死神

遊真蘭戸

死を慈しむ神

殺す


コロス


ころす


この世界は矮小で至る所で死が溢れ帰っている。


天寿を全うした者の魂を導くのは最高に気分がいい

あの世に連れていくのも気分がいい


病に倒れた者の魂を導くのは少し気が滅入る


まがりなりにも神と名のつく者だが 未練が有るだろう まだやりたかったことがあっただろう と 同情してしまう


理不尽に命を奪われた者の魂を導くのは腹が立つ

その者に罪はなく ただその命を奪われる

無抵抗に 無惨に 無秩序に 無責任に

こんな理不尽は許されない


「またか」


生まれたばかりの命をあの場所 河の向こうに連れて逝くのはほとほと嫌気がさす 何もわからないままに泣いている子をあやしながら

大丈夫 大丈夫と声をかけ慰めながら


私は岸の向こうに連れていくだけ どんな命でもこの瞬間だけは安らかに そう思う一心だかその後のことは一切関われない

なんとも無責任でなんともやるせない事だ


理不尽に失われた命 奪われた思い

そう言った子の『親』だった存在には必ず報いを与える

何が出来るわけでもない出来る範囲で『それに』償いを

しかし死を司る神の私がその罪を償わせることがどれ程むずかしいか


だが罪の償わせ方はある・・・それは簡単に死ねないと言ったものだ


「容易く死ねると思うなよ・・・」


警察に逮捕される→刑罰が下される→刑務所にはいる→刑期が終わり出てくる。

そんな中で病に倒れる事があった


生き地獄 死にたくても簡単に死ぬことを許さず 苦しみに苦しみ 喘ぎ 首もとに当てた鎌で薄皮を剥くようにゆっくりと刃を突き立てていく

そして神に心から死を願ったとき 一息に命の灯を吹き消す

昔々私を生んだ神がこう言った。「貴方にこの役目は重すぎる」

私は自ら進んでこの役をかって出た


それがなぜ


「貴方には荷が重すぎる 貴方は優しすぎるから」


「ならその優しさで長い旅路を逝く者達に少しでも安らぎを与える旅にしてやりたい」


私の願いはそれだけだ


「なぜ そこまで自分を傷つける このお役目がどれだけ残忍で 残酷で人からいくせんの恨みを憎しみを与えられるかわかっているのですか」

「だが皆がそうとは限らない長い苦しみから解放してくれて感謝します ありがとうと願うものもいる」

「そんな一欠片の願いのためにですか」

「曲なりにも神 そんな一欠片の願いがあるなからこそ 私は・・・」

だから だから私は求めた無惨に 無意味に 無慈悲に失わされた者達の代わりに罪を償わせ罰を与えられる力を欲した

そんな力求めても与えられる筈もないのに


そんなものは許されるわけがないと解っていながら


私は生きるもの達が大好きだ 命の限りに生きるその灯火が好きだ


私は

死を司る



しにがみ・・・

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死神 遊真蘭戸 @yuumarando

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