ジャグリング再び

@citytower

第1話 プロローグ

 高校入学時に買ったばかりの真新しいカバンの中に、小さい頃使っていた少し汚れのあるジャグリングボールを五つ入れた。なんだかボールは居心地が悪そうに見えた。まるで今までの僕みたいだな、しかし、入学式のあの光景が忘れられないせいか、ユウキは意を決してジャグリングサークルを尋ねた。


 思い起こすと、小さい頃、確かまだ小学生になってない頃、ユウキはよく家族四人で大道芸人のショーを見に行った。なぜなら、父ちゃんはプロのジャグラーだったからだ。その当時はまだ、ジャグリングをしている人も少なかったため。珍しい目で見られていた。おかげでユウキはクラブパッシングを中心に、よく一緒にジャグリングをした。しかし、父ちゃんは厳しく、ユウキがミスをすると、できるようになって当たり前、出来なかったら、ちゃんとやれ、と怒られたため、あまり好きになれなかった。ジャグリングは人を笑顔にするものだ、これが父ちゃんの口癖だったが、ユウキは笑顔になれなかった。そんないきさつもあり、中学生時代はジャグリングとは縁のない生活を送ってきた。


 三月。今日は中学校の卒業式。友人四人で、いつもの古びた定食屋にごはんを食べに行き、中学校生活や高校進学のことなどいろいろな話をした。

「ここでこうして四人で食べるのも今日で最後かもしれないな」

「そうだな、俺は東京へ行ってしまうしな」

「みんなでまた会おうな」

「おう」

何気ない中学生の会話だった。


 夕暮れ時、一人で帰る時、ユウキには気になる場所があった。それはオシャレなカフェが立ち並ぶなか、ポツンと異質な空気を放つようなジャグリングショップだ。今日も気にしまいと思いつつもどうしても路地から中を見てしまう。すると、制服を着た見慣れないスラッとした女子中学生が優雅に赤色のクラブを回していた。珍しいな……と思いつつ通り過ぎようとしたとき、一瞬目が合い、微笑みかけているように見えた。

「えっ」

少し気になり振り返った。誰だろう? 知ってる人かな? でも……関係ないか。そう思い、そのまま何もなかったように通り過ぎた。

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