エピローグ;手紙

 母さんへ


 突然ですが、手紙を書きます。

 探偵事務所から8人の男の住所を貰い、全ての居場所を確認しました。俺の計画がどれだけ進んでいるかは、新聞や雑誌で知っていると思います。

 また、何故か俺とそっくりな人間が、容疑者として扱われている事も知っているはずです。

 最初は他人の空似だと思い、彼を利用して全ての男を殺そうとしましたが、5人目の男を殺そうとした時、彼の姿を、この目で見てしまいました。

 彼は、男の家の近所に住んでいました。そして、俺と全く同じ顔と体つきをしていました。


 彼を直接見て分かりました。あれは、弟の優二ですよね?

 母さんは、優二は幼い頃に死んだと言っていましたが、彼を見て直ぐに、それが嘘だと分かりました。

 それでも俺は、弟を利用してでも8人の男を殺そうとしましたが、それが出来ませんでした。

 あいつは、余りにも俺に似ていて、本当に弟なんだと思い始めたら、迷惑は掛けられないと思いました。

 優二は5人目の男の近所に住んでいるので、そいつは最後に殺す事にします。そうでもしないと、あいつは本当に俺と間違えられます。あいつの人生に迷惑が掛かるのは、望んでいません。

 初めて見た弟の姿に、少しでも、兄として優二を守ってやりたいと思いました。



 優二は学校と言うものに通っていて、居酒屋と言う所で仕事をしています。

 俺とそっくりですが、俺よりも生き生きしていました。

 あいつは俺と違って、人を殺した事がありません。

 あいつは俺と違って、母さんの苦しみを知りません。

 だから、生き生きしているんだと思います。


 俺は…世間に出てから知った事が多いです。

 今までは、人を殺す事しか教えられませんでしたが、それを普通だと思っていましたが、人を殺す為に世間に出て感じた事は……俺は何故、人を殺さなければならないのか?と言う事でした。

 世間では、人が人を殺す事は滅多になく、人を殺せば捕まります。母さんが言ってたように、誰もいない機会を伺って男達を殺さなければ、警察に捕まります。

 誰もいないところで人を殺しても、警察が俺を捜します。それで今、優二は困っているみたいです。



 正直、俺はあいつが羨ましいです。


 母さん。俺は何故、人を殺さなければならないんですか?それに、俺が殺す男達の中には、俺と優二の、本当の父さんがいるんですよね?

 これまで感じなかった事ですが、世間に出て多くの家族を見ていると皆楽しそうで、笑顔で居ます。最初はそれが不思議に見えましたが、いつの間にか、羨ましく思え始めました。


 俺は、父さんと言う存在に会ってみたいです。『父さん』と言う存在として、その人に会ってみたいです。父さんは母さんと一緒で、俺に優しいはずなんじゃないでしょうか?

 でもひょっとしたら、俺は既に父さんを殺したかも知れません。そう考えると、俺は自分が怖くなりました。世間では、父さんを殺す事は、母さんを殺すのと同じくらい悪い事なんでしょ?


 でも、母さんが父さんを、いや、8人の男を恨んでいるのは知ってます。それで母さんが苦しかったのも知ってます。だから俺は母さんの代わりに、8人の男を全て殺します。それは約束します。

 ただ、男を全て殺した暁には……俺は、自由になっても良いですか?


 与えられた宿命から、逃れる術はありません。また、母さんの事を考えると逃げるつもりもありません。

 それだけは信じて下さい。


 母さんの下を離れて、そろそろ1年が経ちます。その間に、俺は多くの事を知りました。学びました。

 そこで覚えた事は…やっぱり俺がしている事、母さんが俺にやらせている事は、間違っていると言う事です。数人の男を殺した後、俺はそれに気付きました。人を殺した事を、後悔しました。

 でも、母さんを恨んではいません。母さんの気持ちは俺が一番よく知っています。

 母さんの為に、俺はやり遂げます。


 優二が羨ましかったですが、俺は、優二が持っていない物を持っています。

 母さんは、俺を愛してくれました。優二への自慢でもあるし、その愛情に、俺は恩返しをしなければなりません。


 手紙はもう書きません。

 全ての男を殺したら、俺は自由になります。

 今まで、愛情をありがとうございました。



                                 雄一より

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る