単に打ち解けたのだ。

要は内心でガッツポーズをしている。

 そんな要の気持ちなど知らずにセーレは続ける。


「とにかくっ! カナメは私の家に泊めてもらったことを少なからず感謝しているのでしょう? だったらちょっと王都までおつかいに行ってきてくれない?」


「王都? おつかいはいいが、王都ってどこにあるんだ?」


要がそう言うとセーレは遠くに見える大木に指を刺す。


「とりあえず、あそこに向かって進んでいけばたどり着けるわ。片道一時間以上かかるけどね」


そう言ってセーレは要に紙切れを持たす。


「その紙に買うものは書いてあるから、後は頼んだわよ~! じゃあねえ」


 そう言い残しセーレは足早に小屋、いや、家の中へ入っていった。


 要は遠くの大木のほうを見て、


「この距離、確実に2時間以上はくだらねえよな」


そう言って要は王都までの道を歩き出した。



──望月 要の異世界ゲームここに開幕。












 








 

 

 



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