第23話ネゴシエイション

 支配をする統括軍、混沌を呼ぶゲリラ。それぞれの戦いは次第に大きくなるのは時代が与える試しなのか。そうであるならば実に残酷で無責任なことである。


 出会いの全てが良いものとは限らない。

 アルバトロスがスヴァーナで与えられた出会いは今後の彼らの運命そのものを変えかねないような出会いだかりだった。己の生存をかけ、陰謀に満ちた統括軍やレボルスト、ナーハ商会…。だがそれはまた時代の変調の兆しと言うべきものなのかもしれない。

 アルバトロスはその渦中に偶然いるだけなのか、それとも…。


「閣下、ジャイフマン大佐から先ほど情報が入りました。アルバトロスはレボルストに協力の方向で話が進んだとのこと。おそらく本体と行動を共にしてトゴに向けて侵攻を開始するとのことです。」

「そうか…奴の事だ、ジャイフマンの動きにはあらかた気づいてはいるんだろうな。それでもあせらずに行動するように伝えておけ。それと、ナーハ商会の件はどうなった?」

 グリーチはアッツィーネからの情報を受け取りながら作戦資料に目を通す。

「はっ、やはりレボルストとつながっていたらしくAGSを搭載した新型ギルガマシンをすでに配備しているとのことで…。ナーハエレクトロニクスの秘密工場にて量産を成功させていたようです。コードネームは『ビルガータイプ』…本来統括軍がバッツェブールに代わるAGS搭載マシンとして発注をしていたモノの完成品ですね。運搬ルートはマクダナゥ代議士に力を借りているそうで。」

 ベンジャミン・シプレーがコソコソと動く様に憤りは感じるが

「ベンジャミンの狸め…。…だがまだナーハ商会をつぶすのは惜しい、使いようによってはハイネスを陥れることは出来るな。」と感情を抑える。

「とりあえずこの案件は閣下にお任せするほかないですね。…ほかに何か…っと、一つ厄介なことがあるようですね。」

 アッツィーネは手元の資料をパラパラとめくり、ある一か所に目をつける。

 ソファに腰かけるキストロールが足を組みながら耳を傾ける。

「俺たちに関わりのあることか?」

 アッツィーネはファイブ・ヘッズの二人を見ながら、少し冷や汗を流して答える。

「ある意味お二人には関わりがあるかもしれませんね…。セカンド・ヘッズのラフィロ・デ・ポルタ大佐がアルバトロスへの復讐だと言わんばかりにスヴァーナに進行を開始したそうで…。」

「またラフィロの奴か…。サルバーカインとともに目の前でビストブールを奪われた間抜けめが。」

「間抜けなのはラフィロだけよ、中将。あの人バッツェブールを使っておきながらアテンブールに負けているんですもの。少将は巻き込まなないでいただきたいわ。」

 二人の言い争いが始まる前にグリーチが止める。

「セカンド・ヘッズはテフロスの事もある、アルバトロスへの復讐心に燃えているのだろう。放っておけ。それにジャイフマン大佐には例え味方と戦うことがあっても手加減をするなと伝えている、それがどんな相手でもだ。どちらかがやられてしまえばそれまでのこと、運がなかったと言う他ない。」

 それを聞いてアッツィーネはグリーチがどんな人物かを察する。ファイブ・ヘッズの二人の方に目を配るとキストロールは拳銃を磨きながら静かに笑い、ミラージは何かの本を読む。一刻も早くその場から去りたいと思っていたところをグリーチに下がるように言われた彼は敬礼をしてから部屋を後にして、気持ち速足で去っていく。


 建物の中に入ってエイミーに着いて行くサミエルとゴーヴ、長い廊下を突き抜け、クラシックなエレベータが彼らを上層階へと誘う。

 エレベータの扉がズズズ…と大仰に開くと、目の前には再びレッドカーペットの敷かれた一見絢爛な廊下があった。だが所々にシミがなっていて台無しこの上ない。

「もうすぐそこの部屋に全員揃っております。…ご覚悟の程は?」

 エイミーが向こうを指差しながら振り向いて二人に尋ねる。が、面倒ごとはすぐにでも終わらせたいサミエルはさっさと向かわせるように手をパタパタと払う。

 エイミーは廊下の突き当たりにある扉にノックをして、

「お父様、エイミーです。遅くなって申し訳ありません。お客様を連れてまいりました。」

 と告げる。

 開かれてもいない扉の向こうの光景がサミエルには見えるようだった。多分大きな椅子に踏ん反り返る父の姿が、その横に気配を消して小さく座る母の姿が、父に教え込まれた気品ある座り方をする末妹の姿が…。

『…客人だと…?そんなもの呼んだ覚えはないが…。』

「私のお客です。入ってよろしいですね?」

 実の家族のところは客人として呼ばれるのは真実違和感があるが、そもそも家出をしている身であるので赤の他人とも言えるだろう。

『…分かった…、通しなさい。』

 実に無愛想な言い方だが、これで曲がりなりにもナーハ商会を引っ張っているのだから大した男であると思う。正直父親としては疑問を抱くが、商売人としては結果を見せているだけに認めざるを得ない。

 ガチャリと扉を開くとやはりサミエルの想像は当たっていた。家族の座り方は彼女が家を出る前と変わっていない。

 変わったところといえば少し見ない間に両親が老け、妹が大人びたというところだろうか…。

 サミエルの父でナーハ商会の社長、ベンジャミンはエイミーの後ろに立つサミエルを見て驚愕する。

 いや、扉を挟んだ向こうにいる誰もが彼女とゴーヴの姿を見るや否や同じ様な顔をする。

「サミエル、あなた生きていたの…。」母はそれだけ言って後は言葉を詰まらせる。

「サミエルお姉様…?」スターシャは彼女の存在そのものに疑問を抱いている。

「エイミー…、お前の客人というのはこいつらのことか…。」

「そう、サミエルお姉様とゴーヴよ。」

 ベンジャミンはワナワナと体を震えさせながら立ち上がる。その感情が怒りなのか動揺なのかは分からないが決して良い感情を持っているわけではないということだけは分かった。

「…サミエル…、貴様…どのツラを下げてここに来た…!」

「あ、あなた…。」

 立ち上がって今にも殴りに行かんとするベンジャミンを妻、サマンサが止める。

「どのツラ…?よくもぬけぬけと言う…、あんたが不穏な動きさえ見せなければこんなところにいやしないわよ。。」

「なんだと…!ゴーヴ、貴様も貴様だ!なぜお前がついておきながらサミエルを止めないっ…!…百歩譲って統括軍に入っていたことには目を瞑ろう。だが、その後ザンダで失踪し、聞けばアルバトロスに転がり込んでクーデターに参加していたそうではないか!シプレー家を汚す恥さらし共め!」

 サマンサを振り払ってベンジャミンはゴーヴの胸倉をつかむ。が、ゴーヴの巨体はそれだけではびくともしない。つばきを飛ばしながら声を荒げる。だがサミエルはそんな父親に冷え切ったような声で突き放すように言う。

「アタシたちが恥さらし?っは、統括軍に媚びへつらいながら裏でコソコソとこれから勢力を増していくであろう反正規軍の『レボルスト』に協力して、それがバレることを恐れて自分の娘をマクダナゥ代議士口止め料代わりとしてそのせがれに嫁がせようとするあんたのこすい考えの方がよっぽど恥さらしだよ。戦争が終われば最後にはどちらかが負けどちらかが勝つ。その時に両方についていれば利益を生み続けることには違いない。クリスタリアカンパニーだって似たようなことをしているから生き残る手段としては上等だとは思う。でもあんたみたいに実子を政治駆け引きのための道具にするなんて言う汚い手は使っちゃいないさ。」

 ベンジャミンはゴーヴを掴むその手を離し、フラフラと後ろに下がって行く。

 サミエルは一呼吸置くようにエイミーやスターシャと目を合わせる。二人のまなざしはサミエルに対する恐怖心を抱いたものだった。それもそのはずだろう、彼女たちにしてみればこれまで育て上げてくれた父を突如として家を出て行った姉が責めるという光景にしか見えないからだ。

 それを見かねてかこれまで黙っていたスターシャがサミエルに強く当たる。

「やめてください、お姉様!それ以上お父様をいじめるのは!それにロナウド様の悪口をエイミー姉様の前で言うこともやめてください!…あなたがお父様にどんな感情を抱いているかなんて知りませんが、一度このシプレー家を捨て、ナーハ商会を捨てたのですよ!お姉様がいきなり現れて我が家のことに口を挟むなんて道理はありません!私たちのことをお父様の道具などと言わないでください!」

「スターシャ…。」

 エイミーは初めて妹が怒りをむき出しにした姿を見た。

 サミエルとスターシャは性格が真反対であった。そんなか弱かった末妹がこうも言葉を荒らげて歯向かってくることなど予想だにもしなかった。サミエルはぐっと強く握りこぶしを作り、奥歯をくいしばってスターシャを睨みつけるが敵わないとさえ感じさせた。ただひたすらに純粋な心で父を守ろうとする姿だけがそこにはあった。

 事実上絶縁したとは言え同じ血を通わす肉親であることには変わりがない。肉親であるが故、モノを発せずとも分かる見えない大きな力が働いた。こうなってしまえばサミエルは何も言えない。

 それを察してベンジャミンがサミエルに強気に出る。

「お前のようなじゃじゃ馬と違ってこの子らは本当に良い子に育っている。ナーハ商会の明日を担う若者の代表と言ってもいい。ゲリラに手を貸すのも統括軍に援助を求めていたのも何でもない、未来への投資だ!この子達へのな!お前ももう少し素直ならば良かったものを…!」

「汚ねえ…大人のエゴイストかよ…。」

 ゴーヴはベンジャミンの言葉につい漏らしてしまう。「しまった」と思ったときにはすでに遅く、それを聞き逃さなかった男はゴーヴに指をさして鬼の首を取ったようにまくし立てる。

「いつまでも自分を子供だと思っているからそう思えるんだ。いつまでもあんな戦争ごっこに身を投じて何が楽しい!…情勢を冷静に見つめてそれを商売によって利用する。お前も、お前も、それをするだけに十分な家柄に生まれているんだ!それをむざむざ手放す愚か者どもが…。」

 激しい形相を見せながら二人にその人差し指の指先を突きつける。

「…言いたいことはそれだけ?ルトの事もあったし多少は分かり合えると思ったけれど無理だね、これじゃ。アタシたちが出て言って考えを改めると期待をして見たけれどもそれも無駄とは…。ゴーヴ、あの子が羨ましいね。」

「そうだな、お前のうちは特に酷い。」

「あんたが言えた義理かよ。それじゃあ話はこれまで、アルバトロスに帰るから。」

 場違いな二人は家族にそっぽを向いて出口の方へと歩き出す。サミエルは完全に、ここで完全に縁が切れたものとみなした。シプレーという姓を持っていながら全くの他人だと。

 後ろからベンジャミンの声がする。

「まてサミエル!話はまだ終わっていない!貴様らのいるアルバトロスはレボルストに所属したんだぞ!間接的に我々の元に置かれたも同然だ…!」

 何か喚くように言っていたが一切聞く耳を持とうとはしなかった。大きな扉を出られる程度にだけ押し開けて廊下に出る。ギィバタン…。と静かに閉まったドアの向こうではまだ何か言っているが部分部分だけしか聞こえない。

 来た道をそのままの足取りで戻って行く。

「あいかわらずだったな。サミエル。」

「そりゃそうさ、昔からアレの一党独裁状態さ。エイミーもスターシャもそれに母だって単なるマスコットに過ぎないよ。お利口さんに座ってれば良いと思ったんだ。アタシだって一つ間違えていればああだよ。」

 違いねぇや。とゴーヴは呟きながらドシドシと歩く。

 最後に言っていたアルバトロスがレボルストの管轄下に置かれたという話も別に驚きもしなかった。もし本当にそうだとしても彼らはバーナードが何か策あっての事だとわかっていたからである。今度の親子の対面で実の親以上にアルバトロスの面々に対して信頼を寄せているのだと気付かされた。

「…とは言えうちの艦長みたいなのが親でもヤだけどね。」

 ククク…と、サミエルは自分の言葉に苦笑する。


「おう、ルト。ちょいとこいつのことについて知ってる限りのことを教えて欲しい。」

 アルバトロスに戻ったエドゥとニールスは先ほどロナウドJr.から渡された紙片をルトに見せる。

「どれどれ…ロナウド・マクダナゥJr.…って、どこでこんなもの手に入れたのよ!統括政府の議員、ロナウド・マクダナゥの息子の名前じゃない!それにテレフォンナンバーみたいなものも書いてあるし…!」

 まくし立てるように尋ねてくるルトにニールスが順を追って説明を入れる。が、彼女に対しても自分の秘密を隠しているのでその人物が兄に見えただとか言う話はある程度ぼかしながらだったが。

 その説明を受けてなおルトは信じられないと言うような顔で手元の紙片と二人を交互にまじまじと見る。

「マクダナゥと言えば統括政府の中でも超有力者よ。この地球全体の区画管理を担っていると言っても過言ではないわね。あらゆる物資輸送のためのルート提供をしていたりと裏で工作しているから様々な企業がこの人物の顔色伺いしているって話も出るほど。あのクリスタリア・カンパニーも多分この男に関わっているわ。」

 なるほど…。と感嘆をあげながらエドゥは先ほどのことを思い出す。確かにいいとこの坊ちゃんな雰囲気を醸し出していたのがわかる。世間からズレて見知らぬ人物に自分のナンバーを渡すのも納得がいく。

「つまり俺たちは銃火器にも勝る結構な武器を手に入れたと言うことか…。」

「それどころか攻守に優れた秘密兵器ってところかしらね。なんで人違いだけでそれを手に入れられたかが分からないんだけれども、何はともあれこれが本物ならキャップに伝えなきゃね。」

 ルトが自身のメモ帳を取り出して書き込もうとしたその時

 ヴーッ!ヴーッ!

 と、アルバトロスの警報が廊下中にけたたましく鳴り響く。ニールスが近くにあった艦橋直通内線に向かって何があったかを聞く。

「ブリッジ、この警報は?」

 するとバーナードの留守中に艦長代理を任されているククールスが出る。

『スヴァーナの北部に統括軍のギルガマシンと思われる部隊が侵入したそうだ。多分サルバーカイン少将を追って来た部隊かもしれない。機体データ照合は…出た、ビガーズだ!』

「ビガーズと言やぁ…。」

 エドゥがつい最近の記憶を追っていくように空を見上げる。

「テフロス工場で僕らと戦ったセカンド・ヘッズのマシンだ…。」

 ニールスがこれに答える。それを聞いた瞬間エドゥは格納庫に向けて駆け出す。ニールスはそれを目で追うが彼はそのままククールスから話を聞く。

「とりあえず艦長やマクギャバーをアルバトロスに戻すように連絡をしないと…。」

『それならもうやらせている、サキガケもすでにアッシェンサースで待機中だ。こっちは俺たちでなんとかするからニールスもMk-IIをすぐ出られるようにしておいてくれ。おやっさんやジュネスにもザンダガルの準備をさせてる。』

 ククールスの手際の良さに感心している場合ではなかったが一言ありがとう、と添えて内線を切る。受話器を握っていた手をルトの肩にやり、

「それ、任せたよ。」

 と言って彼女もエドゥの後を追う。


「何?セカンド・ヘッズがここを攻撃しようとしている?」

 ハイネス・ダットソンはバーナードからの話を聞く。バーナードはその時にチラとゲタルトの方を見ると眉ひとつ動かさず、また顔色を一切変えることなく平静を保っていた。

 流石だと口には出さずに賞賛する。

 だからこそ本意を探らねはば気が済まなかった。

「ジャイフマン大佐、正直我々としては元フォース・ヘッズの隊長である貴方は疑わしいところがある。いくらダットソン氏が信頼を置こうともこちらからすればいた寝首をかかれるかもわからないような状態だ。ちょうど良いタイミングでセカンド・ヘッズも攻めてきたことだし、そのお手並みを拝見させて頂くという意味でも出撃願えないかな?」

 ゲタルトはそのバーナードの言い方に嫌な顔を見せるが、すぐに表情を戻す。ハイネスはバーナードに対して君、失礼じゃないか!と憤慨するがゲタルトは構いません。と落ち着かせる。

 一瞬の反応、アレが何を意味するのかははっきりと分かるものではなかったがいずれにせよ裏があることには違いないと踏んでいる。グリーチ・エイベルのやり方を誰よりも近くで見ていたバーナードにとっては透視能力でも得たような気持ちでゲタルトを見通していた。

 対するゲタルトも何かを疑っているような、そんなバーナードの瞳を見続けるのが恐ろしくなり、つい目をそらす。

(だが俺はエイベル将軍からどんな相手でも手加減をするなと言われている。敵を騙すためならば味方の命なんぞ安いものだ…。バーナード・J・ガウダス…貴様は実にしたたかな人間だが、貴様だけが賢くとも意味はない。本当に統括軍を裏切ったように見せかければ例えとやかく言ってこようとレボルストよりも立場の弱いアルバトロスに何ができようか。)

 心の中で自分を安心させるように思考し、もう一度バーナードの目を見つめ直したゲタルトは言う、

「確かに、これから共闘しようとしているアルバトロスの面々から嫌われていれば意味がありませんからな。是非やらせていただきましょう。」

 それを聞いたバーナードがニヤリと口角を上げる。その微々たる動きにもゲタルトは反応をしてしまいそうになる。多分緊張の線がプツンと途切れてしまえば滝のような汗が噴き出すだろう。

「わがままを聞き入れてくれて感謝するよ大佐。一応我々の方からもザンダガル…いやアテンブールを出させる。では彼らにはそのように伝えておきましょう。」

「…あぁ、そうしてくれ。ゲタルト隊出撃だ!敵はセカンド・ヘッズのビガーズだ!スヴァーナに入れても第三防衛ラインは絶対に越えさせるなよ!」

 ゲタルトの喝の入った声がフロア全体に響く。いっそう騒がしくなったレボルストの根城をあとにバーナードたちはアルバトロスに急いで戻っていく。


「レボルストに裏切り者のゲタルト・ジャイフマンがいる!だが我々にとっての敵はアルバトロスのアテンブールだ!奴らに与えられた屈辱をここで晴らせ!」

『『『了解!』』』

 ラフィロは一糸乱れぬ隊列を形成しながらスヴァーナに向けて進軍を続ける。それを阻止しようとするレボルストの戦車を潰し、ヘリコを撃ち落とす。ビガーズの無双を止められぬままに次々とやられて行く。

(そうだ、屈辱だ…。シャイダンの前でこの僕のプライドをズタズタにしてくれた礼はしっかりと返してやるぞ、エドゥアルド・タルコット…!)

 憎しみを抱いた男の乗るマシンは鬼気迫るものがあった。そこにレボルストのギルガマシン、ビルガーが現れる。

「新型か?邪魔なんだよ!」

 まるで敵ではないと言わんばかりに払いのけようとする。が、ナーハエレクトロニクスの技術力を結集したそのマシンはただではやられはしない。ビガーズの使うマシンガンのパンチ力程度ではその装甲を剥がすことは出来ない。

「ちいっ、小癪な!全機攻撃をつづけながら距離をとれ!グレネードを使う!」

 マシンガンの連射を緩めることなくビガーズはビルガーから距離をとろうとする。ビルガーはその動きに合わせてホバー移動で接近を試みる。その速さに驚かされるがラフィロは即座に作戦を変更する。

 グレネードの使用を取りやめてからビガーズのメインカメラにブラインドを掛け、強烈なフラッシュを焚く。

「がぁぁ、しまった!探照灯の類か!?」

 その白く眩い光はビルガーのモニタを焼き付かせ、中のパイロットは目くらましに会わせる。目が明るさに慣れぬ隙をついて先ほどと同じ行動をとってグレネードを放り込む。ボンッと大きな破裂音が響くと同時に多くのビルガーの脚部は損傷し、関節部から潤滑油が漏れ出す。先ほどまでの機敏な動きから一変、完璧に沈黙したそれらにビガーズ隊は止めを刺す。

「なんとしてでもスヴァーナを守ろうってのか…。お前ら雑魚には興味はない!」

 ラフィロが再びアクセルを吹かせた時、先鋒のビルガー部隊がやられてことを確認したゲタルトがリスタで後方から襲い掛かる。

「死ねやぁ!」

 大きく飛翔してビガーズに向けてハンマーを振りかざす。ラフィロの部下のとっさの判断でラフィロは守られたが、ビガーズの一機が煙を吹きながら大破し、爆発する。

「なんだ…このリスタ…!フォース・ヘッズか!?」

 リスタの肩に描かれたエンブレムを見てラフィロは納得する。裏切り者、ゲタルト・ジャイフマンのマシンだと。

「まさか本気でこの僕を殺そうなどとはな…、気でも違ったか!ゲタルト!」

「気が違っていればさっきの攻撃だけでお前を殺せていた。こっちにも事情はあってね、その命頂戴する!」

 ハンマーをすれてライフルをかざしたリスタ。ビガーズは同じようにマシンガンを構えなおす。

「格下の貴様に舐めた真似をされるとは思いもしなかったな!お前もまとめてアテンブールと地獄に送ってやる!」

「カマ野郎がっ!」

 ダダッ、ダダダッと銃声が響く。いつの間にかスヴァーナのエリア内に突入する。市内で戦闘が繰り広げられていることに恐れ、建物の雨戸を閉めて体を丸くしながらやり過ごす。そんなことを気にすることもなくフォース・ヘッズとセカンド・ヘッズの異色の戦いは留まることを知らない。


「あいつら…こんな街の真ん中で…。少しは民間人の事も考えろよ…。」

「仕方がない、関係の内住民をどれだけ殺したって興味も抱かないんだからさ。降下するぞ!」

「了解!」

 エドゥのザンダガルとニールスのMk-Ⅱは上空から。サキガケのアッシェンサースは地上からの攻撃をする。ゴーヴがアルバトロスに戻ってきていなかったためにいつもより戦力少な目と言ったところだがフォース・ヘッズを一応は信じてエドゥたちは援護に当たる。

 アレを見る限りこちらの劣勢かな…サキガケ!目が覚めるようなキツイの一発くれてやれ!」

『オーケー、任せろ!』

 アッシェンサースのロングランチャーが火を噴いてビガーズのたむろするところに着弾する。その一発がラフィロたちにエドゥらの存在を知らしめた。

(多分ゲタルト・ジャイフマンは統括軍のスパイに間違いはない。だが、奴はボロを出すような男でもない。ハイネスの信用を完全に得ている、私たちが後ろから攻撃すればレボルスト全てを敵に回すことになる。それだけは避けろ。今は目の前の敵だけを討て。)

 出撃前に議事堂から戻ってきたバーナードが発した言葉を再び頭の中でリピートする。多分彼はどういう方法でかは見当もつかないがゲタルトを殺すつもりでいることもわかった。ただ今は、今だけは何が何でも彼の味方のふりをせねばならない。エドゥはぐんと機体の高度を下げてザンダガルを変形させる。

(来たか、アテンブール。)

 先ほどの攻撃でビガーズとの間合いができたゲタルトが後方上空を見る。

 土煙が晴れたとき、ラフィロもザンダガルの姿を見て目の色を変える。憎き敵がやすやすと現れてくれたことに怒りと興奮の入り混じった感情を出す。

 ダンッとザンダガルが地上に降り立つと同時にビガーズは動く。しかしゲタルトがそうはさせまいとリスタの腹部の連装砲を撃つ。ビガーズの機体に穴をあけながら、それでもラフィロは止まらない。ビガーズの腕がリスタの軽い機体を持ち上げて投げ捨てるようにたたきつける。ゲタルトは一瞬気を失いかけるものの血痰をペッと吐き出し、自分の部下をビガーズにとりつかせる。

「すまんなラフィロ、これでお前も終わりだ。」

「慢心だな、勝ったと思ったか!」

 ビガーズ一機に対して三機のリスタを使ったゲタルト、だがラフィロ以外のマシンがフリーになっている。起き上がろうとするゲタルトを叩き潰そうとしている。だが、ゲタルトは目も瞑らずにその様子を笑ってまるで他人事のように眺めていた。

 なんだ!とラフィロが反応するよりも早くビガーズが爆発する。

 ニールスのMk-Ⅱがそれのどてっぱらをミサイルで貫いていた。

(スパイの手助けをするなんてのは癪だが、ここで死なれちゃ困る。)

「どうだ!次!」

 Mk-Ⅱの後方をアッシェンサースやレスロッドたちが援護し残りのビガーズを取り囲む。

『た、隊長!』

「バカやろう!情けない声を出すな、それでもセカンド・ヘッズか!」

 Mk-Ⅱは振り向きざまにもう一機のビガーズを落とす。形勢逆転とばかりにリスタもMk-Ⅱの後に続く。

「クソ!本当に魂までもゲリラ共に売り払ったか、このド外道め!」

 ラフィロはそんな状況を見ながらゲタルトに吐き捨てるように言う。だがゲタルトは逆に挑発をし返す。

「戦いとは常に戦況がコロコロと変わるものさ、お前にはそれが読めなかったんだよ。ラフィロ!」

 ラフィロは左ひじを自分を羽交い絞めにしてくるリスタに食らわせて。残る二機を持ち上げて振り払う。ゲタルトは先ほどから立ち上がろうにもビガーズに投げられた時の衝撃かマシンの膝関節がバカになっているために動けない。必死にもがきながらライフルをビガーズに向けて撃つが上手くはいかない。

「僕の敵はその後ろにいるアテンブールだ!おとなしく死んでくれ!」

 ビガーズは走り出し、エドゥのザンダガルに迫る。

「来るか…!ビガーズっ!」

 エドゥはバルカンポッドを放ちながら相手につけ入る隙を与えまいとする。しっかりと照準を定めてキャノンも使う。だがラフィロの動きは雪山、テフロス工場で見た時よりもキレのあるものだった。

「速い!?違う、翻弄されているんだ!」

「驚いたか、エドゥアルド・タルコット。一朝一夕で乗りこなしたようななまくらマシンとは違う、ファイブ・ヘッズの一員として選ばれる前から愛機として使ってきたビガーズは僕の体そのものだ!」

「エドゥアルド!」

 ゲタルトの叫びは耳には入らなかった。ビガーズもミサイルを撃ち込んで来る。それを避けるたびに後ろの民家やビルディングへの損害が増えていく。同じようにエドゥの放つミサイルやバルカンの弾も避けられてしまえば街の破壊につながる。それは避けたかった。

(ニールスが何を言うか分からないが、気にしたら負けだ…!だが、最善の策だけは…!)

 足や腕の一本、二本をくれてやる、そんな意気込みで改装されたザンダガルを包む重い装甲部分を緊急パージする。勢いよく飛び出た装甲にビガーズは襲われ大きく後ろへ倒れこむ。ザンダガルは高くジャンプして動けないビガーズにミサイルを浴びせる。

「そんな、僕が…!この僕が!あぁっ!」

 ミサイルの爆炎が晴れたときビガーズの姿は見るも無残なものだった。直観的にそれを感じ取ったセカンド・ヘッズの残る部隊は『ひ、引き上げだっー!』と言い残して早々とスヴァーナの領域から脱出しようとする。リスタ数機がそれを追って逃げたビガーズのうち二機を墜とす。

 アルバトロスのパイロットたちはその様子をただ見守るだけでいた。

 小競り合い程度のその戦闘はスヴァーナ戦の残存部隊による最後の抵抗というだけに片づけられた。


「我が軍のビルガータイプは五機、ゲタルト隊のリスタタイプは三機失った。それに対してアルバトロスのマシンの損害はゼロ…。君たちの事を疑っていたわけではないが、確かにこの状況を見せられてはこれまでの噂も信じざるを得ないな。」

 ハイネスが報告書に目を通しながらリーダー然とした態度をとりながらソファに深く腰掛ける。バーナードにはそのいちいちのえらそうな行動が気に食わなかった。代わりにゲタルトに対して当てこすりをする。

「いや、私こそ大佐を疑って悪かった。あれだけ命を懸けるとは思いもよらなかったよ。これで互いに腹の探り合いはしなくてすみそうですな、ダットソン同志。」

「そう思っていただけるだけで自分も随分救われます。ただ、今回の事でグリーチ・エイベルの動きは分かりましたな。」

 バーナードが何を言いたいかを察してゲタルトは話題の転換をする。セカンド・ヘッズの動きを見る限り、グリーチがレボルストではなくアルバトロスっを狙いに定めているのではないかとハイネスに伝える。無論それは大嘘である、ラフィロがエドゥに対する私怨が今回の戦闘を引き起こしただけだ。ゲタルトはグリーチからのレボルストに潜入し組織の内部崩壊を命令されている。そこから目を背けるための要因として今回の出来事はただ運が良かっただけに過ぎない。

「やはり、そうなるとレボルストの力を借りませんと私たちの存亡の機ですなぁ…。ま、これから仲良くやりましょうや。」

 その言葉は自分でもなかなか上っ面だけの言葉だな、とバーナードは感じた。


「サミエル、ゴーヴ。お前らどこに行ってたんだよ?戦闘に巻き込まれていないかってみんな心配してたぜ。」

 エドゥはドリンクを飲みながらアルバトロスに帰ってきた二人に声をかける。サミエルはどっと疲れたような顔を見せていたので、エドゥは彼女とゴーヴにドリンクをおごる。

「ほらよ、これでも飲め。」

「悪いね、エドゥ。プハァッ!アタシらは特に大したことなかったよ。ちょっと大きな街ってんで何か役に立つものはないかと探索でもしてたのさ、そっちは?話に聞くとザンダガルの装甲がボロボロになっちまったって聞くけれども。

「あぁ、毎回何でここまで壊してくるんだっておやっさんにどやされたよ。それよりもさスゲェもの手に入れちまった!」

 エドゥは二人を手招きしてわざとらしく小声で話す。

「統括軍関係者の息子のプライベートナンバーってのを偶然手に入れてよ。裏でこっそりと奴らの情報が手に入れられるようになったかもしれないんだ。名前は確か…ドナルドだかロナウドだかって言ったな…。」

「「ロナウド!?」」

 二人はその名前を聞いて驚嘆する。

「もしかして、ロナウド・マクダナゥJr.?」

「そうだ、そんな名前だ!なんだ知ってたのかよ。じゃあ話しても意味がないな。」

「いや、その話。よく聞かせてほしいね…。」

 サミエルは先ほどよりも身を乗り出してエドゥから詳しい話を聞こうとする。エドゥは訳が分からなかったがそこまでいうなら、とそこに至った経緯を話す。

 ここにスヴァーナで起こった彼らを取り巻く状況が点から線へ、線から面へと変わった。

 そのすべての中心に立つアルバトロス。その運命が転がる行方は、さて…。

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