第28話アウトブレイク

 実権を握っている地球統括政府正規軍、その終焉が刻一刻と近づいていることを知るのはもはや神だけなのかもしれない。ただ、その神が気まぐれを起こさないとは限らない。一つだけ確実に言えることがあるとすれば、この戦いに大した意義などない。


 統括軍のゲラ基地を目の前にレボルストの決起集会が行われ、それに参加する形でバーナード率いるアルバトロスは公の場で単独行動を許される。ついに歴史を大きく変える戦いの火蓋が今切って落とされる。


 ズズズ…ズズズ…

 ヘルダスから動き出した艦隊は大きく土煙を立ち上げながらまっすぐとゲラへ向けて発進する。ハイネスやゲタルト、そしてベンジャミンの搭乗するランドバトルシップ『バナンスタル』をフラッグシップとしてそれを取り囲むように駆逐艦や巡洋艦が併走する。

 そんな最中、アルバトロスはレボルスト艦隊から脇を行く。ロナウドJr.から協力を得て渡された資料を半分半分で信じつつ、その通りに攻めるための作戦行動に出ていた。

「レボルストはこの真正面から少しそれた場所、基地南南東の脆そうな部分を責めるらしい。レーダーが効きにくいとのことでここを攻められてはギルガマシンがすぐには出撃出来ないそうだ。」

 モニタに映された地形図を見ながらバーナードはそれぞれの艦隊の動きを説明する。

「でも艦長、その情報って…?」

「そのまさかさ、ゲタルト・ジャイフマンの作戦だよ。以前ゲラに一度訪れたことがあるのだが、多分この位置は攻めやすいのだろうけれども脆くはないはずだ。レボルストの戦力を良い塩梅で削るにはもってこいの場所とも言える。」

「やっぱり、あらかじめハデに動かないとは予想してはいたけれど、奴めコソコソと仕掛けは作っていたか…。」

 艦橋からバナンスタル他陸艇をじっと睨みつける。あのときのハイネス・ダットソンの態度としてはいまだアルバトロスをどうも下に見ており、せいぜい足手まといになるなとでも言いたげであった。

「戦場に出てから足手まといとなるのは果たしてどちらかな?」

「はぁ…?」

「いや、なんでもないさ。」


「しかし、お前もつくづく不幸だよな。こんな時代に軍人の子だなんてさ。いや、それでも生きてるだけ運は良いのか?」

 エドゥはケーラを抱きかかえながらはぁとため息を一つつく。ザンダガルの整備を一通り終え、その合間にケーラをあやす。そうでないと最近こそマシにはなったもののずっとぐずりっぱなしで仕方がない。だがエドゥとしてもケーラを可愛がり、別にそれを嫌がっているわけでもない。それよりもあまりにもけなげに思えてきた。とは言え、自身がその父親の仇ではあるわけだが。

 トントン、とエドゥの部屋をノックする音が聞こえる。

「どうぞ~。」

 気の抜けたような返事を聞き、ノックした人物が扉を開けて中へと入ってくる。

「なんだニールスか、何の用だ?」

「なんだはないだろう?理由がなくちゃ来ちゃダメなのかい?」

 そんな風に少し語尾を強めて言ってくるニールスを久々に見たので少し驚いて顔を見るが別に怒っている感じではなかった。そのまま近づいてきたニールスはエドゥからケーラを取り上げて彼女を抱っこする。

「理由があるとしたら、ケーラの様子を見にね。なんだか初めて会った時よりはこの子、元気そうだね。まあ慣れない環境に来たら子供でなくても誰でもそうだけれど。」

 ニィ~っとケーラに向けて柔和な顔を見せるニールス、そんな彼女が発した言葉は自分たちの事も言っているようにエドゥは思えた。彼はニールスの正体を知ったときに聞いた話を思い出す。リリィ・M・ファラシーは兄・ニールスの仇、統括軍を討つべくすべてを捨てて兄に扮してアルバトロスに乗艦したことを。あっちも仇、こっちも仇と様々交錯するが、そんなニールスから今のエドゥはどう映っているのだろう。

「ニールス…いやリリィ。今のお前は…、」

 言葉に詰まる、これ以上何を言うはずだったんだろう?それは彼女を傷つけはしないだろうか?頭の中にモヤがかかる。

 ただニールスは別に気にするようなそぶりを見せはしない。

「エドゥ、君が何を言いたいのかはわかるよ。でもボクは前も言ったようにリリィではない。ニールスさ。統括軍の兄に対する仕打ちは許せないけれども、そもそもここにいるみんなだって元は統括軍人じゃないか。ケーラのお父さんが統括軍だからって関係はないし、立場上エドゥと戦ったことも、そしてエドゥがこの子の親の仇になってしまったことだってボクは気にしちゃいないさ。故意でないのなら仕方がないことだし、それに君は今までボクの秘密を艦長にさえ言っていないほど真面目じゃないか。」

「ありがとよ、そう言ってくれて。オッドーの事があって以来、お前やジェミニの事が頭を離れなくてよ。みんな肉親を亡くしちまっているからさ。酷いことをする奴らだなんて正義ぶっていた俺が、まさか人の親を殺めちまうなんて思ってもなかったからさ。」

 深刻そうな表情をしだしたエドゥの横にニールスは腰かける。そしてエドゥを見つめ、左手でケーラを抱っこしたまま右手をエドゥの左手に重ね、一つ呼吸をしてから喋り出す。

 エドゥ、それを言うのならボクだって誰かの親兄弟の仇さ。ボクだけじゃない、サキガケやゴーヴ、艦長やほかの人だって誰かの仇なんだよ。ギルガマシンで戦って、自分たちが生き残る代わりに誰かが死ぬ。そうすると残された家族からすればボクたちが仇となる。それがこの時代じゃないか。

 エドゥが何を浸っているのかわからないけどさ…。そうしないためにも今戦うべきなんだよ。この時代を終わらせない限り誰かが誰かを意味もなく殺し続けて悲しむ人間が生まれる。でも戦争なんてなくなってしまえばそんな思いをする人もいなくなる。皮肉だけれどもね、戦うことで戦いが終わるのなら誰かの犠牲は初めて意味を成すんだ。とはいえ統括軍が黙って引き下がればいい話なんだけれども、そんなことをするような奴らじゃないもんね。

「ニールス…。」

「ケーラを預かる身となって少しはそう言うことが気になりだしたのかもしれないけどさ、それはエドゥらしくないよ。」

 ニールスは一度エドゥから手を離しケーラを脇に座らせる。再度彼の方に振り向き空いた両手でエドゥの手を握る。

 途端にニールスはエドゥに顔を近づけてその唇を重ね合わせる。エドゥは突然のことに驚き、目を見開くものの、ここはマナーだと目を瞑る。瞳の裏側に一瞬だけニールスの顔がフラッシュバックするが、口元のしっとりとした柔らかい感触がそれを遮る。

(やはり女の子の唇だ…。そうか、俺は…。)

 その想像ですら邪推だと思い、頭の中から消し去る。艦内に敵機の接近を知らせる警報がなると、思い出したかのようにニールスが顔をスッと引く。エドゥも目を開けようとすると両手でそれを塞がれる。

「しゅ、出撃準備だね!ケ、ケーラの前でこんなことするなんて、ボク…どうかしてるよ…!…そ、それじゃあ!」

 そう言って動揺を見せながらエドゥの部屋からニールスは逃げるように出ていく。

 エドゥは無垢そうなケーラを見ながらあはは…と苦笑いを見せる。

「赤ん坊の前であいつは何してるんだか…。じゃあ、行ってくるとするかな。」

 その言葉は自嘲も入っているのだがケーラは我関せずとばかりに指をしゃぶる。警報の音程度にはビクともしないその子は立派に育つと感じた。


「おう、エドゥ。まだデッキに行ってなかったのか?」

 ケーラを抱きかかえながら走るエドゥの姿をバーナードが発見する。なんと言ったものかとぐるぐる思考を巡らせるが「ま、まぁ。」と曖昧な返事しか出せない。

「ケーラなら私が預かっておこうか?」

「あぁ…悪いな艦長。」

 一瞬ケーラがぐずりはしないかとドキドキしたが特に泣くような様子は見せない、この子も大分みんなに懐いたものだと思う。

「ところで、さっきニールストもすれ違ったんだが、そのことが何かかんけいしてるのか?」

「えっ…!」

 急に背中に何か冷たいものを当てられたかのようにヒヤリとする。再び先ほどのキスが連続写真のようにフラッシュバックしていく。

「…気丈に振る舞ってはいるけども、あの子もなかなか人に言えないことを抱えているしな。最初こそどうなることやらと思っていたが、今やエドゥ、お前とも仲良くやっているようだし。守ってやれよ。」

「ん、それって…。」

「あれ?てっきり気づいているものだと思ってたがな、ニールスは本人ではないと…。しまったなァ…。」

「か、艦長!あんた知ってたのか?」

 衝撃が走り、うっかりエドゥが大声をあげたことでケーラが泣きそうになる。

 おっと、と言いながらバーナードは彼女をあやす。

「…こう見えてもこの艦の全体の命を預かる責任者だぞ?ニールスが偽名で、しかも女の子だってことも知ってる。…と言って見せたものの隠すのが下手だったがな。だから最近妙なお前らが仲良くしてるからそういうことなんだと…。」

 全身の力が抜けていくような気がした。確かに目の前の男がそのことを知らないなどという前提がおかしかったのだと今更ながらに思う。

「…と、長話をしてる場合じゃなかったな、この話はまただ。行ってこい。」

 ドンッと背中を押されてエドゥはよろめくが、一瞬だけバーナードを見るだけでそのままデッキに向かう。

(な、なんちゅう恐ろしい男だ…。)

 実に今更ながらの感想だが、そうは思わずにはいられなかった。


 エドゥが格納庫に着いた時、すでにザンダガルの火は入れてあった。急いでヘッドギアをかぶり搭乗する。

「エドゥ、遅いじゃねぇか!」

 ジュネスが怒号をあげるのも無理はない、まだ出撃出来ていないのはエドゥのザンダガルだけだったからだ。

「すまん、出力チェックオーケー、メインモニタ、高度計、地形図確認。すぐにでも出られる。」

「よぉし、おやっさん!ザンダガル、出せるぞ!」

 後部デッキのハッチが開かれ外の光が目に飛び込む。とは言えヘッドギアのバイザーがある程度それを和らげてはくれたが。

 すでに火線が飛び交う中、チラとMk-Ⅱが見えた。彼女を守ってやれよというバーナードの言葉が頭をよぎるが今はそれどころではないと言い聞かせながらコツコツと頭を叩く。

「ザンダガル発進するぞ!」

 グリップを強く握り、ゴゥと音を立てながら高く飛び上がる。


 戦場を俯瞰するとすでにゲラ基地を半分囲うように陸艇とギルガマシンが展開されている。ビルガータイプもさすがに良い動きを見せているようにも思えた。ザンダガルの発進とともにアルバトロスも攻撃を仕掛け始め、ゲラを守らんとする艦隊と交戦していた、つまりその周辺にアルバトロスのマシンがいる。やはりマークをつけられているからか、必要以上のマシンの数がその方向に投入されている。

 よく見れば量産型アテンブールとしてクリスタリアカンパニーによって作られたバッツェブールが取り囲んでいるのがわかる。

 しまった…!とエドゥも急降下をかけて、それらを撃退しに行く。

 アルバトロスの戦力もせいぜい二機のザンダガルにアッシェンサースといったAGSを備えたマシン三機、他は全て旧式や旧式のカスタム機が数機ある程度で、いわば他の艦に比べて搭載機は大したことがない。そうなると狙うは一つ、相手の母艦しかない。

「ゴーヴ、聞こえるか?マシンだけを狙っていちゃキリがないしアルバトロスじゃ微妙に届かない、ロングランチャーを落とすから敵の母艦を狙え!十分援護はしてやる!」

『しかし俺はレスロッドだぜ?合うのかよ!』

「統一規格だ、行くぞ…スリー…ツー…ワン!」

 バシュッ

 エドゥはセンサをゴーヴのレスロッドに合わせてランチャーを切り離す。レスロッドは腕を伸ばしそれを取り上げ、よろめきながらも構える。

「ニールス、サキガケ!すまないが周りのマシンを頼む!」

『任せて!』

『言われずとも、やってやるぜ!』

 ニールスのバルカンがバッツェブールに直撃して堕ちていく。サキガケもアッシェンサースは連装砲を構えながら左脚のミサイルポッドから無差別に乱射し、射線上に入れてからトリガーを引く。

 爆発四散する金属片を目で追いながら、回避運動を行う。

「ビュンビュン飛び跳ねられるのはうっとおしいが、ザンダガルの動きに目が慣れた俺からすれば止まってるように見えるぜ!」

 バッツェブールからの反撃にあいながらもそれを耐える。

 サキガケやニールスらが引きつけている間にエドゥはザンダガルを敵戦艦の上空まで飛ばし対地ミサイルをばらまく。爆炎が立ち込めている間にゴーヴはランチャーの照準を合わせていく。

「上空からの攻撃だと!?例のアテンブールだ!狙え、狙えェ!」

 対空火器はすべて上空を飛ぶザンダガルに向けられ、主砲、副砲は明後日の方向を向く。どれもレスロッドには注目をしてはいなかった。

 煙が晴れ、艦橋がうっすらと姿を現した時、その場にいる誰もがレスロッドを視認する。砲塔を回転させるとほぼ同時にロングランチャーは銃口から火を放ちながら上手く直撃するコースに砲弾を軌道に乗せる。

 ダダーン

 広い戦場であっても大きく響くその爆音は艦橋が燃えるのには十分であった。帰るべき母艦を失ったマシンは多いのか、指示を仰げぬまま変形しアルバトロスへ直接攻撃を仕掛ける。だがその前にはエドゥのザンダガルが現れ、彼らに対して敢然と立ちふさがる。

 アルバトロスへの攻撃はさらに強固なものへと変わっていくが、ハイネスのバナンスタルを旗艦としたレボルスト艦隊は予定通りのコースに侵入する。


 ゲラ基地のすぐ目の前には大河が通っており、まるで自然に作られた堀のようになっていた。その一線を越えてしまうと基地からの攻撃が届いてしまうために陸艇では侵攻できない。しかしその河を渡らなければギルガマシンではゲラに近づくことさえままならないのであった。

 だが、今度ばかりは大きく条件が異なっていた。大河を前にして停船する各艦からは後続のマシン、AGSを搭載したビルガーが放たれる。それらはまるで水上スキーでもするかのように河を渡り向こう岸までさして時間をかけずにたどり着く。待ち構えていた統括軍側も大量に押し寄せるマシンには流石に太刀打ちが出来ぬままに防衛ラインの突破を許してしまう。

「依然レボルストは我が基地へ侵入、留まるどころかこちらが押されています!ぐあーっ!」

「ファイブ・ヘッズはまだ出ないのか!これでは壊滅するぞ!」

『こちら第三中隊、レボルストがGブロックに…!応答を…クソォ!』

 隊列を成して迫りくるビルガーに統括軍の兵士は畏怖する。これまでとは逆の立場に置かれ、どうすることもできない絶望感をすぐ目の前で味わわされている。

 あっという間にゲラ基地にはレボルストのギルガマシン隊がぴったりとくっついて行く。基地内の防衛システムが働き、統括軍のマシンがワッと押し寄せ阻止をはかろうとするが、旧式のマシンでは太刀打ちできないそのビルガーの性能の違いに圧倒される。


「予定よりもはるかに早く敵が基地を襲撃してきた、我々も出撃だ!」

 ミラージもヘッドギアを装着して自身のマシンに乗り込み指示を出す。

「チー・ウォンホーのリーザベスが到着するまでにこのドックは死守する、フィフス・ヘッズ、私のバイスキャノンにつづけ!」

 ミラージの大型マシンバイスキャノンの後を追うように小型のフィートレッガーが走る。同じく残されたファースト・ヘッズのマシンにもチーの到着までマシンに登場後待機を命じ、ミラージは同乗のガンナーに敵の数を確認しつつ防衛線を張る。

「いいな?ファースト・ヘッズの面々はすぐにでもタルトスに向かうことができるように準備をしろ、レボルストがこの奥までやってくることはないだろうが万が一のこともある!サード・ヘッズとの交代まで耐えるんだ!」

 全方向に神経を研ぎ澄ませながらレーダーと時計を交互に見る

(サード・ヘッズはまだ…?)

 ピーン

 レーダー上に赤い点が映し出されてミラージやフィフス・ヘッズの隊員は歓喜の声を上げる。だが、その喜びもつかの間の出来事、だんだんと近づいてくるその点は味方の識別信号ではなかった。

 主砲から放たれた弾は地面に着弾し大きな爆発を起こす。

「まさか、これの通りに従っていくとこんな大物に出会えるとはね。」

 バーナードも双眼鏡をのぞきながら武者震いをする。

『ア、アルバトロス!何故こんなところに!どこから!?』

「アルバトロスだとッ!攻撃を集中させたはずじゃ!?」

 先ほどまで苦戦を強いられていたアルバトロスは一度戦線から外れ大きく後退し、そこにまとわりつく敵艦隊は基地内に続々と侵入していくレボルストの主力部隊の方を追いかけたためにアルバトロスはフリーな状態となった。その隙をついてロナウド・マクダナゥJr.から受け取った資料を頼りにゲラ基地の内部までに侵入をし、今に至る。

「しかしレーダーの抜け穴があるなんて、最終防衛ラインにしちゃ少しずさんすぎたようだな!」

 ザンダガル他、各ギルガマシンはミサイルの一斉射撃を行い目の前のミラージたちを追い込む。突然の事にひるむが、さすがはファイブ・ヘッズ乱した統制をすぐに整えなおし両者は激突する。

「こっちだとバッツェブールのようなAGS搭載のマシンはいないから十分に戦えるぜ!」

 レスロッドやトレーグスのパイロットらもアルバトロスから降りて白兵戦に持ち込もうとする。それを見たエドゥがザンダガルを変形させて上空から援護をする。

 バイスキャノンやフィートレッガーも迎撃を行うがランドクルーザーの攻撃の前に押し込まれる。

 ザンダガルは再び変形をしゴーヴからロングランチャーを受け取ると弾を装填してそれを構える。

 Mk-Ⅱはそんなエドゥをかばいつつ、ファイブ・ヘッズの勢いに飲まれそうになる。

「サンキューニールス!ランチャー撃つぞ、どけぇっ!」

 グワァァ!

 すさまじい音を立てながら弾は一直線にドックに向かい爆発する。その衝撃で周りのマシンもみな振り返るほどだ。

『ドックをやられた!…チクショウ、裏切り者なんぞに好きにさせるか!』

 ファイブ・ヘッズの激しい猛攻にあいながらもエドゥらはマシンの性能をフルに活かせつつ攻撃を仕掛ける。バイスキャノンはトループ・レスロッドに取り囲まれながらもそれを引き離し投げつけ、肩のキャノンで攻撃する。だが、ガンナーとの息が合わずに弾は明後日の方向へと飛んでいく。目の前ではフィートレッガーが一機爆発し、それを見上げるとサキガケのアッシェンサースのマグナムの銃口がゆらゆらと煙を吐いている。

「ぐうぅ…。シャイダン…。」

 アルバトロスのその勢いに押され気味のファイブ・ヘッズ、ミラージの頭の中には一瞬チラリとシャイダン・サルバーカインがよぎり、彼の名を呟いてしまう。助けを求めての無意識の事なのだろうが、無慈悲にもそれが彼に届くはずはなかった。だが、

『待たせたな!フィフス・ヘッズの諸君!』

 どこからともなく飛んできたミサイルはエドゥらを狙う。ギルガマシンは辛うじてそれを避けることは出来たが、アルバトロスには当たる。一発では大したダメージではないはずなのだが先ほどまでの別部隊による攻撃が蓄積されているアルバトロスは並ではない損傷を負う。

「来たか、チー・ウォンホー!すまない!」

 数機のリーザベスがアルバトロスのマシンの前に立ちはだかり、彼らと対峙する。

「いつかのリーザベスか…。今度は俺が相手だぜ!」

「なっ!何かと思えばアテンブールだと!?あの時の屈辱晴らさせてもらう!」

「ほざけよぉ!」

 リーザベスはトレーグスとほぼ同タイプのマシンであるはずなのだが、その動きはやはりファイブ・ヘッズに属するだけはあるほどの腕前を見せる。

「メルス!アテンブールは俺が引き受けた!そこにあのアテンブールもどきのような新型を含めたマシンはお前らでどうにか処理をしろ!」

『了解であります大佐殿!お任せを!』

「じっくり料理してやるぜ!覚悟しな!」

 リーザベスがエドゥのザンダガルに襲い掛かる、依然と大きく異なっているのはそのザンダガルにはニールスではなくエドゥが登場していることであろうか。またリーザベスの足元にはローラー式の加速装置が付加されている。

 キュィィィィンと甲高い音をうならせつつチーのリーザベスはザンダガルにタックルをかます。その攻撃にザンダガルは後ろへと大きく倒れ、地面にたたきつけられる。

 エドゥが相手の動きを予想してバルカンを撃ち込むが、当たるのはせいぜい数発、致命傷には至らない。

「このザンダガルにも追いつけないほど反射神経の良さはダンチってことか、ならばこれはどうだ!」

 ザンダガルを後方に二歩ステップしてから距離をとりミサイルをぶち込む。だが、それも簡単に避けられてしまう。上空へ大きくジャンプをしたリーザベスはカウンター攻撃をザンダガルに向けるがザンダガルも同じく銃口を向けエドゥはトリガーを引く。

 ズダダダダダダ

 バルカンポッドから吐き出された弾丸は確かにヒットしたものの、リーザベスの左脚の加速装置を破壊したに過ぎなかった。ほぼ同じタイミングで受けたリーザベスの攻撃はザンダガルの肩の追加装甲を吹き飛ばし、内部の装甲がむき出しになる。

 着地したリーザベス、だがそのバランスはとれてはいなかった。

「なにっ!」

 右脚を軸足にローラーの回転数をあげて何とか転倒を防ぐ。


 サード・ヘッズがアルバトロスを相手にしている間にミラージはタルトスへの撤退準備を始める。ファイブ・ヘッズがまるまる二部隊相手ではアルバトロスもこちらに構うことができぬようで、即座に支度は整う。ドックから小型艦艇が出撃し、ギルガマシンに牽制攻撃を加えながら大きく旋回してその場から離れていく。

『ウォンホー大佐、私の部下を少しお貸しいたします。あとは頼みました。』

 ミラージらフィフス・ヘッズは小型艦艇に飛び移りサード・ヘッズにその場を託す。エドゥがそちらを確認して追わんとするが、

「輸送艇だと!?ンの野郎、どこへ行く!ドワァッ!」

 リーザベスの攻撃を前に阻まれてしまう。

「どこを見てんだ、お前の相手はこっちだよ!」

 ザンダガルは頭部を強く殴られよろめく。


「艦砲射撃よぉい!撃てーっ!」

 アルバトロスの主砲が未だ基地の建物を破壊する、がしかしこちらの騒動に気づいた別部隊がファイブ・ベッズの援護に回ろうとする。旧式のマシンがそぞろに出てくるが、基地防衛のために動員されているだけはあってファイブ・ベッズに勝るとも劣らないパイロット達だ。

「艦長、この場はアルバトロスだけで突破出来るとは思わないんですが!」

「ハイネスめ…、予定よりも遥かに手こずっているな…。だがまだ想定の範囲内だ、レボルストがこちらに来るまでは少しでも耐えろ、ここは我々だけで徹底的に叩き潰す!」

 サード・ベッズの戦艦がアルバトロスを艦隊戦に持ち込もうとするがニールスがそれを阻止する。

「やっぱり駆逐艦や、他の陸艇とは違うか…!ゴーヴ!」

「了解だ、任せとけって!」

 Mk-Ⅱにレスロッドが飛び乗ると、そのまま戦艦の上空へと持ち上げられる。ゴーヴはそこからブリッジに向けて射撃するがMk-Ⅱが攻撃を避けるためにブレてしまったので弾は外れ甲板に穴を開ける。

『おっしー!ニールス、もう一度頼む。』

「ダメだ、さっきの攻撃で狙いがこっちに変わった!あの対空火器をどうにかしないことには!」

『それぐらいなら朝飯前よ!』

 レスロッドのマグナムの照準を戦艦の機銃に合わせて発砲する。見事命中した弾は砲座の火薬に火をつけ爆発する。

「さすがだよゴーヴ!」

『褒めても何も出やしねぇよ。さっ次行くぜ!』

 ギュンと加速をかけたMk-Ⅱにレスロッドは必死にしがみつく。その二人に気を取られている間にサキガケを先陣としたアルバトロスのマシンが次々と取り付く。


「何っ!アルバトロスはすでにゲラの基地内で敵と交戦中だと!?」

「はい同志ハイネス、なんでもレーダーの抜け穴を利用したとのことで…、なんでもファイブ・ベッズとやりあってるとか…。」

 バナンスタルのハイネス・ダットソンは部下からの知らせに度肝をぬかす。異様に自分たちの元へ攻撃が激しくなった様に感じていたことがただの気のせいではなかったと確信する。

「しかしなぜ奴らはそんなルートを…。一体どこから…?」

「ハイネス君!どういうことなんだ?話が違うではないか、私たちが先にゲラ内部に突入して攻略するはずでは?いまだに大河すら渡れてはいないではないか!」

 ビルガーの基地制圧を待ちながら大河の手前で足踏みするバナンスタスに痺れを切らしたベンジャミンがまくし立てるように絶叫を上げるがハイネス自身、どうしてそうなったのかということが分からない。自分たちが攻めあぐねている中、何故あれほどまでに単騎のアルバトロスが二歩も三歩も先を行くのか、今度の作戦を考え付いたものは誰だったか、横から鼓膜を突き破らんとするほど叫ぶ出資者をどう黙らせようかと考えをめぐらすが、その中に一つだけ浮かぶことがあった。

(…もしや、ゲタルトが、いやしかし…。)

 ハイネスの目の前に立つ作戦を企てた男、統括軍のフォース・ヘッズ隊長でありながらそれを裏切りレボルストについた男ゲタルト・ジャイフマンだ。ハッとなって彼の方を見た時一瞬だけ目が合ったようにも思えた。そしてその口角はよくよく見ると上がっているようにも見える。すぐに顔を背けたゲタルトではあったがスローモーションにでもなったかのようにはっきりと目に焼き付く。

 その光景が、ハイネスの彼に対する不信感が急に募るようであった。

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