或る池

釣りキチ

或る池 短編1話

​ とある池でね、といっても、この辺りにある池ではないよ。

 僕は昔、あちこちを回っていたからね。

 ここからはずいぶんと離れた池だよ。

 とにかく、僕はその池で釣りをしていたんだ。

 月明かりだけが頼りの夜にね。

 そうしたら、池の真ん中に何かが浮かんでるのを見つけた。

 ゴミ、ペットボトルか何かかと思ったのだけど、どうやらそうじゃない。

 それは動いていたんだ。

 じゃあ、水鳥かな。

 次はそう思ったんだけどそうでもない。

 水鳥なら、月明かりで二つの目が光って見えるはずだから。

 僕は目を凝らしてよく見てみた。

 それはね、人の手だったんだ。

 手招きするように、ゆらゆら動いていた。

 そうしたらね、竿が引いたんだよ。

 手招きに合わせて、くいっ、くいって。

 僕は慌てて竿から手を離して、一目散に家へ逃げ帰った。


 でもさ、あのとき僕が竿を上げていたら、いったい何が釣れていたんだろうね?

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或る池 釣りキチ @turikichi

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