5
「人類の歴史は、戦争の歴史だった」
それはサヤカ・シュウという個人の感想ではなく、歴史を
人類文明の始まりは諸説ある。黄河という大河の岸で興ったものを、最初の文明とする説。チグリス・ユーフラテスという二本の川によって形成された平野で発達した、オリエントと呼ばれる文明を直接の祖先であるとする説。いずれにせよ人類の歴史をさかのぼっていけば、地球のどこかにたどり着くことはちがいなく、地球が人類の故郷であるということは、動かしようのない事実であった。
文明は社会を産んだが、それは同時に戦いも産んだ。はじめは都市と都市の、肥沃な土地をめぐる争いであった。複数の都市を統べる〝国家〟が誕生すると、今度は国家と国家のあいだで、奪い合いが繰り広げられた。時代が進むにつれて、宗教対宗教、民主制対君主政、植民地対宗主国、資本主義対社会主義と、さまざまに対立軸を変化させながら、人類はみずからの血を、みずからの手によって流しつづけた。
それらの争いを彩る武器群も、技術の進歩によって徐々に変質を余儀なくされた。槍や弓で眼前の敵兵を打ちまかすものであったはずが、船、大砲、ダイナマイト、戦車、航空機、ミサイルと、破壊力の面において、劇的な進化をみせてきたのである。
戦いというより
そして、科学者の間で不可侵の聖典であった相対性理論が部分的にではあるがつきくずされ、
「新たなる希望を! 新たなる可能性を!」
「宇宙時代の幕開けを! 人類社会の新たなる一ページを!」
かくして、この年をもって、人類は永きにわたって使用してきた西暦を
今まで他国を牽制する兵器開発をきそってきた国家間の競争は、広大な宇宙に無数にちらばる利権の獲得競争へと、その姿を変えた。それは、時に
誰もが、そう思っていた。
宇宙開発が競争であるとするなら、そこに勝者と敗者が生まれるのは、当然のことである。勝者は、宇宙時代は平和の時代だ、無限の可能性へ際限なくエネルギーを注ぎ、全ての人間が繁栄を獲得できる、と主張したが、敗者はそうは思わなかった。彼らには、勝者が宇宙進出の美酒と料理を独占し、自分たちには宴会場の扉をかたく閉ざしているように映ったのである。不満と不信の
火山は噴火した。
最初は、国家の政府施設に対する爆弾攻撃であった。攻撃を受けた側は警察力をもって対処しようとはかったが、攻撃の規模が大きくなり、未遂ながら細菌兵器や電磁兵器による攻撃がおこなわれるようになると、さすがに軍事力に頼らざるをえなくなった。戦火の応酬は激しさを増し、破壊の連鎖が人々を襲うようになっていった。
そして、ついに人類は、禁断の
ひとつの核融合爆弾が爆発した。そのひとつの爆弾は、数倍の数の都市を消滅させ、さらにその数十倍の都市に死の灰を降らした。報復によって、同数の都市が吹き飛ばされ、同量の都市が汚染された。細菌兵器、化学兵器までもが惜しげもなく投入され、人類の母星を、死の暗雲で埋めつくしていった。
戦争は一ヶ月を待たずして終結した。勝者と敗者が、そこにはあった。だが、勝者のがわも、祝杯をあげる気分には、まったくなれなかった。
他星系に築かれた都市は、本国の
そして、あらたな統治体が必要となった恒星間社会は、地球をのぞいて当時最大の有人惑星であったアミシティアを首都として銀河連邦を樹立し、ふたたび繁栄への
こうして、地球は、人類社会の中心であることをやめたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます